第35話 珍客
俺は『衛星』から、発せられる点滅を何度も確認して、その状況が間違い無い事を知る。
「どういう状況で、こうなったのかはわからないが、このままにしてもおけないだろう……」
「どうかしたの? ライル、なんか難しい顔をしてるよ」
「ライル、頭を打っておかしくなった? 」
ノーチェとリールにも、話しておいた方が良い。この先の事を考えて……
「実は、能力で確認したんだけど、どうも、知り合いが困った状況にあるようなんだ」
「大変じゃない。その知り合いって家族の方? 」
「違う。以前知り合った冒険者だ」
「早く助けに行かないと、ライル、お姉ちゃん……」
「そうよ。何、のんびりしてるの。ライル、行くわよ! 」
「う〜〜ん。そんなに急がなくても危険じゃないって言うか、それより、どうすればいいか……」
「もう、何、ライルは言ってるの? 私が転移して行くわ。どこよ。場所を教えなさい!」
「ここだよ」
「ここだよ、ってどこ? ライルがいたミスティナ国、それともクロウ勇国とか言うところ? 」
「違うよ。ノーチェ、ここ竜の里だよ」
「えっ!? 」
「どうやら、ノーチェの時とは違うかもしれないけどこの里に迷いこんだみたいだ」
「じゃあ、きっと、あそこね。黄色い実がなる木のある場所」
「正解、それにその木は柿の木だよ。大きな怪我はしてないみたいだけど、なんか混乱してる様子だ」
「わかった。私が先に行ってるね」
そう言って、ノーチェはさっさと転移して行ってしまった。
さっきまでノーチェのいた場所には、白い下着が落ちている……
「こらっ、リール、それで、遊ぶんじゃない! 」
◇◇
「ライル、行かないの? 」
「行くよ。でも、どう説明しようか迷ってたんだ」
「そうなんだ。でも、早くノーチェお姉ちゃんにこれ渡さないと風邪ひいちゃうよ」
「そうだな。でも、誰もいないところで渡すんだよ。じゃないと、ノーチェが、また般若みたいになるから」
「わかった〜〜」
「だから、リール。それを被っちゃダメだよ」
「え〜〜なんで? 」
「ノーチェに怒られるよ」
「お姉ちゃんが忘れていくからいけないんだよ」
「忘れてたわけじゃないと思うけど……」
「俺が預かっておくよ」
「ライルが預かって何するの? 」
「何もしないよ。それに、そんなに引っ張っちゃダメだってーー! 」
「だって、伸びるんだもん」
「そうなんだ……じゃなくって、リール、渡してくれる? 」
「いやだ。ライルがこれで、遊ぶんでしょう? 」
「遊ばないよ」
「ライルも被って遊ぶんでしょう? 」
「被らないよ! もう、どうしよう……」
俺とリールは、ノーチェの落し物を巡って話が難航し、駆けつけるのが遅くなってしまった。
…………
「大丈夫ですか? 」
「わっ! 君は、いったいどこから現れたんだ? 」
「転移してきました。それより、大丈夫ですか? 怪我とかしてませんか? 」
「転移!? ……あぁ、少し、混乱しているが怪我はないようだ。ここは、どこなのだ? 」
「ここは竜の里です」
「竜の里!? 聞いた事がない……」
「竜達が住む里です」
「えっ!? き、君は、もしかして、竜なのか? 私を食べに来たのか? 」
「違います、私は、ハーフバンパイヤです。竜ではありません」
「ハーフバンパイヤ……そうか、ここは、冥界なのだな……私は、死んだのか……」
「もう、違います。ここは竜の里です。それにあなたは死んでません」
「いいよ……慰めなんて……これでも、冒険者の端くれだ。いつかは、こうなる事も考えていた……」
「もう、この人、全然、話が通じないんだから、早く、ライル来ないかしら」
「ライル……それは、地獄の番人の名か? そうか、私は地獄に落ちたんだな……」
………………
「メンデルさん。俺を地獄の番人にしないで下さい」
その場にやっと俺とリールは転移してきた。遅くなった理由は、割愛する……
「き、君は……ラビス君!? そうか、君が私を迎えに来たのか……それで、私の魂は何処に行けばいいんだ? 」
「メンデルさん。頭打ちましたか? 」
「いや、打ってないと思うが……」
「貴女は生きてますよ。ここは、竜の里。地下にある亜空間です。俺が、黒竜と一緒にここに来たのが約一年前です」
「地下? 亜空間? 」
確かに混乱するだろうけど……
「話は、後で、ノーチェ、屋敷に戻ろうか? お茶でも飲みながら説明しよう」
「そうだね。その方がいいみたい」
「メンデルさん。俺に捕まって下さい。では行きますよ」
俺は、みんなを連れて屋敷に戻った。
◇
混乱しているメンデルさんを落ち着かせようと、まず、お風呂に入ってもらった。リールも汗をかいたようで、ノーチェも一緒に入っている。
女性達がお風呂に入っている間、帰ってきたナハトを捕まえて簡単な料理を作ってもらった。
そんな時、ユオが薬師さんところから帰ってきた。事情を説明すると、
「あ〜〜私もみんなとお風呂に入りたかったです〜〜」
「ユオも入ってくれば? 」
「う〜〜ん、今回は遠慮しておきましょう。私は心が落ち着くお茶の用意でもしますね」
そう言って台所に向かった。
何もする事がないので、居間で、どう説明するか考えていると、ノーチェがお風呂場から大きな声で叫んでいる。
「ライル〜〜!! 」
「どうしたの? ノーチェ」
「やっと、きたよ。さっきから呼んでたんだからね」
「そうだったか、すまん。で、よう? 」
「そう。メンデルさんの服を買ってきて欲しいの? 下着もね」
「なぬ……それは、俺が行かなければならないのか? 」
「だって、私、お風呂入っちゃてるし、あんまり、長い時間、メンデルさん、待たせてものぼせちゃうし……」
「そうか、サイズがわからんがどうすればいい? 」
「そうね〜〜胸は大きくて、腰は細くて、お尻は安産型よ」
「それ、サイズなのか? 」
「多分、それで、わかると思うよ。お店の人に聞いてね」
「わかった……」
これは、難しいミッションが発生してしまった。
時間は、そんなにない。
お風呂に入った時間を考えると、あと、10分以内にコンプリートしなければ、のぼせる可能性がある。
俺は、転移して街の洋服店に向かった。
「す、すみません……」
「あら、可愛い子ね。確か、ノーチェちゃんといつも一緒にいる」
「はい。ライルと言います」
「そうそう、ライル君、それでお姉さんに何か用? 」
「はい……20歳ぐらいの女性の服を一式お願いします」
「女性の服でいいのね。下着は? 」
「多分、必要だと思います」
「でも、サイズがわからないとね〜〜」
「えっと、胸は大きくて、腰は細くて、お尻が安産型だそうです。それと、身長は、168センチぐらいだと思います」
「わかったわ。ちょっと待っててね」
今のでわかったのか……恐るべし、アパレル店員……
「これで、いいかしら。趣味とかあると思うけど、無難なのを持ってきたわ」
俺が見てもよくわからん……
「じゃあ、それ、下さい」
「よかったわ。じゃあ、これね」
「はい……」
俺は、お金を払ってその服一式を受け取る。
そして、転移で屋敷に戻った……
「約、9分58秒……ミッション、コンプリートだな……」
俺は、服を持って浴室の前に行き、
「ノーチェ、メンデルさんの服を買ってきたよ。ここに、置いておくね」
「ありがとう。ライル〜〜」
ふぅ〜〜仕事をこなした後の達成感は、いいものだな……
俺は、居間に戻り椅子に腰掛ける。
すると、女性達がお風呂から上がってきたようだ。
「ライル、さっきはありがとね」
「あぁ、少し難しい課題だったけどね……」
「ライル〜〜お風呂楽しかった。大きいお姉ちゃん、胸がお母さんみたいだった」
「そうか、リール、髪の毛乾かさないと風邪引くぞ」
俺は、風魔法と火魔法を重ねがけして、温風を作り出す。
リールの髪が乾いて行く。
そこに、ノーチェもやってきた。
「私も〜〜」
2人の髪を乾かすと
「そういえば、メンデルさんは? 」
「ライルが買ってきた服を着たんだけど、恥ずかしがって出てこないのよ」
そんなに、恥ずかしい服だったか?
「私、呼んでくる〜〜」
リールが駆けて行った。メンデルさんを引っ張って無理矢理、居間に連れてきた。
「メンデルさん、服、似合ってますよ」
「な、な、何を言ってる〜〜ラビス君、私は、冒険者になって、もう、何年もこんな、ヒラヒラの服、着たことないのだぞ〜〜」
そういえば、あの時もズボンだったような……
「ねっ、言ったでしょう? メンデルさん、似合ってるって〜〜」
「ノーチェさん。私は冒険者であって、こんな女性っぽい服など〜〜恥ずかしくって……あぁ、もうダメだ。そうか、ここは、羞恥地獄だったのか〜〜私を辱めて、イジメる気だな〜〜」
羞恥地獄なんて、この世界にあるのか?
「もう、さっきからこんな調子なのよ。どうしたらいい? 」
すると、ユオ達がやってきて、
「わぁ、綺麗な人、ねぇ、ねぇ、主任、このお方が主任のいい人なのですか? 」
何を言ってるの? ユオは……
「おおう、まぁ、ババアだけど、いいんじゃねぇ〜〜」
ナハトは、まぁ、お前はそういう奴だ……
「とにかく皆さん、座って下さい! ユオ、悪いけどお茶をもらえるか? 」
「は〜〜い。用意しま〜〜す。お兄ちゃんも、食事の用意できてるんでしょう? さっさと運ぼうね」
「おう、ユオの為ならすぐにやるぜ! 」
ユオが持ってきてくれたお茶を飲みながら、話を始める。
「メンデルさん。お久しぶりです。あの時、護衛してもらった時以来です。その節は、驚かせてしまって申し訳ないと思っています」
「ラビス君……そうか、ここは、本当に竜の里というところなのだな……」
「はい。メンデルさんはなんでここに? 」
「それが、よくわからないんだ。あの後、『四面楚歌』のパーティーを抜けて、自己研鑽の為、ミスティナ皇国の北部にある迷宮都市で迷宮に潜って鍛錬をしていたのだが、あの日、15階層のところで、ミノタウルスの大群に襲われて、寄りかかっていた壁が崩れたんだ。そしたらここにいた、ということだ」
「そうだったんですか……この竜の里は、地下の亜空間なのですがたまに迷宮と繋がるそうなんです」
「では、私はその亜空間に繋がったお陰で、運良く助かったという訳か……」
「そうだと思います」
「でも、こんなところでラビス君に会えるなんて、私は本当に運が良い。そして、私は君に会ったら言わなければならない事があった。その為に、私は、自己鍛錬に励んでいたんだ」
「言わなければいけない事ですか? 俺に? 」
「そうだ。あの時、私は過ちを犯した。圧倒的な強さを持つ黒竜の前に死を覚悟していた。それを、君が呆気なく倒してしまって、私は君を恐れてしまった。
私は、冒険者でその依頼内容は、君達の護衛だった。それを、自己の弱さの為に仕事を放棄し護衛対象である君を突き放してしまった。守ってあげなくてはいけない人をだ……
あの時から、私は、後悔してばかりだ。何故、話をきちんと聞かなかったのか、何故、君は強さを持っていたのか、私達を助けてくれた君をバケモノ扱いしてしまったのか、後悔しても仕切れなかった……
だから、そんな弱い自分を追い込み、君に恥じない生き方を模索していたんだ……
でも、私は君とは、もう会えないと思っていた。だから、君が幽霊でも君に会いたいと思っていた。私は愚かだった。許してくれ、ラビス君……」
あの時の事を、そんなに悔いていたのか……
「わかりました。俺も正直に話しましょう。あの時、俺は力を持っていましたが、それを隠していました。それは、自己保身からくるものでした。
ですが、みんなが危険な状態でしたので、後先考えずに力を行使しました。その時、家族やメンデルさんを含む冒険者の方々に恐れられました。
正直、辛かったです。でも、それも過去の事です。俺はここにいる人たちのお陰で救われました。
ノーチェは、俺を同類としてみてくれました。その暖かさはまるで心を癒し安らぎを与えてくれる女神のような存在です。
ユオは、俺の弱さを怒ってくれました。ユオが背中を押してくれなければ、家族と和解できなかったと思います。感謝してもしきれません。
ナハトは、俺と一緒に歩んでくれてます。時にはライバルとして、時には、友人として俺のそばで同じ速度で歩んでくれるのです。
それと、リールは俺に生きがいをくれました。リールと一緒にいる事で、俺も成長できます。そんな仲間に救われたのです。
だから、俺は、メンデルさんを許します」
「そうか……君は、ここにいる友人達に救われたのだな……ありがとう。ラビス君、これで私も成仏できる……そろそろ、私の魂を連れて行ってくれ……」
「あの〜〜まだ、誤解があるようですが、俺は幽霊じゃありませんよ。ちゃんと生きてます。それに、メンデルさんもです」
「……………」
直ぐには、メンデルさんの誤解は解けそうもなかった。
うむ、困った……




