第12話 逃げる鳥
野鳥って近づくと逃げますよね。何の種類かもわからない、いろんな音色をもつ小柄な野鳥たち。
こちら側に害を及ぼす気がなくても、進む方角がまるで異なっていても先んじて危険を回避する行動をとる。
餌付けされた鳩などはもう少しで触れるくらいまで接近できます。本気を出したらギリギリ捕まえられるのかも。
でも野生の鳥はまったくパーソナルスペースに近寄ることを許さない。虫取り網などでは到底かなわない。私たちにできるのは、ただ耳を澄ますことだけ。
ヒトの住まわない離島などでは、ヒトを怖がらずに逃げない野生動物もいるのだとか。だとしたら、あれら逃げる行動はもちろん自衛のために。
よほど危ない目に遭ったのでしょう、過去に。
捕まえて食べようとした過去があるのです。ああ、ご先祖さま……。
まあでも仕方のないことだったのだと思います。おそらくは飢饉。飢えに飢えて、あんな小さな野鳥でも捕まえて食べようとするくらいには困窮していた時代があった。
あのときの恨みがDNAにしっかりと刻まれ、数百年を経た今でも鳥はヒトを寄せつけません。
いいえ、違いますね。
戦時中、あるいは戦後すぐくらいも飢えて追いかけまわしていたのだと思います。恨みの根源は数百年前でなく、ほんの数十年前だった。
実は日本が今の姿になってからさほど時は流れていないのですよね。鳥はまだまだ己が身の危険を覚って避難する、こちら側に危害を加える気がなくなろうとも。
この二者の間にまたがる軋轢は、今後どれだけ時間が流れれば回復に至るでしょう。数百年? 数千年?
ヒト同士の軋轢はどうでしょうか。
世界各地に散らばる復讐の応酬は。
日本だって隣国との百年前から続く恨みの感情は。
時だけしか解決に至らせられないのなら、それは知的生物でもなんでもありませんね。ただの野生動物です。
当事者は難しくとも、せめて世代を経れば水に流す。流せずとも共に歩むくらいはして見せねば、霊長類と名乗る、霊長と誇ることは恥ずべきことです。
おれごんの祖母は弟を太平洋戦争で亡くしましたが、おれごん自身は渡米して5年間も同じ釜の飯を食いましたよ。
停戦は難しくとも、せめて永遠に続く休戦くらいはして見せねば。個人の感情を超えた行動が国家にはできうるのなら、それをぜひやって見せて欲しいものです。




