第24話 黄竜
地下の闘技場は、とても広い亜空間だった。
天井も高い、って空があるし……
つまり、上空、ほぼ無制限の円形状の場所だ。
観客席もあり、特別席には、竜神様をはじめ、側近の竜達が勢揃いしている。
ノーチェやナハト、ユオは、一般席に通された。
試合場と、観客席の間には、透明の障壁は設置されている。
攻撃が、観客にあたらにように作られたものだ。
「凄い〜〜こんなとこがあるなんて、知らなかったわ」
『ここは、竜人族の一部の者しか自由に入れない。一般の物が使うには、許可が必要だ』
「そうなんですか、ブラド様、教えてくれてありがとうございます」
『いずれ、ノーチェもここで、戦えると良いな。わははは』
「本当に、あいつ、こんなとこで戦うのかよ〜〜」
「死なないよね」
『白狼の者達よ。死ぬかは当人次第だ。勝負の行方は、やってみないとわからん』
「マジか……」
「そんなぁ、主任……」
俺は、そんな、みんなの話を聞きながら、試合場に案内された。
特別席を見ると、燃えるような真赤な髪をした炎竜がニタニタして俺を見ている。
竜神様は、御簾がかけてある場所にいるようだが、こちらからは、姿は見えない。
俺は、中央に立つと、向こうから黄竜がやってきた。
『ライル殿、試合を受けてくださり、感謝する』
「こちらこそ、遅くなりまして申し訳ありませんでした」
『では、参ろう』
「竜化しないのですか? 」
『ほ、ほう、私の竜化をお望みですか、それなら、私を納得させるだけのものを見せてもらいませんとね』
「そうですか、お手柔らかに」
合図なしで、試合はもう、始まっていた。
竜化を促したところ、少し、動揺した黄竜だが、やはり、慎重なタイプなのだろう。すぐに、冷静さを取り戻した。
やりにくい相手だ……
おそらく、先に攻撃を仕掛けてこないだろう。
相手を見て、判断すると、俺は、思っていた。だが、それは、違った。
黄竜の身体から光が漂っている。
これが、オーラというやつか……
初めて見た。
その途端、黄竜は、その場で消えた。
すると、いきなり背後に衝撃が走る。
俺は、数十メートル吹き飛ばされた。
身体強化をしておいて、助かった。
しかし、気配が、全く、わからなかった。
俺は、体制を立て直す。だが、今度は、左側から蹴りがきた。
左手の前腕でかろうじて防ぐが、今の俺の体重では、軽すぎて、その場で防ぐには無理がある。
また、その反動で飛ばされた。
次の攻撃が来る事を予想して、飛ばされた場所から、すぐ回避行動に移る。
思った通り、黄竜は、攻撃を仕掛けてきた。俺は、咄嗟にそれを回避した。
今の俺の体格では、肉弾戦では、武が悪い……
黄竜の連打がくる。
何度も繰り出される拳。
リズムを変えるように繰り出される蹴り。
どれも、速くて凄まじい威力だ。
回避できるのも限界だ……
距離を取らないと……
でも、その隙がない。
俺は、自身に風魔法をかけ、自分を風圧で、飛ばした。
そして、今度は、黄竜に向けて風魔法を放つ。
一瞬、黄竜の目が見開いた気がした。
だが、それは、黄竜の障壁に阻まれた。
◇
「スゲーー! 俺は、あんな奴に勝負を挑んだのか? 」
「ふふん。ライルは、凄いんだから。何せ、黒竜様を倒したのよ」
「主任……でも、結構、押されてます。大丈夫かしら……」
「そ、そうね。少し危ないわね」
ナハト、ノーチェ、ユオは、戦いを固唾を飲みながら見守っていた。
◇
黒竜と一緒で、魔法は弾かれるか……
『私に魔法は通じませんよ』
不敵に笑うその眼は鈍く輝いている。
俺は、亜空間収納から、剣を取り出す。
黄竜に向けて、加速した。
思った通り、あっさり、弾かれる。でも、接近したのには、理由がある。
【ディスペル】【ファイヤーランス】
障壁を破壊し、黄竜の側面に、母さんが使ってたファイヤーランスを放つ。
爆発音と共に、煙が立ち込める。
この程度で、やられる黄竜ではない。一旦、距離を取り、後ろに下がると地面が盛り上がり、大地が槍のように突き出た。
ズボンが、裂け、左腿をかすめた。
だが、何か攻撃を仕掛けてくるのは、計算のうちだ。
魔法を放ってきたって事は、さっき攻撃でダメージを受けたって事だ。
得意の土魔法を行使したという事は、俺を上空に誘ってる。
上空では、逃げ場がないからだ。
俺は、あえて、その場で跳躍し、宙に躍り出る。
待ってたかのように、黄竜のレーザーのようなブレスが来た。
黄竜の背後に俺は、転移する。
ブレスは、観客席の障壁にあたり、爆音が響いた。
俺は、思い切り、【ディスペル】と風魔法を放を重ねがけして放つ。
この世界に来て、最初に使ったやつだ。
『なぬっ! 』
黄竜の短い驚きの声が漏れる。この魔法は、誰かが『天の息吹の御柱』とか、言っていたものだ。威力は伊達じゃない。
黄竜は、その風圧に、その場に留まることが出来ず、上空へと舞い上がった。
周囲の砂塵を巻き込んだ風魔法は、視界をくもらせた。
すると、砂塵の隙間から、強力なブレスが、地上に降ってきた。
先程より、遥かに威力が大きく。
光った瞬間、俺は、回避に全力を注ぐ。
もう、少しで、巻き込まれていた。
冷汗が、流れる……
砂塵が少しずつ晴れていく。
すると、そこには、黄金に輝く竜が羽ばたいていた。
◇
『ほほう、黄竜の奴、竜化しおったか』
『全力で戦いたかったのだと思います』
『だが、ブラドよ。奴が、竜化して、この亜空間は、保つか? 」
『それは、わかりません。竜神様を含め、周囲の結界を強めましょうか? 』
『成り行きを見て、ブラドに任す』
『御意』
竜神を含め、ブラド達も楽しそうに、その戦闘を見ていた。
◇
竜化したか……
先程のブレスで、地上に大きな穴が空いている。
これを喰らったら、命はないな……
そんな事を考えてると、2射目のブレスがきた。
黄竜のブレスは、レーザー砲みたいなものだ。
範囲は、然程大きくは、無い。
だが、今度は、薙ぎ払うように、横線状にブレスを放射された。
マズい……
咄嗟に、転移で回避する。
転移じゃなかったら、そのブレスに飲まれていた。
地上が、爆音と共に、捲り上がる。
観客席にも、その衝撃が伝わる。
「大丈夫か、あいつ。死んだんじゃねぇのか」
「だ、大丈夫よ。き、きっと……」
「主任………」
ノーチェ達も気が気でない様子だ。
辺り一面、大地がグシャグシャになっている。
元の地形は、姿、形もない。
黄竜は、自身の翼を羽ばたかせた。
その風圧は、強烈なダウンバーストを生む。
荒れ果てた、大地に暴風が注ぐ。
一帯は、砂塵の嵐となった。
観客席との障壁には、石を含んだ暴風、当たる。
障壁が、揺らぎ、振動していた。
俺は、転移している。
遥か上空、黄竜の真上だ。
黄竜の障壁で、魔法は弾かれる。
だから、俺は、黄竜の障壁ごと、地面に叩きつける事を考えた。
舞い上がる砂塵の中、俺を見失ったように周囲を警戒する黄竜。
でも、俺は、お前の上だ!
使った事ない魔法を、実戦で初めて使う。でも、きっとできるはずだと思っている。
科学の発展した世界にいたから、その知識を魔法に変えるだけだ。
俺は、黄竜に向かって
……重力操作【グラビティ】……
黄竜がいる周辺の空間に向けて、重力負荷をかけた。
2倍……4倍……8倍……16倍……32倍……64倍……128倍
魔力消費量が凄い!
身体の中の魔力が、激流のように奔流している。
竜神の封印を解いた時のようだ……
黄竜は、重力の負荷に耐えきれず、地面に叩きつけられた。
それでも、動こうとする黄竜を俺は、
自身の落下スピードに風魔法を操り、黄竜の頭を狙って凄まじいスピードで落下する。
俺の拳に、風魔法を纏わせ、その先に【ディスペル】を放つ。
「ぬぉーー! 」
思わず気合が入る。
そして、
『ドォーーン!! 』
鈍い感触が手に伝わる。
物理耐性と身体強化がなければ、死んでいたのは、俺の方だ。
腕は、折れてダラリとしている。
痛みは、あるが、耐えられないほどではない。
身体には、無数の傷がある。
血が滴り落ちていた。
でも、俺は、かろうじて、この場に立っていた。
黄竜は、地面にめり込み、気絶していた。
『勝者! ライル』
ブラドの声が聞こえた。
俺は、その声を聞いて、意識を失った。
◇
目が覚めたのは、王城の居室だった。
俺の側には、ノーチェがいた。目に涙を浮かべて、
「ライル、だ、大丈夫? 」
「うん。平気みたい」
俺は、腕を振り回して、折れた腕が治っている事に気がついた。
「良かった、良かった。ライル、3日も目が覚めなかったんだよ」
あれから、3日経ったのか……
「何で、あんな無茶したの? 聞いてるの! 」
「すまん、でも、仕方なかったと、俺は思うんだけど……」
「そういう問題じゃない! どれだけ、心配したと思ってるの? 」
そうか、心配させてしまったのか……
「すまん……」
「すまんじゃないわよ。あれから、すぐ、竜神様が回復魔法かけてくれなかったら、ライル、死んでたのよ。もう、無茶、しないで! 」
竜神様が治してくれたのか……
あとで礼を言わないと……
「心配かけてしまってようだ。ノーチェ、ごめんよ」
「もう、知らない! 」
目が赤く腫れ上がっている。あまり、寝てないようだ……
「ナハトとユオは? 」
「ナハトとは、黒竜様に稽古をつけてもらってるわ。ユオは、古竜様に、魔法の使い方を習っているはずよ」
「そうなんだ」
「ノーチェは、俺に付いててくれたの? 」
「し、仕方ないでしょう? 友達を放っておくなんて出来ないし……」
ツンデレも悪くはないな……
「ありがとう。ノーチェ」
「な、何言ってんだか、この、馬鹿ライル! 知らない! 」
ノーチェは、顔まで赤くして、部屋を出ていった。
ノーチェも休ませないと……
俺は、そう思いながら、起き上がるのだった。




