028 泣き虫の理由
「...ん、遅かったな。美織、菜目草。なんかあったか?」
「い、いえ、特にはありませんでしたよ?強いて言えば、ちょっと今日は片付けに時間がかかってしまったということで...遅くなってすいません」
「ご、ごめんな、さい...」
二人でペコリと謝ると、店長はまったく気にしていないという風で、私達を集合させる。
そこには店長だけでなく、既にみんなも揃っていた。あと、碧葉ちゃんも。無邪気に遊んでるけど、明らかに梓さんの髪持ってかれてますよね?い、痛そう...。
「碧葉ちゃーん。梓さん、困ってるからその辺にしてあげて?ね?」
「うぁ!」
「い、いてて...。た、助かったよ美織ちゃん...」
「いえ、こちらこそすいません...。見ていただいたのに...」
「あーううん。大丈夫大丈夫。心配ないよ?こう見えても俺、頑丈だからさ!ね?」
ね?と言われても、頑丈さと髪の毛の強さは関係ないんじゃ..と心の中で突っ込みをしていると、店長が、パンパンと大きく手を叩く。
「ほい、みんなご苦労様。今日はこれで終わりなんだが、ちょっとその前に見てほしいものがあってな...」
よいしょ、という掛け声と同時に出てきたのは、一つの大きな箱。
なんだろうこれ、と多少ざわざわしながらみんなが見守るなか、店長は話を始める。
「これ、実は秘密裏に仕掛けておいた通称"お客様ボックス"でな。いろいろと意見とかを集めておいたんだ」
『お、おぉ...!!』
みんなの声が重なる。それぐらい驚くべき事態だったのだ。
..店長が、そんなことをするなんて。
それぞれがそれぞれ、別々の反応をする。
「どうしたのさてんちょー?!熱でもひいたの?!早く帰って休んだ方がいいよ!?」
梓さんは、バカにはしてない。至極真面目に心配している。でも、煽られているようにしか感じない。
「....え、リエ。その、大丈夫?重い病気とかだったりするの..?一応腐れ縁なんだから、教えてくれたってよくない?..」
雨倉さんは、自分の親友がおかしいことが、重い病気にかかってるイコールになったらしく、本当に心配している。
「..店長。しばらく、休んだ方がいいのでは。それで、一週間...いや、一ヶ月ぐらい休んだら、もう一度戻ってきてください。大丈夫です。店長がいなくなったからといって、この店が潰れるわけではありません」
斎藤さんは、これからの予定を冷静に立てているように見える。が、その実はメガネの真ん中の部分を指で抑えながら、カチャカチャと震えていたりする。
「..........あたりえさんは、その...。えっと...」
菜目草さんは、言おうか言わないか迷っている。でもたぶん言わないと思う。菜目草さんはこういうことを、言わないひとだって知ってるから。
「.....お前らヒドクナイカ...?」
四人から言われて、相当傷付いたらしく、へこんだように座り込み、しくしくと泣く。
すっごい言われよう。...気持ちは分からなくもないけど。
「うぅ...みおりー。お前は..!お前は、私のことをひどくいったりしないよな?」
うるうると目に涙を溜め、上目使いで聞いてくる店長。普段の様子から想像もできないほど、弱った姿に一瞬胸がときめきかける。
ど、どうしよう...。どう言ったら成功...?いや、正解?
これにプラスして言ったら、店長はたぶんKOされる。ノックアウトしてしまう。
それだけは、どうにかして避けなきゃいけない。
「....えっと、その、店長..?」
「みおりぃ...」
「その、今日はみんな忙しいでしょうし、店長も元気がらなくなっちゃったみたいなので、一時的に解散しませんか?この箱はまた明日ってことで...ダメですか?」
傷付けず。それでいて店長の心のリセットもかけて、いまは諦めてもらって、次の機会を作りつつ、時間的にも遅いので解散を促す。
どうだろう。ちゃんと聞いてくれてのかな..。項垂れたまま動かないし...。
「.....分かった」
....あの、続きは..。
一向に店長から次が言われないので、この提案をかけた私が、自ら責任を取って、解散させる。
「.........えっと、みなさんお疲れ様でした!!その、あの、あー....か、解散..」
慣れない掛け声に戸惑い、声が小さくなっていくが、みんなはちゃんと聞いてくれていたみたいで、バラけていく。
その際に菜目草さんがこちらに視線を向けてきた。目は合ったのに、逸らされて、そのままいってしまった。
そういえばまだ、菜目草さんと仲直りしてない....。
追いかけたい気持ちを抑えて、目の前にいるへこんで座り込む店長に視線を向けた。
「...店長、大丈夫ですか?」
「...大丈夫じゃない。なんだよ、あいつら。そんなにおかしいことか?私がなにかしちゃダメなのか?」
「いえ、ダメということはないんですけど....」
「...なんだよ。美織もなんかあるのか..?」
弱った顔で、潤った目で、上目使いに弱々しく聞いてくる店長。いつもの男勝りな部分はどこへやら。目の前にいるのは、ただの年上の可愛い女性。普段は見向きもしない男性をも、きっと虜にしてしまうだろう。そんな確信が私のなかにはあった。
「....みんなは責めたりなんかしていませんよ。たぶん、店長自身も分かってると思いますけど、いままでの店長のやってきたことに比べて....」
「分かってる!!いままでと比べてまともだと言いたいんだろ!?分かってるよ、そんなこと..」
みんながここまで驚いた表情をしたり、聞き手によっては傷つく言い方をしたのも、いままでの店長からは考えられない行動をしたから。
良くも悪くも、店長はお店のことを大事に考え、お客さんに、加え私達店員が、もっと楽しくいてくれるよう考えていくれている。
..ただ、店長が出す案はどれも、奇想天外なものが多すぎて、みんなついていけず、やっても失敗に終わってしまう。もちろん、店長はふざけている気なんか一切ない。
空回りとはちょっと違うけど、どうしても、店長の出す案だけが、上手くいかない。
だから今回、トップクラスにまともな案が出たことで、みんなが戸惑うのも無理はなかった...んだけど、流石に店長がかわいそうだ。
「....その、どう言ったらいいのか、いまいち分からないんですけど。店長が、凄く頑張ってこの案を出してくれたっていうのは、伝わりました。ですから、落ち込む必要はないです」
「....美織..」
「もし、いま店長が誉めてほしいって思ってるんでしたら、いっぱい誉めます。慰めてほしいって思ってるんでしたら、いっぱい慰めます。...な、なんか要望はあったりしますか?」
「....ありがとう。やっぱり、優しいよ、美織は。前々からずっと知ってたけど。......気付いてるんだろう?私の違和感に」
「....」
薄々、感じてはいた。店長が店長らしくない。見た目は普通なんだけど、活力がない。
なんというか、こころが弱っているように見えた。
なにがあったのかは分からなかったし、店長も言わなかったから私も聞かなかった。だから、代わりに何かある度に、慰めたり、甘やかしたりしていた。
泣き虫。それがいまの店長には、当てはまっていた。
「なんかな。最近、なにかあるたびに、悲しくて悲しくて仕方ないんだ。ちょっとしたことで泣きそうになるし、気持ちが落ち込んだりする。いつからそうだったかは思い出せないけど、なぜか悲しい。その気持ちが強くなってる」
「...私には、どうしてそうなったかを解決する力もなければ、原因を突き止める知性もないです」
「いや、責め立てたかった訳じゃないんだ。そうじゃなくて、私はーー」
「ーーでも、さっきも言ったはずです。店長が誉めてほしいなら誉める。慰めてほしいなら慰める。私にはそれしか出来ませんけど、それならできます。...それじゃ、足りませんか?」
「....いや、大丈夫だ。それだけしてもらえるなら、充分嬉しい。...その、早速で悪いんだが、抱き締めて、くれないか?強くなくていい。優しく、抱き締めてほしい」
「もちろんです。気がすんだら、教えてくださいね」
「ん....」
今日一日に一体、なんかいハグをしたんだろう。なんかい慰めたんだろう。なんかい甘やかしたんだろう。
胸のなかで眠たそうに目を細める店長を見て、私はなんとも言えない感情に襲われる。
碧葉ちゃんに佐伯さんに雲雀さん、マティネスさんに店長。
まだ二日間しか立っていないはずなのに、いろいろな人、神様と話して、その人の感情だったり、思いだったりを聞いた。
私には身に余ることだって分かってる。そんな他の人の悩みや、願いを解決したり、叶えたりする力なんてないのは、自分自身がよく分かってる。
それでも、私なんかでいいって言ってくれる人がいるなら、その人、神様を助けたい。助けてあげたい。
店長のこれも、碧葉ちゃんの穴に関係してるかもしれない。それに、私の身にいろんなことが立て続けに起きてるのは、偶然なんかじゃない。碧葉ちゃんと出会ってからだ。
私がいまのこの立場にいるのは、多分偶然で、他の人の方がよっぽど早く、スムーズに、みんなの力になっていたんだろう。
でも、そんな可能性の話はどうでもいい。これは、私の問題。私に起きたこと。
いろいろやることは多いし、時間もない。正直、なにもかも足りない。
頑張るしかない。
私自身と、みんなのために。
.....まぁ、とりあえず。
眠すぎるから、帰ったら寝よう。うん。流石に疲れた。
抱き締められながら、店長の体で寝ないよう睡魔と必死に戦うしかないと思うと、ちょっときつい。
そのまま見終わって帰られる方。少し待ってください。
まず見てくださり、ありがとうございます。
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次回もまた会えることを願っています。
では、また。




