第26話 決意
今日は、竜の里の街にみんなで来ている。目的は、武器の受け取りと、大森林に行くための買い出しだ。
先ずは、ドワーフ職人のドドンパッチさんのところだ。
俺は、店に行く前にこっそり、ユオに耳打ちをした。
「ユオ、この世界には、ギャグがある」
「はい!? どういう事ですか? 主任」
「ギャグだ。でも、面白くも可笑しくもない」
「そ、そうなんですか? 」
「そうだ。だから、俺が手本を見せて笑うから、ユオも真似してくれ。そうすれば、商談は上手く行くはずだ」
「そうなんですね。わかりました。頑張ります」
「うむ」
店に着くと、元気よくノーチェが
「こんにちは〜〜」
と、挨拶して入る。
「おぉ、よく来たな。おい、小僧、やっと出来たぞ」
「かなり、早かった気がするんですが? 」
「あぁ、素材が最高なんで、少し無理しちまった」
そう言うドドンパッチは、目が赤かった。
「本当に無理させてしまったようで、大分お疲れのように見えます」
「構わねぇさ。好きでやってる事だ。ほら、これが、注文の剣だ」
そこには、刃渡り60センチ程の剣が3本とナイフが5本出来上がっていた。
「ナイフも作ってくれたんですね」
「ナイフは、素材が余ったからな。これは、サービスだ」
「ありがとうございます。でも、刀身が白いんですね」
「あぁ、でも、魔力を通してみろ」
俺は、その中の剣を1つ持ち、魔力を通してみた。
すると、剣は、黒く光だした。
「魔力を通すと黒くなるんだ〜〜」
ノーチェもびっくりしている。
「切れ味も最高だぞ」
「そうなんですか? 」
「あぁ、間違いね〜〜」
「ありがとうございます。では、もらっていきますね」
俺は、剣をノーチェに1本渡した。
ノーチェは、満面の笑みを浮かべながら喜んでいた。
そして、
「ナハトもいるか? 」
「う〜〜ん。素材はいいのかもしれねぇけど、俺の好みじゃねぇ。もっと、長いやつがいい」
「そうか」
「主任、私、このナイフもらってもいいですか? 」
「構わないけど、武器、平気なのか? 」
「はい、みんなを守る為、私、強くなるって決めましたから」
「じゃあ、3本渡すよ」
「いいですよ。1本で」
「投小刀のスキルがあるんだろう。いざと言う時の為だ」
「わかりました。では、使わせて頂きます」
「ということは、ナハトの分だが、そうだ! 」
俺は、亜空間収納から、黄竜からもらった牙を取り出した。
「これで、ナハト用の大剣を作ってもらえませんか? 」
「こ、これは? 」
「黄竜様の牙です」
「な、なんだってーー!! これ、どうしたんだ? 」
「先日、黄竜様と試合をしまして、もらいました」
「マジか……こいつもとんでもねぇ素材だな。これ1本で、国、3つは買えるぞ」
こ、ここだ。ここは、笑うとこだ。
さぁーー、ユオ、みてなさい。これが、一流のギャグマスターだ。
「わはははは」
俺は、ユオを見て、催促する。そして、2人で
『わはははは』
「おい、ユオ、どうしたんだ? 」
ナハトが急に笑い出すユオに心配そうに声をかけている。
ノーチェと、ドドンパッチは、
「そうだったな。小僧は、お気の毒な奴だったな」
「普段はまともなんだけど……」
「また、頭でも打ったか? 」
「そういえば、この間の試合で、大怪我してた……」
「きっと、その時、また打ったんだな」
「そうかも……」
「お嬢ちゃん。優しくしてやりな。あっちの獣っ娘もな」
「うん、そうするね」
ヒソヒソ話をしていた。
「小僧、わかった。この牙で傑作を作ってやる」
「ありがとう。わはははは」
上手くいったようだ……
「お〜〜い、いるか〜〜、ちょっと出てきて手伝ってくれ」
ドドンパッチが店の奥に声をかける。出てきたのは、同じドワーフだった。
「そちらは? 」
「あぁ、こいつは、俺の弟子でガガンボッチってんだ。よろしくな」
ガガンボッチ……
この名前で、今までの笑いの演技が、全て持っていかれた気がする……
「じゃあ、2週間くれ。そしたら、出来ると思う。それと、これは、余った素材と、この間の水晶のペンダントだ」
「はい。ありがとうございます」
俺は、黒竜の余った素材と出来上がった封印の水晶のペンダント10個を亜空間収納に入れ、店を出たのだった。
「わはははは」
と、まだ、笑っていたユオをナハトは、真剣に心配していた。
◇
店を出て、甘味屋さんに寄る。
そこで、また、パンケーキを注文した。
出来上がるまでに、水晶のペンダントをナハトとユオに渡す。
「これ、何だ? 」
「水晶なんだけど、魔力補給に使えるんだ。いざとなったらそこから、魔力を補充できるんだよ」
「そうなのか? 」
「わぁ、嬉しいです。私、まだ、魔力が少なくて困ってましたから」
「ユオには、使い勝手が良さそうだな。ナハトも、身体強化する時、補充できると思うよ」
「わかった。ありがたくもらっておくわ」
「そうしてくれ」
俺達は、パンケーキを食べながら、
「なぁ、ライルは、何がしたいんだ? 」
「俺か、特に考えてないが、出来れば、通信網を作りたいと思っていたけど」
「通信!? 」
「遠く離れていても、いつでも連絡ができるようものさ」
「それは、便利そうだな」
「出来ればね。でも、まだ、具体的な事は何もしてない」
「そうなのか? 」
「そういうナハトは、何かしたい事あるのか? 」
「俺は、何も考えちゃいねぇ。でも、強くはなりてぇ」
「そうか」
「私ね……」
「どうしたの? ノーチェ」
「え〜〜とね。笑わない? 」
「笑わないよ」
「私、出来れば、私みたいな子の手助けがしたい」
「それは、混血吸血鬼の手伝い? 」
「ううん。そうじゃなくって、私、お母さん殺されたでしょう」
「うん」
「だから、そういう人を助けたい」
「つまり、困ってる人を助けたいの? 」
「うん。でも、誰でもって話じゃないの。そんなの無理に決まってるから。でも、出来れば、私の目の前で、もう、そんなひどい事起きて欲しくない」
「そうだな……」
「ノーチェさん! 」
「な、何? 驚かさないでよ。ユオ」
「わ、私、感動しました。私も賛成です。私も、主任やノーチェさんに助けてもらいました。私が救われたように、私も誰かを救えたら嬉しいです」
「そうよね。私も竜神様やライルに救われたから、私もそうしたいと思ってる」
「あれ、ノーチェ、俺、ノーチェを救ってないよ」
「何言ってるの? ライルが、私に生きる希望をくれたのよ」
「そうなの? いつ? 」
「はぁ〜〜、自覚なのね。そうよね。ライルだもの」
「さっぱり、わからん」
「いいの。これは、私自身の問題だから」
「そうなのか? 」
「そうよ」
「まぁ、主任ですから、昔から、そういう感じでしたし」
「ユオも苦労したみたいね」
「私の場合、そういう関係じゃありませんでしたので、そこまでの苦労はありませんでした」
「そうなんだ」
「はい」
「おい、ライル、お前、何かしたのか? 」
「イヤ、全く記憶がない」
「そうなのか、まぁ、いいや。ユオにさへ変な事しなければな」
「あぁ」
「では、決を取ります」
「何の? 」
「困っている人を助けるかどうかです」
「そんなのユオがそうしたいんであれば、俺が何でもしてやらぁ」
「主任はどうなのですか? 」
「う〜〜ん。どうなんだろう? 」
「では、これで、これからの方針は決定しました」
「えっ、俺、何も言ってないぞ」
「主任、3対1で可決されました」
「まぁ、いいけど」
「これで、我々が今後行う活動の骨子が出来上がりました。あとは、内容を詰めていきましょう」
この仕切り、湯嶋さんだ……
「だがよ〜〜困ってる奴なんて、どうやって見つけるんだ? 」
「それは……どうしましょう。主任」
「内容にもよるけど、普通は、ちゃんと話を聞いて、その内容を精査し、解決方法を見つけるのがスジだと思うけど」
「見た目じゃわかんないわよね。心の問題もあるし」
「殺されそうになってたらわかりやすいけどな」
「ナハト、そうも言えないぞ。例えば、敵討ちの場合とかどうするんだ? どちらが正しいか誰が判断するんだ? 」
「そうだよな。それだけじゃわかんねぇなぁ」
「それに、俺達、4人だけでは、人手が足りないと思うぞ」
「確かに、調査役と、仕事を請け負い人。それに、この世界は広いし……」
「だから、まず、俺も含めて、世界を知る事。それに、強くなる事。依頼の内容が、格上の強者だったら、依頼を遂行できないぞ」
「そうですね〜〜考える事が多そうです」
「俺達は、まだ、知らない事が多過ぎるんだ。この中で、1番世の中を知ってそうな者は、ノーチェだと思う」
「わ、私? 私は、村娘だったし、大人の事情とか貴族の事とか、全く知らないよ」
「ナハトは? 」
「俺とユオは、雑技団の中でしか生活してねぇ。街にも出た事は無かったしな」
「俺も、家から殆ど出てなかったから、無知な部類に入ると思う。そんな状態で、この世界の善悪をどうやって判断するんだ? 」
「この件は、今、議論しても良い考えが浮かばないと思います。ですので、当面は、仲間探しと、自身の強化、それに重点を置きましょう。そのうち、良い考えが浮かぶかもしれませんし」
「ユオの意見に賛成するわ」
「俺も強くなりてぇしな」
「まぁ、無難なところだと思う」
「それにしても、主任は、貴族だったんですよね。何故、この里にいるのですか? 」
「ライルはね。学院に入学する為に、家族と冒険者を連れて、クロウ勇国というところに行く途中、黒竜様と戦って倒しちゃったのよ。でもね、ライルの規格外の強さに、家族を含めて、みんな怯えちゃって、それに、ライルは、家族にバケモノって言われたの。だから、黒竜様と一緒にこの里に来たそうよ」
「そうだったんですか……家族仲が悪かったんですね」
「ユオ、それは、違うぞ。家族仲は、凄く良かったと思う」
「えっ!? 」
「何、驚いてんだ? 」
「いいえ、てっきり、家族仲が悪くて居づらいから、ここに来たのかと思ったものですから」
「一般的な家族がどういうものか知らないけど、普通に仲良かったよ」
「じゃあ、主任の家族の方は、なんと言ってるんですか? 」
「いいや、何も」
「もしかして、主任、バケモノって言われて、黙ってここに来たんですか? 」
「まぁ、そんなところだ」
「はい!? 話し合いもせずに? 」
「あの後、話はしていないし、会ってもいない」
「それって、家族も方は、主任の生死もわからない状態なんですか? 」
「多分、死んだと思っていると思う」
「主任! 何してんですかーー! ちゃんと話合わなければ,ダメじゃないですか! 」
「…………」
「いいですか、きっと、家族の方は、心配してますよ。それに、きっと後悔しています。それで、いいんですか? 」
「それは、わからない……」
「主任は、私にとって、尊敬できる数少ない人です。でも、今の主任は、ダメダメです」
「ユオ、そこまで言わなくても、ライルも辛かったんだから……」
「ノーチェさんは黙ってて下さい。いいですか、主任は、自分が可哀想だから逃げてきたんです。自分が、辛い目に会いたくないから避けたんです。確かに、家族が言った言葉は、褒められるものではありません。でも、あの黒竜様を前にして、正常な神経を保てると思いますか? 私だって無理です。それを倒した主任に恐怖心を抱くかもしれません。でも、それと、これとは別です。家族は、そういう事を何度も話し合って乗り越えていかなければいけないのです。その責務を放棄して、自分に酔った態度は、尊敬できません。私は、主任は、家族と話し合う事が必要だと思います。そして、どうあるべきか、考えなければいけないと思います」
「そうか……」
「もう、本当に主任は、こういう事は苦手なんですね。他人の事なら、自分を顧みず、頑張るのに、自分の事となると途端に臆病になるんですから」
「そうだったな……昔も言われた気がするよ」
「話し合いがまだ、無理なら、せめて手紙でも書いて、無事だという事を伝えてみたらどうですか? 主任が生きているとわかっただけでも、落ち着くと思います。まだ、主任に時間が必要なら、きっと、家族の方々も待てると思いますよ」
「そうだな。ありがとう。俺には、一歩踏み出す勇気が無かった……」
「偉そうな事言った事をお詫びします。ですが、このままでは、主任もその家族も心に棘を刺したまま生きていかなければならなくなります。それでは、誰も幸せにならないじゃありませんか」
「わかった。何らかの行動をしてみるよ」
「そう言ってもらえて嬉しいです。私が主任に救われたように、主任も自分を救って下さい」
「あぁ……」
何か懐かしい感じがする……
湯嶋さんらしいお節介だ。
だが、悪い気はしない……
俺は、自分の無事を家族に知らせてみようと思った。
ユオ、いや、湯嶋さんが、弱気な俺の背中を押してくれたのだから……




