ドジなドロン
百年という長い年月をへて、お稲荷様のホコラにあったチャワンが妖怪になった。
この妖怪、名前をドロンという。
この日。
白キツネはドロンをホコラに残し、稲荷神の使いで遠くに出かけることになった。
「留守番、ちゃんとやるんだぞ」
「はーい」
元気よく返事をしたドロンだったが、白キツネが出ていくと、すぐにホコラでい眠りを始めた。
と、そこへ。
おばあさんがやってきて首をかしげる。
「あら? チャワンがなくなってるよ」
そのチャワンは妖怪になる前のドロン。妖怪になった今、人間界から消えて見えないのである。
おばあさんはマンジュウとお酒を供えると、いつものようにお参りをして帰っていった。
――あっ、おマンジュウだ!
目をさましたドロン、目の前にマンジュウがあることに気がついた。
――おいしそうだなあ。
よだれがタラリと出てきた。
だけど、かってに食べたら白キツネ様にしかられる。
でも食べたい。
――ひとつだけなら……。
一つ食べると、もう一つ食べたくなった。二つ食べると、もう一つ……。
ドロンはがまんできずに、マンジュウをみんな食べてしまったのだった。
白キツネがホコラに帰ってきた。
ドロンのようすがなんだかおかしい。ホコラの中でボーとしているのだ。
「おい、どうしたんだ!」
「白キツネ様……」
ドロンの目がトロンとしている。
「もしや?」
白キツネはコップに鼻をあてた。思ったとおり酒のにおいがする。
「これを飲んだのだな」
「はい、マンジュウがのどにつまって」
「なに、それではマンジュウもか」
「ごめんなさい。みんな食べてしまいました」
「マンジュウは、ワシががまんすればよい。だが、この酒は……」
白キツネがこまった顔をする。
「稲荷神様のものなんですね」
「ああ、だからここに供えられた酒は、稲荷神様にさしあげなくてはならんのだ」
「じゃあ、おいらは稲荷神様のものを」
「飲んでしまったものはしょうがない。ドロン、わしについて来い。残っている酒を、これから本殿に持って行くぞ」
「はい」
ドロンはコップをかかえ、白キツネのあとについて本殿へと向かった。
本殿まで来たときだった。
「うわっ!」
ドロンはつまずいて転んだ。お酒に酔って、足がフラフラしていたのだ。
白キツネがすぐさまかけ寄る。
コップがわれて、残っていたお酒はみんなこぼれていた。
「たいせつな酒が!」
と、そのとき。
本殿の奥から稲荷神が顔を出した。
「白キツネや、なにをさわいでおるのだ?」
「じつは……」
白キツネは申しわけなさそうに、それまでのことを稲荷神に報告した。
「ひさしぶりの酒であったのにのう」
稲荷神はいかにも残念そうである。
「ごめんなさい」
小さくなるドロンに、
「だがな、ドロン。酒が飲めぬことより、このコップがわれたことの方が残念なのだよ」
稲荷神はコップのかけらを手にすると、それからしみじみと言葉を続けた。
「われずにいれば、いずれこっちの世界に来れたかもしれんのだよ。のう、ドロンや。おまえはせっかく来れたのだから、これからも修行をつんで、一人前の妖怪になるんだぞ」
こうして――。
稲荷神はしかるどころか、ドロンをはげましてくれた。
その思いにこたえるためにも……。
早く一人前になろうと思う、ドロンであった。




