第25話 丘
俺は、竜神様に呼び出されて、謁見室にいる。
ここには、ブラドを始め、先日戦った黄竜、炎竜、青竜、古竜達、側近もいた。
『ライルよ。先日の黄竜との試合、面白かったぞ』
「死ぬかと思いましたけどね」
『黄竜相手に、良くやった』
「必死だったので、捨身の戦法でした。もう、懲り懲りです」
『おい、おい、俺とも戦ってくれるんだろう? 』
「炎竜様、約束は守りますが、暫くは、体力を回復したいです」
『そうだな。俺は、もう少し、お前が、成長するまで待っててもいいぞ。その方が、強くなって、倍楽しめそうだからな』
「俺もそう思います」
『わははは、楽しみが増えたぞ。わははは』
『ライル殿、お見事でした。私の完敗です』
「いいえ、黄竜様。そんな事ありません。それに、あのブレス、反則ですよ。当たったら、チリも残りませんよ」
『ライル殿は、見事に躱してたぞ』
「躱してたんじゃありません。逃げてたんです」
『敗者の私に花を持してくれるとは、できたお方だ。それと、これを受け取ってほしい』
黄竜は、俺のところにきて、牙と鱗を渡す。
「これは? 」
『私に勝った証だ』
「わかりました。お受けいたします」
俺は、亜空間収納にそれらをしまう。
竜達は、負けると牙を贈る習性があるのか?
不思議な習慣だ……
『ところで、ライルちゃんは、大精霊のところに行くのでしょう? 』
「すみません、ちゃん付けは、勘弁して下さい。青竜様」
『じゃあ、ライル君ね。私の屋敷が、大森林にあるの。だから、一緒に行きましょう』
「そうなんですか? てっきり、ここに、お住まいかと思いました」
『ブラドを除いて、他のものは、地上に住んでおるのじゃあ』
「竜神様の元におられるものと思ってました。少し、意外です」
『黄竜は、南の砂漠地帯に、炎竜は、西の火山地帯に、古竜は、天空に屋敷を持っておる』
「天空にもお屋敷があるんですか? 」
『古竜は、特別じゃ。何せ、竜随一の魔法使いじゃからのう』
「そうだったんですね。そう言えば、ユオがお世話になってると聞きました」
『そうじゃ。あの白狼の娘は、なかなかのものじゃ』
「そうですか」
『少し、教えただけで、魔法のイロハをマスターしてしまった。お主と同じ異界人と聞いたが? 』
「はい。偶然にも、生前の私の知り合いでした」
『頭も良いし、魔法のキレも良い。教えがいのある女子じゃ』
「古竜様、これからも、ご指導してやってください」
『お主に言われるまでもない。だが、確かに、聞き届けたぞ』
「ありがとうございます」
『じゃあ、ライル君。大森林に行くときは、声かけてね。お姉さん、待ってるから〜〜』
「はい」
飲み屋のお姉さんのような気さくな感じで、青竜は、俺に話す。
こういう感じは、嫌いじゃないが、裏がありそうで怖い……
俺は、早々に謁見室を退室するのだった。
◇
直接、屋敷に帰る気分ではなかったので、また、丘の木のところでノンビリしようと足を運んだ。
街を見渡せる、この丘は、いつのまにか、お気に入りの場所になっていた。
爽やかな風が、大きな木の葉を揺らす。
俺は、寝転び目を閉じた。
記憶を取り戻してから、いろいろあった。
ユオみたいに、1歳の時、記憶が戻ってたら、満足に動けない状態で、イライラしたに違いない。
そう思うと、湯嶋さんは、大変だったろうな、とつくづく思う。
それを、考えると、恵まれていたかもしれない。
病弱だったが、大切な家族と過ごせたのだから……
ふと、胸が苦しくなる。
理由は、わかっている。
ランドル家の人達を思い出していたからだ。
ちゃんと、向き合わなければ、いけないのかもしれない。
ナハトやユオのように、きちんと話しあって……
でも、それを拒む俺がいる。
拒絶されたくない。
また、あの様な思いをするのはイヤだと……
他人の事なら、どうすれば良いかなんとなくわかる。
でも、自分の事となると、理解はできても、思うように身体が動かなくなる。
恐怖心なのか……
なかなか上手くいかないものだ。
俺は、自分の弱さを改めて実感した。
すると、
「主任、何、黄昏てるのですか? 」
ユオにふと、声をかけられた。
「ユオ、魔法が上達したんだって? さっき、古竜に聞いたよ」
「まだまだですが、何とかやってます」
「うん。良かったよ。俺の知ってる湯嶋さんがいるようだ」
「本人ですよ。でも、もう違うのかもしれませんね」
「そうかもな、なぁ、俺達は、何でこの世界に生まれ変わったのだと思う? 」
「わかりません。でも、前は、この世界が嫌いでしたけど、今は、楽しいです。主任もいますしね」
「その、主任は、やめないか? ユオの姿で言われると、物凄くギャップがある」
「そうですか? 中身は、同じだし、私は、こちらの方がしっくりきますし」
「まぁ、好きにしたらいい」
「はい。主任」
「ナハトは、戸惑ってないか? 」
「そうですね。私が、たくさん喋るようになって、目を丸くしてますが、基本、喜んでいると思います。
「それなら、良かった」
「それで、主任、私、思ったんですけど」
「何? 」
「私達がこの世界にいるって事は、立花先輩もこの世界にいる可能性があるんじゃないですか? 」
「そう言えばそうだな。でも、立花なら、結構、馴染んでいるんじゃないか? 」
「そうですね。こういうの好きそうですし」
「そうだな。絶対、日本より、いきいきしてると思うぞ」
「魔法だって使えますしね」
「なんか、想像できてしまうとこが、立花らしいな」
「きっと、ハーレム築いてウハウハ生活してますよ」
「俺達は、まだ、5歳だぞ」
「主任、女の子の5歳は、もう、大人と同じ感情を持っているんですよ。知らないんですか? 」
「すまん。その手の話は、まるっきり、わからん」
「まぁ、そういうとこ、主任らしいですけどね」
「それで、私達、いつまで、ここにいても良いのですか? 」
「いたかったらずっといても構わないけど、どうして? 」
「主任の用事とかあるんじゃないかと思って」
「直近では、大森林に青竜と一緒に行かなければならないけど、その後の予定はない」
「大森林ですか? それって、どんな場所何ですか? 」
「広くて深い森だそうだ。地球で言えば、中国ぐらいの面積があるみたいだけど」
「そんな、広いんですか? 主任は、何しに行くんですか? 」
「その大森林に神樹と呼ばれる木があるらしい。そこに、大精霊と呼ばれる精霊の親玉が、封印されているそうなんだ。その、封印を解きに行くんだよ」
「えっーー、面白そう。私も行っていいですか? 」
「いいけど、危険だぞ。強い魔物もいるらしいから」
「わかりました。私、強くなりますね。それで、主任を守ってあげます」
「嬉しいけど、女の子に守られても格好つかないしな」
「いいえ。黄竜様との決闘で思い知らされました。何もせず、見ているだけなんて、そんなのイヤです。だから、私が、強くなって、みんなを守ります」
ユオの決意なのだろう……
俺は、それを、危険だからといって、止めることはできない。
「ありがとう。俺が、困った時はお願いしようかな」
「はい、主任。お任せ下さい! 」
「おい、おい、お前、また、ユオにちょっかい出してんじゃあねぇだろうな? 」
「ナハト、さっきから、ここにいたろう。会話の内容ぐらい理解出来るだろう? 」
周辺は、衛星で確認済みだ……
「そりゃ、まぁな。でも、ユオだけは、お前に渡さねぇからな! 」
「本当に、ナハトは、妹思いなんだな、正直、羨ましいよ」
「う、うるせい! 」
「ところで、ブラドに稽古つけてもらってるんだって? 」
「あぁ、まだ、勝てねぇけどな」
「ブラドの前で、腰を抜かさないだけ、凄いと思うぞ」
「お前がいうな! まぁ、あんな戦い見せられちまったらなぁ。俺だって、このままじゃ、いけねぇって思ったんだよ」
「まぁ、怪我しないように程々にな」
「わかってるって! そういえば、あの吸血鬼女が探してたぞ」
「ノーチェか? 何だろう」
「何か出来上がったとか言ってたけど、俺には、わかんねぇな」
「そうかい。わかったよ。じゃあ、家に帰るか」
俺は、ゆっくり立ち上がり、家路へ向かうのだった。
◇
「あっ、やっと帰ってきたわね」
ノーチェは、少し照れ臭そうに話す。
「何か用だった? 」
「そうそう、剣が出来たって、ドドンパッチさんが言ってたよ」
「もうかい? 」
「うん。素材が最高なんで、寝る間も惜しんで作ってくれたみたい」
「それは、大丈夫なのか? 」
「何が? 」
「ううん。何でもない」
寝てないのか? ハードワークすぎるだろう……
「ノーチェも休んだ方がよくないか? 俺の面倒をみて、殆ど、寝てないんだろう? 」
「だ、大丈夫よ。これぐらい。私、平気なんだから。吸血鬼だし、ハーフだけど……」
「いろいろ世話になったから、血を吸っても構わないぞ」
「えっ、へ、平気よ。ライルは、人の事心配し過ぎ。私は、大丈夫なの! 」
大丈夫という者程、大丈夫ではないはずだ……
「いいから、おいで、ノーチェ」
俺は、ノーチェを抱きかかえ、寝室に連れて行った。
ナハトとユオは、
『ヒュー、ヒュー』
と、息ピッタリで囃し立てていた。
そういうんじゃないのだが……
俺は、ノーチェをベッドに寝かす。
ノーチェは、顔を赤くして俯いていた。
「ノーチェ、血を吸った方がいいと思うけど、どうする? 」
ノーチェは、寝てないのは明らかだ。顔は赤くなっていても、目の周りにクマがある。
「いいの? 」
「あぁ、世話になったからね」
「本当にいいのね」
「構わないよ」
「じゃあ、吸っちゃうんだから、本当に吸っちゃうよ」
「どうぞ」
俺は、自分の首筋をノーチェの口に近づけた。
ノーチェは、戸惑いながらも、俺の首筋に牙を立てた。
痛くないな……
俺の感想である。
ノーチェは、血を吸いながら、
「美味しい……ライルの血、とっても美味しい」
少しの時間、血を吸う事に夢中だったノーチェは、
「ライル、私……」
そう言うと共に血を吸うのをやめたようだ。
「もう、いいのか? 」
「うん。これ以上は、ライルが倒れちゃうよ」
「まだ、大丈夫だけど」
「今は、これでいい。ありがとうね。ライル」
「構わないさ。少し、休みな。寝て、元気になってくれ」
「う、うん。そうする」
恥ずかしかったのか、ノーチェは、目を閉じていた。
俺は、ノーチェの邪魔にならないように静かに部屋を出ていった。




