第27話 約束
真夜中、俺は、自室で『衛星』を起動して、状況を確認していた。
目的地は、ランドル家屋敷内。つまり、俺が育った家だ。
ユオに言われて、手紙を書いた。
家族が、俺の事をバケモノとして、怖がっているのなら、まだ、時間が必要だと思ったからだ。
この竜の里には、紙が豊富にあった。ここに、迷い込み住んでる人達が、外界との連絡手段に使う為、需要が多いようだ。
俺は、手紙に、自身の無事と友達のことを書いて封をする。
俺は、怖気ついている自分に、喝を入れ、ランドル家の自分の部屋に転移した。
懐かしい……
暗闇の中、周りの様子は、良く分からないが、その場の空気が、匂いが、ライルではなくラビスとしての感覚を呼び覚ます。
随分、綺麗になってる。
俺がいない間も掃除してくれてたんだ……
俺は、小さい頃から世話になってる侍女エリスの顔を思い浮かべた。だが、
時間は、有限だ。ここで、立ち止まってては、何も進まない……
俺は、まず、メリーナ姉さんのところに行こうと思ってた。
部屋も隣だし、それに、俺が、出て行ってから、自分の部屋を出ていない様子だったからだ。
メリーナ姉さんの部屋に入る。
姉さんは、横を向きながら、枕を抱いて寝ていた。
俺を抱き枕変わりによくしていたなぁ……
亜空間収納から手紙と黒竜の牙で作った剣、それと、封印の水晶のペンダントを机の上におき、そっと、手紙を添える。
『むにゃ、むにゃ、ラビスのバカ……』
夢の中で俺は、怒られているようだ……
姉さんの顔を覗き込みと、少し痩せたように思える。
こうして、会ってみると、バケモノって言われ、拒絶されても、ここにいたい、と思ってしまう。
俺は、後ろ髪を引かれる思いで、姉さんの部屋を出て行った。
次は、母さんの部屋だ。父さんは、まだ、皇都にいるようだ。
母さんの部屋に入ると、俺は、手紙と、水晶のペンダントをテーブルの上に置いた。
その時、
「誰? 」
そういえば、母さんは、気配察知が優れてるんだった……
「誰、誰なの?……もしかして、ラビス? 」
どうしよう……正直、手紙を置いて帰ろうと思ってた。会って話すシュミレーションは、まだ、してない。
俺は、どうしようか、迷っている。
怖い……
でも、話したい……
突っ立ったまま、呆然と悩んでいると、いきなり、俺は抱きしめられた。
「ラビス、ラビス、生きてて良かった……本当に良かった……」
母さんは、泣いているようだった。
俺も、感情が溢れ、涙が滝のように流れ出した。
「母様……」
「ごめんね。ごめんね。ラビス、ラビス……」
呪文もように謝り続ける、母さんの言葉が、深く、深く推し込んだ心の中の思いを表に出させた。
「母様、俺、辛かった、バケモノって言われて、みんなに怖がられて、辛かった……」
「ごめんなさい、ごめんなさい。ラビス……」
俺は、母さんの胸の中で、氷凍てついた心が溶かされていく、そんな暖かさを感じていた。
◇
あれから、どれ程時間が経っただろう。
俺は、母さんといろいろと話し合った。
前世の記憶がある事。
橋から落ちた時、その記憶が戻った事。
アステル神から、人には言えない能力を授かっている事。
それから、竜の里の事。
友達ができた事。
母さんは、嬉しそうに俺の話を聞いてくれた。
そして、
「ラビスは、また、竜の里に行っちゃうの? 」
「うん、まだ、やる事があるから」
「じゃあ、あなたの友達を連れてきてちょうだい。歓迎するわ」
「うん。用事が済んだら、みんなに相談してみるよ」
「それと、メリーナにも会ってみない? 」
「さっき、顔を覗いてきたよ。気持ちよさそうに寝てたけど」
「そうよね。いきなり、全部は無理よね」
「友達が僕の背を押してくれなかったら、ここには、こないつもりだった」
「覚悟を持って、そう、思ってたのね。でも、家族なんだから、いつでも帰ってらっしゃい。メリーナもエリスも凄く心配してたわ。もちろん、他の家族達もよ。でも、こうしてラビスが生きていてくれた。私は、これだけでも満足だわ。ううん。本当は、満足してない。一緒に暮らしたいわ。前みたいにね。でも、きっと、ラビスには、何かをやり遂げなければならない事があるのね。でも、私は、あなたのお母さんなんだから、わがまま言っていいのよ。辛くなったら、帰ってきなさい」
「うん、ありがとう、母さん」
「母様より、そっちの方がいいわ」
「わかった。母さんも無理しないでね」
「大丈夫よ。私は、それより、ラビス、風邪ひかないようにね。暖かくしてるのよ。熱出したら、頭を冷やして寝てるのよ。無理はしちゃダメですからね」
「母さん、大丈夫だよ。そろそろ、いくね」
「そうね、また、帰って来るのよ」
「うん……」
もう、辺りは明るくなってきていた。
俺は、母さんの目の前で、竜の里に転移した。
◇◇
竜の里の屋敷の帰ると、俺は、ベッドに横たわり、目を閉じた。
起きていても、いろいろ考えてしまうだけだ。
嬉しかった……
母さんに受け入れられて……
俺は、そう思いながら、いつの間にか寝てしまったようだ。
目が覚めると、もう、昼を過ぎていた。
下に降りると、誰もいない。
衛星を展開して、みんなの居場所を確認する。
ナハトは、ブラドと稽古をしている。
ユオは、古竜と魔法の訓練をしてるようだ。
ノーチェは……
あれ、丘の木のところにいる。
俺は、ノーチェのところに転移した。
「ノーチェ、どうしたの? 」
「わっ、いきなり現れないでよ。驚くでしょう」
俺は、ノーチェのそばに座った。
「ノーチェ、昨夜、母さんのところに行ってきたよ。いろいろと話をしてきた」
「そう、その様子じゃ、受け入れてくれたのね」
「あぁ」
「良かったわ……」
ノーチェに、母親の話は、マズかったか……
「私ね……ライルの昔の話を聞いて、ライルの家族が、バケモノって言った事に怒ったでしょう」
「俺の代わりに怒ってくれたんだったな」
「でも、ユオは、違った。ライルの弱さを怒ってた」
「そうだね」
「私、勘違いしてたのかもって、思ってたんだ」
「何を? 」
「ライルと私が同類なんじゃないかって」
「そうか、実は俺もノーチェとは同類だと思ってる」
「そうだったんだ? 」
「あぁ」
「でも、よく考えれば、ライルには、家族がいて、いつかは、仲直りして、私の元から離れてしまうって、そう感じてた」
「俺は、何処にもいかないよ」
「本当? 」
「あぁ、実際、俺は、バケモノじみた能力を持っている。それは、地上の人々には、脅威以外何物でもない。家族が受け入れてくれても、他の人が受け入れてくれるとは思えない。だから、どこにもいかない」
「そうか……でも、私もユオみたいに、ライルが家族と和解する事を促すべきだった……でも、怖かった。ライルは、家族と一緒に過ごして、私は、また、ひとりぼっちになってしまうんじゃないかって……」
「そんな事を思ってたんだ」
「最低だよね。結局、自分の事ばっか考えてる」
「俺も1人になるのは辛い。ノーチェみたいな事を思って悪いとは思えない」
「そんな事ないよ。私は、ライルの幸せより、自分の幸せを求めてたのよ」
「そんなの当たり前だよ。ノーチェが、幸せになるって事は、ノーチェの周りも幸せになってるはずだろう。そこには、俺もいる。なら、問題ない」
「そうなのかな? 」
「そうだと思うよ」
「うん……私、やはり、強くなる。心も身体も強くなって、こんな、いじけた自分を吹き飛ばしたい」
「じゃあ、まず、転移の時、自分の服を吹き飛ばさないようになる事だね」
「なっ、だ、大丈夫よ。ちゃんとできるようになるんだから! 」
「そういう事は、まだ、できてないって事? 」
「平気なんだから、あれから、結構、練習したんだから」
「そうなんだ。まぁ、ノーチェをからかうのは、この辺でやめておこう。あとが怖いし」
「ライル、私の事、からかってたの? 酷い! 横暴よ」
「すまん。ノーチェが、あまりにも反応よ過ぎて、ついね」
「知らない。もう、ライルとは、口をきいてあげないんだからね」
「俺は、もっと、ノーチェと話したいけど? 」
「えっ……」
「俺達は、まだ、子供だ。大人になるまで時間がたくさんあるしね」
「そ、そうね。しょうがないわ。話し相手になってあげるわよ」
「感謝するよ」
「ねぇ、ライル。私達、大人になるまでずっと一緒に居られると思う? 」
「できれば一緒に居たいけど、未来はわからないからね。例えば、ノーチェに素敵な人ができて、出ていく事だってあり得るだろう? 」
「そんな人、できないよ。それに、ライルだって、誰かを好きになって、結婚して幸せになる事だってあるんだよ」
「今は、想像できないな」
「そうなんだ……」
「ねぇ、ライル。私と約束しない? 」
「何の? 」
「一緒にいるって約束」
「別に構わないけど」
「私やライル、ううん。友達が、困ってたら助けあって、出来るだけ、みんなで一緒にいて、そして、幸せになるの」
「内容が増えたね」
「女性は、欲張りなのよ」
「そうですか」
「じゃあ、約束ね」
突然、ノーチェは、俺の唇に自分の唇を重ねた。
「約束ね」
「えっ!? 」
驚いていた俺のそばを離れて、そう言い残して立ち去って行く。
ノーチェの背後姿は、金色の髪が、爽やかな風に揺られながら、陽の光に照らされて、輝いている。
「綺麗だ……」
俺は、柄にもなく、そんな言葉を口に出していた。




