はじめてのお使い
ドロンはチャワンの妖怪。
でも、ちっとも妖怪らしくない。
形づくりの儀式を受けたとき、稲荷神がひどくお酒に酔っていたからだ。
妖怪の世界には学校も勉強もないが、そのかわりとして妖怪の修行がある。
ドロンも白キツネのもとで修行をつんでいた。
白キツネのお供となる修行だ。
そんなある日。
ドロンは白キツネの使いで、近くのお稲荷様まで出かけることになった。
「ドロン、今日はおまえひとりで行くんだ」
「えっ、オイラだけで?」
「これも修行のひとつだ。とちゅう、はらがへったらこれを食べるがいい」
ホコラに供えられていたマンジュウを、白キツネがふくろに入れて持たせてくれた。
妖怪の修行はきびしい。でもいいこともあり、こうしてお供え物を食べられることがあるのだ。
「行ってきまーす」
ドロンは意気ようようと、ホコラを出発した。
そのうしろ姿を、
「道に迷わなきゃいいが。ドロンのヤツ、なんたってドジだからなあ」
白キツネは心配そうに見送ったのだった。
森の中の道。
ドロンにとっては、今日がはじめてのお使い。ウキウキとはねながら進んだ。
けれど半分も進まないうちに、
――おなかがすいたなあ。
さっそくマンジュウを食べたくなった。
ドロンがふくろから、マンジュウをひとつとり出したときである。
ガサ、ガサ……。
近くの木のしげみがゆれて、白と黒のマダラギツネがあらわれた。
このマダラギツネ。
もとはほこらの中にあった、置物のキツネ。でも修行をさぼってばかりで、いつまでも白キツネになれないキツネ妖怪だった。
「おい、そのマンジュウをよこすんだ」
「これはオイラのもんだよ」
「おまえ、痛い目にあいたいのか」
マダラギツネが大きな声ですごんできた。
しかしドロンには、なんにでも化けられる千変万化の術がある。
すぐさま呪文をとなえた。
「ドロドロドロン」
ドロンの頭のチャワンがピカリと光る。
たちまちドロンが消え、そこに白キツネがあらわれた。
白キツネは、マダラギツネより強いのだ。
「なら、オレサマもだ」
マダラギツネがクルンとトンボガエリをする。するとなんと、大きなトラになってあらわれた。
「あ、わわわ……」
ドロンはおもわずあとずさりをした。
「おまえを食うことだって、できるんだぞ。どうだ、マンジュウをよこす気になったか?」
トラがじわじわと近づいてくる。
トラに食べられるのはイヤだ。
でも、大好きなマンジュウを食べられるのは、もっとイヤだ。
「イヤだよ!」
ドロンはうしろにピョンとはねた。
「こうなりゃ、おまえも食ってやるまでだ」
トラのマダラギツネが大きく口をあけ、なおもドロンに向かって近づいてくる。
このままでは食べられてしまう。
――どうしよう……。
トラより強いものなんて、妖怪になったばかりのドロンは知らない。
マンジュウをかかえて、いちもくさんに逃げ出したのだった。
長いこと。
ドロンは森の中をさまよい歩いていた。
マダラギツネからは逃げおうせたのだが、そのとちゅうで道に迷ってしまったのだ。
さらに霧まで出てきた。
白い霧が、あたりをつつみこんでゆく。
しばらくすると……。
まわりにあるものが、白くかすんですっかり見えなくなった。
ドロンは歩きつかれてしまい、いつしか知らないうちに眠ってしまったのだった。
こうして――。
ドロンのはじめてのお使いは、キツネ妖怪のマダラギツネにじゃまをされてしまった。
それだけではない。
いつしか知らない世界へと、迷いこんでいたドロンであった。




