第13話 おれごんは実兄が嫌い
おれごんは兄が嫌いです。
流行に聡く、いつもわたしの人生の一歩前をいく、わたしを小馬鹿にしてくるあの人が嫌いです。
あれは一緒に帰省した際のこと。
退屈な長距離ドライブの車内では、相手が実の兄ともなれば会話が途切れて当たり前。そんな沈黙を紛らわせてくれる存在が音楽でした。
今では液晶が普及しましたからね、ドライバー以外は映像も楽しめますが当時はまだまだブラウン管、車中は音楽の独壇場。山深いところを通るとラジオは途切れるため、もっぱら車載の音楽プレーヤーが頼り。
時はカセットテープがほぼ絶滅し、CD、もしくはMDに移った頃。
兄とわたしもMDを持っており、帰省する際は運転しないわたしも持参していました。
「飽きたなあ。おれごんのMDあるって言ってたよな、入れてみなよ」
お?
出番がきたか。
ふふふ、おれごんチョイスのマイベストを食らうがよいわッ!
結果、大爆笑でした。
「なにこの曲」「これ誰よ」「知らん」「このバンドは誰?」「曲名は?」「誰」「おれごん殿はすごいね、センスがおありのようだ」
めちゃくちゃバカにされました。
「ださ過ぎて笑える。特に、すきま? すいっち?」
乱暴に早送りされてしまい、MDにはトータル1時間超入れてあったのに、5分も聞いてもらえませんでした。
そもそも「聴かせてよ」じゃなくて「入れてみなよ」の時点で正当に評価される響きはなかった。おそらく斜に構えていた。
それからだいたい1年後。
また会う機会があって、どこかご飯を食べに行くときにやはり車内で。
音楽が。同じ人の歌声が繰り返し流れるので、これはラジオじゃなくてMDが音源。
「スキマスイッチ買ってるじゃんか!」
「ん? ああ、いいよなスキマスイッチ」
イヤイヤイヤ、はああああああ!?!?
あれだけバカにしておいて?
わたしのみならずスキマスイッチのネーミングセンスにすら言及しておいて?
いいよな?
はあああああああああああああ????
しかもね、忘れている。わたしを笑ったのも、わたしが先だったのも、曲の良し悪しを聴き分けられなかったことも。
どんなに主張しても、音楽は平等でしょくらいの馬耳東風、のれんに腕押し。
要はね、自分の耳で判断した良し悪しではないのです。売れているか、売れていないか。
服装もそう、髪型もそう。趣味。車。肩書。年収。徹頭徹尾マウントをとってくる。
おれごんはこれまでファッションも髪型もバカにされてきました。でもわたしはいいと思っている。好きでやっているんだもの。
間違いなく、彼はわたしが小説を書いていると知ったら。
嘲笑するでしょう。読みもしないと思います。だって売れていないから。
売れていないから面白くない。面白くないから売れていない。証明終わり。
わたしには密かな信条があるんです。常に敗者でいたいと。社会的に弱い立場でありたい。
おれごんは根が単純なのですぐに調子に乗ります。本来は鼻持ちならない人物。たぶん大金持ちだったならスネ夫レベルのいけすかない奴。
だから戒めとして弱者であり続けたいと願っています。この位置でなら、わたしは自分が嫌な奴にならずに居続けられる。
だからわたしは、わたしの対局に存在する兄が嫌いです。




