第28話 青竜の屋敷
広い湖で水鳥達が、羽根を休めている。
空は、青く、たなびく雲が、目を和ませる。
季節の花が、色とりどりに咲き誇っている。
そんな、湖を見渡せるところに、青竜の屋敷はあった。
「凄いな」
「綺麗な場所ね〜〜」
「何ですか、ここは、桃源郷ですか? 」
「お、あの鳥美味そうだぜ」
俺達、4人は、青竜に連れられて、王城からここに転移して着いたばかりだ。
『みんな〜〜こっちよ〜〜』
青竜が、景色に見惚れている俺達を屋敷に呼んでいる。
屋敷は、可愛らしい作りだ。まるで、大きめの湖畔のペンションのような感じがする。
屋敷に入ると、
「何だろう? この鰐の二足歩行動物は……」
『あ、みんなは、リザードマンを見た事ないの? 屋敷の管理と使用人をしてもらってるのよ』
そういえば、あちこちで、花の手入れや、草刈りなどをしている。
『こう見えて、優秀なのよ。みんな、仲良くしてやってね』
「はい」
リザードマンに居間に案内された俺達は、今、お茶を頂いている。
オレンジの香りがする爽やかなお茶だ。
「美味しい」
「本当、美味しいです。オレンジの香りが心を落ち着かせます」
ノーチェやユオは、大絶賛だ。
俺は、飲めれば、何でも構わないし、ナハトは……
「う〜〜ん、オレンジの皮を乾燥させ、ハーブと混ぜたのか……」
研究していた……
「青竜様、ここは、大森林のどこら辺なのでしょう? 」
衛星を使っても、大森林にこのような場所はない。
『ここは、大森林の中央から北に行ったところにある私の造った亜空間よ』
「ここは、亜空間なんですか? 凄いですね」
『ありがとう。ここに、お客を招いたのは。あなた方が初めてよ』
「そうでしたか、嬉しい限りです」
『ライル君は、小さいのに、面白い子ね。お姉さん、興味があるわ〜〜』
ノーチェとユオの目が光った気がする。
きっと、気のせいだろう……
『今日は、ここに泊まっていってね。明日、神樹に向かえばいいわ』
「はい。ご好意に甘えさせて頂きます」
『あとで、部屋に案内するわね。それまで、自由にしてて構わないわよ』
「はい」
桃源郷ならぬ青竜様の亜空間で、俺達は、少し、羽根を伸ばすのだった。
◇
この青竜の屋敷で、俺は、湖畔を散歩していた。
ノーチェを誘ったのだが、ユオとお茶の事で相談があるとか言って、断られてしまった。あの件以来、少し避けられているように思える。2人は、台所で、話をしている。
ナハトは、リザードマンに教わって釣りをするそうだ。
俺は、少し歩いて、寝転がれる場所を選び、そこに横になった。
長閑な場所だ……
湖を見ていると、湖面に波紋が広がる。
魚でもいるのか……
その波紋は、大きくなったり小さくなったりしていた。
俺は、そんな湖を不思議そうに見ていると
「お主はここでなにしてる? 」
どこからか声が聞こえた。
すると、湖の岸間際に、ちょこんと顔を出してこちらを見ている魚がいる。
「もしかして、話しかけてきたのは、あなたですか? 」
「そうじゃ」
綺麗な模様の錦鯉みたいだな……
「あの、何か用ですか?」
「ここは、青竜の住処じゃ。許可無き者は立ち入ってはならん」
「青竜様に招かれて、ここに来たので問題ないと思います」
「そうであったか、それは、珍しい事もあるものじゃ」
「用が無ければ私は、行きます」
「待て。お主、名を何と申す」
「ライルですけど」
「ライル、それは、本当の名ではないだろう? 」
「はい。わかるのですか? 」
「わははは、わしにわからんことなどないわ」
「そうですか、ラビスと言います。でも、ライルを名乗ってます」
「そうか、では、ライルよ。お主は、異界人だな? 」
「そんな事まで、わかるのですか? 」
「あぁ、それもアステルの使徒に拝命されておるようじゃ」
「凄いです。全部、当たってます」
「そうか、そうか、しかし、難儀な事よのう。お主には、過酷な運命が待っているようじゃ」
「できれば、それは、外れてほしいです」
「わははは、お主、面白いやつじゃ。だが、お主の持つ力、何に使う? 」
「できれば、使わないで過ごしたいです」
「それは、叶わぬ夢じゃ。力あるものは、力を呼び寄せる。ここに、来たのも、そういう事じゃろう? 」
「確かに、そうですけど」
「まぁ、その力に溺れるでないぞ」
「はい。肝に命じておきます」
「良かろう。では、またな、少年」
そう言って髭の生えた鯉は、湖の中に潜っていった。
しかし、何だったんだ?
屋敷の戻ると、青竜が、俺を探していた。
「あら、良かった。用があったのよ」
「そうなんですか? そういえば、さっき、湖で、鯉に話しかけられました」
「えっ、そうなの? もう、嫌になっちゃうわ。何か、言われたかしら? 」
「はい。俺の事を全て見通していました。それに、力の事も」
「もう、あれ程言ったのに、困った夫ね」
「えっ!? 夫? 」
「そうよ。錦鯉でしょう。私の旦那なの。挨拶しなかったのかしら」
青竜の旦那って、あの鯉だったの?
「青竜様は、お若いから独身だと思ってました」
「上手ね。もう、変な事言われても気にしちゃダメよ。あとで、言っとかなくっちゃ」
「いいえ。変な事は言われてないです。とても聡明な方だと思います」
「良かったわ。私が貴方を探してたのは、夫を紹介するつもりだったの。でも、もう、その必要はないわね」
そう言って青竜は、湖の方に行ってしまった。
その後、夕食の時に、その鯉は、みんなに紹介された。小さな金魚鉢に身を乗り出した姿を見て、みんなは、驚いていた。
◇◇◇
……ランドル男爵領 ロクトの街の屋敷では……
メリーナは、ここ何日か、引きこもりがちの生活を送っていた。
もちろん、ラビスの件で、落ち込んでいたからだ。
自分を責め、悩んでいた。
でも、その日の朝は、いつもと違った。
目が覚めると、机の上に見慣れないものが置いてあったからだ。
「何、これ? 」
メリーナは、剣を取り、鞘から刀身をのぞかせた。
見た事ない白い剣だ。でも、凄く綺麗……
そして、水晶をはめ込んだペンダントもある。
すると、その下に、白い封筒があった。
「手紙? 随分、高級そうね。父様が心配して届けてくれたのかしら」
メリーナは、その手紙を読んだ。
すると、
「えっ!? ラビス。ラビスなの? 」
メリーナは、慌てて、その手紙を持って、部屋を出る。向かった先は、母様のところだ。
「部屋にいない……もしかして、居間? 」
慌てて、階段を降り、居間に行くと、
母様の他に侍女のエリス、騎士のフリードとその妻、ミリーがいた。
「母様、大変、大変、ラビスが、ラビスからの手紙が届いてたの! 」
「メリーナ、昨夜ね。ラビスが逢いに来てくれたのよ」
「えっーー! 何で私を起こしてくれなかったの? 」
「ごめんなさいね。でも、ラビスが、メリーナが気持ちよさそうに寝てたからって言ってたわ」
「そんなぁ〜〜、でも、ラビスが、ラビスが生きてた。わぁ〜〜」
メリーナは、堪え切れず泣いてしまった。
侍女のエリスが、メリーナを席につかせ落ち着かせる。
「メリーナ、今、みんなに説明してたところなのよ。ラビスは、竜の里ってところにいて、友達と一緒に元気に暮らしているみたいよ」
「クスン、クスン……なんで帰ってこないの? 」
「それはね。ラビスが、アステル神から途方もつかない能力を授かっているからよ。この間の黒竜をやっつけたみたいな能力をね」
「だって、ラビスは、風魔法のギフトしかもらってないのよ」
「それは、偽装したそうよ。ラビスの能力は、この世界を滅ぼす事もできる能力なんですって、私も、詳しい事までは聞かなかったけど、隠すにも限界がきたみたい。それに、家族に隠してた事を悔いていたわ」
「それって、凄い事なんじゃないの? 自慢すればいい」
「もの凄い能力は、人を狂わせるわ。例えば、ラビスを戦争の道具にしようとするとかね。王家だって黙ってないわ。そんな力を持ってたら、危険分子として処分されてしまうかもしれない。それも、私達家族も同罪として処分されかねないわ」
「そんな酷いことを……」
「そうよ。権力者達は、自分の言うことを聞かないものは、徹底的に攻撃するものよ。だから、ラビスは、家を出てったらしいの」
「じゃ、もう、会えないの? 母様だけ会ってズルい。私もラビスに会いたい」
「そうね、ごめんなさい。でも、時々、帰ってくるって言ってたわ。だから、一生会えないわけじゃないのよ」
「でも、でも……私も竜の里に行きたい」
「それが、何処にあるかわからないんですって、亜空間とか言うところにあるらしいわ」
「亜空間? 」
「えぇ、別の世界みたいなものかしら」
「そんなぁ〜〜」
「ラビスもみんなと会えない辛さと戦ってたわ。でも、ラビスじゃなきゃ、できないことがあるようよ。だから、今、頑張ってるみたい」
「そうなんだ……母様、私、私も頑張る」
「そうね。私も頑張らないといけないわね」
「母様、私やっぱり、クロウ勇国に行く。勉強して、鍛錬して、冒険者になりたい。今度、ラビスに会った時に笑われないようになりたい」
「そうね。私もいつまでも悔やんでても始まらないわね。メリーナの手配するわ。それから、皇都にいるお父さんにも手紙を書かなきゃね」
ランドル家は、一先ず、落ち着きを取り戻すのであった。




