第15話 屋敷と宝物庫
ブラドに案内された屋敷は、城の隣接地にあり、林に囲まれたところで、庭園には、大きな池が2つもある。芝生を張り巡らせた傍には綺麗な花が咲いている花壇があり、十分すぎるほど広いものだった。
また、屋敷は『豪邸』その一言に尽きる。何部屋あるのか数えるのが疲れてしまう、そんな感じの屋敷だ。
「ブラド、これ、広過ぎないか? 」
『そうか? 我には、小さく見えるがな』
それは、竜の巨体からしたらそうだろう……
「一部屋で良かったのに、これじゃあ、掃除が大変だ」
『掃除ぐらい魔法でできるだろう。ライルは、強大な魔力を持つ存在なのに、その思考に偏りがあり過ぎるぞ』
「確かに、反論できない」
「本当にここに住んでいいのですか? 」
『ノーチェだったか、ライルの事を頼むぞ』
「はい。お任せ下さい」
『では、我は行く。そうそう、宝物庫の件、午後にでも城に来てくれ。案内する』
「わかった。ノーチェも一緒に行ってもいいか? 」
『構わぬ。欲しいものがあれば、ライルから受け取れば良い。そうすれば、約束を違えることにはならない』
「わかった」
俺とノーチェは、屋敷を見て回った。
一階は、広いダイニング。応接室が三部屋もある。それに、宴会場みたいな広間もある。浴室にトイレ。広過ぎて迷いそうだ。
二階には、客間になっているようだ。部屋が沢山あり、数えるのをやめた。俺とノーチェは、それぞれ、好きな部屋を選ぶ。
何故か、ノーチェは、俺の部屋の隣を選んだ。
淋しいのかな……
そんな事を考えながら、午前中は、ゆっくりする事になった。
俺は、ベッドに横たわって、目を閉じ、昨夜の事を思い出していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「主任、月が綺麗ですね」
「そうだな、立花」
「主任、実は俺、前から……」
「何だ? 言いたい事があれば言えばいい。俺は、心の狭い上司になるつもりはない」
「はい、俺、主任が」
「俺がどうした? 」
「主任の事が」
「…………」
「好きです。付き合ってくださ〜〜い」
「えっ!? やめろ! 立花。どうかしてるぞ! 」
「どうにも止まらないので〜〜す! 」
「わぁーー! 」
ち、違う。これは、今朝見た悪夢だ……
「主任」
「何か用か。湯島さん」
「実は、相談したいことがあって、時間もらえますか? 」
「今夜なら空いてるが」
「じゃあ、何時もの店で7時。待ってます」
「あぁ」
〜〜〜
「主任、私……」
「どうした? 悩み事か? 」
「そういうわけではいんですけど……」
「俺は、心の狭い上司でいるつもりはない。言いたい事があれば言えばいい」
「実は………
……なんですよ〜〜!聞いてますか? 聞いてないでしょう。さっきから、グラスの氷と見つめあって何してるんですか。氷はお見合い相手じゃありませんよ。それにそれ、水でしょう! なんで酒を飲んでないんですか!私の目と鼻はごまかせませんよ。これでも、臭気判定士の資格持ってるんですから。酒と水の区別などお茶の子さいさいです。聞いてますか。主任! もう〜〜割り箸の袋を箸置き代わりに折りたたまないで、私の酒を飲んでくださ〜〜い。って、私の酒が飲めねーーってんのかーーヒックッ」
こ、これは、立花の夢を見たあと二度寝した時に見た湯島の夢だ……
そうじゃなくって!
「私、母さんと2人で暮らしてたの」
これだ、この回想だ……
「そうか」
「母さん、女手一つで育ててくれたんだ」
「父親は、吸血鬼だったんだろう? 一緒にいなかったのか? 」
「父親は知らない。見たこともない」
「悪い事聞いてしまったようだ。すまん」
「ううん。私は、知らないけど、母さんは、とても大切に父親の事思っていたみたい」
「君を大切に育て上げた事が証明している」
「そうね。そうだわね。でも、私は、好きになれない。だって、本当に困った時、母さんが奴らに追われた時に助けてくれなかった」
「何でお母さんは追われたんだ」
「私が祝福を受けなかったから、教会の人が変に思ったみたい」
「そうか、神の祝福は、悪魔種には、関係ないものだろうし」
「祝福を受けたら、死んでいたかも」
「そこまで、なのか? 」
「そう。でも、何とか誤魔化してきたの。でも、私の友達が話しちゃったみたい」
「友達にハーフバンパイヤだと話した事があったのか? 」
「うん。仲が良かったから、隠しているのが辛くなって……」
「そうか」
その気持ちはよくわかる……
「きっと悪気があった訳では無いと思う。つい、友達の自慢とか知らない人とかにしちゃうでしょう。そういう感じで話したんだと思う」
「それが教会にバレたという事か」
「そう。教会の騎士がたくさん来て、私は、お母さんと逃げて、でも、道がなくなって、崖の上だったの。もう、後がないってところでお母さんが斬られて、私は、怖くなって足を滑らせてしまったの」
「それで、こっちに来たって事か」
「竜神様が転移させてくれなければ死んでたわ」
「運が良い。だが、運が悪いな」
「そうね、運が悪い。私ね。竜神様が転移させてくれた事知って、何でもっと早くお母さんと一緒に転移させてくれなかったの? って思っちゃった。凄く悪い子ね。私」
「人の感情は様々だ。どんな事を思っても、自由なものだ。誰にも咎められるものでは無い」
「そんな事をないよ。私は覚えてる。罰は自分で受ける。だから、私は、私を好きにならない。そう決めたの」
「それも自由だ……好きにすればいい」
「そんな事ないよ。とか言わないの? 」
「俺がか……俺も自分は好きじゃない。そんな俺が言えると思うか? 」
「そうだね。でも、私と同じような考えを持っている人がいるだけで救われるわ」
「そんなものか」
「そんなものよ」
「ライルはどうしてここに来たの? 」
ノーチェに聞かれて、俺は包み隠さず今までの事を話した。この子には俺の事を知ってもらいたかった。
「えっーー、ライルは、姉さんにバケモノって言われたの? 」
「まぁな」
「許せない! そんなの絶対許せない」
「俺の変わりに怒ってくれて嬉しいが、俺は、それでも姉さんや母さんの事を大切に思っているんだ。もう、会えないけど」
「でも、家族でしょう? 」
「隠していた俺が悪いんだ」
「それは仕方ないよ。そんな力、持ってたら誰かに利用されて兵器扱いされるわ」
「そうだろうな」
「うん。もし会うことがあったら私がライルの事を話してあげる。どんな思いでいるのかを」
「そんな機会があったらな」
「約束するよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜
◇
俺とノーチェは、城を訪れた。執事らしき竜人族の者がブラドを呼びに行った。
『来たか。こっちだ』
俺達は、ブラドの後をついていくと、城の上層階に出た。そのフロアーは、主に竜神様のプライベートルームの階でもある。その奥の部屋に俺達は案内された。
『ここだ。好きなだけ持っていけ』
「そんなに持っていけない。荷物が嵩張る」
『ライルは、亜空間収納が使えないのか? 』
「何だ。それは? 」
『仕方ない。見ておれ』
ブラドは、亜空間に開けてみせた。
『やってみろ』
「わかった」
見様見真似で、ブラドがした通りにする。すると、空間が歪み亜空間が広がった
『魔力を持つ者なら出来て当然だ』
「では、ノーチェもできるのか」
『出来るはずだ。やってみろ』
ノーチェは、2人が開いたものをよく見て、同じようなものをイメージした。
すると、
「で、出来たーー」
「すごいな」
「うん」
『出来て当たり前だ。ノーチェは、吸血鬼の血を受け継いでいるのだぞ。霧化だって出来るはずだ』
「霧化って? 」
『はぁ〜〜お前達は似た者同士だな。能力が使える素質があるのに、使い方を知らん。全く飽きれるぞ。霧化とは、自分の身体を霧に変化させる能力だ。物理攻撃は効かないし、殆どの魔法も無意味だ。霧化が出来れば、吸血鬼にとって誰が相手でも無敵だという事だ。まぁ、我には勝てんがな。わははは』
ブラドは、笑いながら、どこかに行ってしまった。
「だってさ」
「そうなのね」
「じゃあ、何かもらって帰るか」
「うん」
宝物庫は、空間を拡張してあるようで、とても広かった。
その中に、山のように積まれている金貨や剣など、滅多にお目にかかれない物がたくさんあった。
俺は、取り敢えず覚えたての亜空間に収納にお金を含めてかなりの物を入れた。何の役に立つのか、わからないものまで、目につき、気に入ったものを詰め込んでいく。ノーチェは、その光景に目を輝かせていたが、欲しいものとなるとわからないようだ。だから、俺は、ノーチェが欲しがりそうなものを詰め込んで後で調べれば良いと思っていた。それでも、この宝物庫の在庫は全然、減る様子がない。それだけ広く沢山の物が置かれていた。
「そろそろ帰るか? 」
「うん。すごかったね」
「あぁ、目の前にあれだけあると、いらないと思っていたが欲が出たみたいだ。かなりの物を詰め込んでしまったよ」
「でも、全然、減った様子がなかったね」
「あぁ、竜はすごいな」
「私もそう思う」
俺達は、そんな話をしながら家路についた。
◇◇
屋敷に帰るなり、ブラドがやってきた。
『そうそう、これを渡すのを忘れておった』
ブラドが亜空間収納から取り出したのは大きな牙だった。
「何、これ? 」
「これは我の牙だ。ライルにやられた時に、その牙がグラグラしておってな、昨日、取れたので持ってきたのだ」
「これ、くれるのか? 」
『ライルの戦利品じゃろう。次は我が勝って何かを貰うがな。わははは』
「でも、これもらっても、どこに飾ろう……」
『何を言っておる。これがあれば、剣や防具など最高の物ができるのじゃぞ。人族にとっては、夢のような素材じゃと聞いたことがあるしのう』
「これで剣が作れるのか」
『剣にしたかったら、この街にドワーフの職人が店を出しておる。そこに持っていけば、剣に加工してくれるだろう』
「わかった。礼を言うよ」
『何、ライルの勝利品じゃ。それに、牙は、すぐに生えてくるしのう』
ブラドは、そう言って屋敷を出て行った。
「しかし、でかいな」
「大きいですね」
「俺、よく勝てたな」
「……ライルの実力よ」
「今、言葉に詰まったよね」
「ううん。そんな事ないよ」
「ノーチェ、こっちを見てごらん。目が泳いでいるよ」
「だって、仕方ないじゃない。黒竜様は、伝説の竜なのよ。ライルが嘘ついてるなんて思ってないけど、黒竜様が負ける姿を想像できないのよ」
「俺もそう思うよ」
「えっ!? 怒らないの? 」
「何で? ブラドの強さは、身に染みてわかってるしね」
「何だ。慌てて損しちゃった」
「うん。あとでお仕置きだけどね」
「な、何で? 」
「その方が面白いだろう」
「そんな理由でお仕置きしないでよ。スケベ、変態」
「ノーチェには、お仕置きの二重奏を奏でてあげよう」
「いやよ。ライルの意地悪! 」
ノーチェは、逃げるように部屋に飛び込んでいった。
姉さんが俺をイジって楽しんでた気持ちが、少しわかった。




