027 神様の妹3
「堪能堪能。流石の包容力。それに優しい。顔だって普通に可愛い。私みたいな不審者とでも、いまこうして話せてる訳だし、コミュニケーション能力だって高い。いやー、みんなから好かれるわけだ」
「ちょ、急に褒めないでください。なんか、恥ずかしいです」
「ギャップもカワイイ。あぁ、もう。うちに嫁ってよー」
「なんですか嫁ってって...」
ハグを最大限満喫できたのか、最後に顔全部を摺り寄せてから離れていったマティネスさんは、私を急に褒め始め、照れ殺しにかかってきていた。
純粋に褒められること少ないから、どうしても慣れない。
こう、なんか恥ずかしいしむず痒い。
「...そろそろ時間かなー。私の力じゃここらが限界だし、もうこの体返したほうがいいよね」
「..まぁ、その。やっぱり心配ですし」
「もっと、いろんなこと話したかったなー。..ねぇねぇ。今度はさ、ちゃんと来るから、その時は一緒に遊んだりしない?」
「別に構わないですけど....マティネスさんって神様なんじゃ...」
「..あー、いいのいいの。気にしなくても大丈夫だから。意外と仕事少ないからさ、神の仕事って」
「は、はぁ....」
神様の仕事がどんな物なのかは知らないけど、そんな感じでいいんだろうか。
本人が言ってるんだし、大丈夫なんだろうけど...心配。
「私は神様だから、心の中だって読めちゃうんだよ?心配してくれるのは嬉しいけど、大丈夫だから、ね?そんなやたらめたらに他の人のこと。ましてや神様まで心配されたら...ねぇ?威厳とかがさ、ほら、無くなっちゃうし」
「...だから読まないでください。読みハラです、それ」
「うぇ~、だから何それー。心配していっただけなのにー」
「冗談ですよ、ありがとうございます。心配してくれて」
私がくすくすと笑うと、マティネスさんはぶすーっと頬を膨らませて、拗ねたような表情を作る。
ほっぺたをつんつんしたい衝動を抑えて、私はマティネスの言葉を待つ。
「敬ってとかは言わないけどさー..。慣れるの早くない?適応力高すぎでしょ」
「いえ、ちゃんと敬ってますよ。こうやって、敬語使ってるじゃないですか」
「そうだけど、そうじゃなくてさー」
「ひょっとして、対応の仕方間違えました?てっきりラフな友達感覚ぐらいのがいいと思っていたんですけど...」
特にこれといった理由はないけれど、なんとなく。そう、なんとなく、マティネスさんがそんな感じの関係を欲しがっていた気がした。
「....なんで、そういうところ鋭いかなぁ」
「あ、合ってました?」
「なんで聞こえちゃってるかなぁ?!そこは聞こえてない流れだったでしょ⁉」
え、えぇ....理不尽....。
図星つかれて怒るとかじゃなくて、そこに怒られるなんて...えぇ...?
やっぱり、理不尽。
「...まぁでも、その、ありがとう。あながち、間違っていなかったから。その、う、嬉しい...」
「...デレた」
「な‼ちょ!い、言い方‼」
「可愛いからいいじゃないですか。それよりも時間は大丈夫なんですか?」
「か、かわいいって...‼いや、でも体は違うし、この人のことを褒めていることになるんじゃ」
さっきからどうしたんだこの神様は。ちょっとやり返そうと思って褒めてみただけなのに。いや、嘘は言ってないんだけど。
ひょっとして、ひょっとしなくても褒められ慣れてない?
神様って立場だから、褒められたり、甘えたりみたいな基本的なことをされたことがないのでは。
だとしたら、それはなんか、悲しい。人はそうやって愛情とかをもらったり、あげたりしてるのに、神様って立場だけで、それがされないなんて。
さっきのハグだけしか私に出来ることないって、思っていたけど、もしかしたらまだあるのかもしれない。
迷惑かけちゃった分は取り返さないと。
「........今度」
「でも私の方を向いてくれた気が....え?今度?」
まだぼそぼそなんか呟いたけど、無視して、話を切り出す。
「はい。今度。マティネスさんが、来たときは、えっと。め、目一杯甘やかしてあげます」
「.......へ?」
マティネスさんが菜目草さんの顔で、あんぐりと口を開けて、心底驚いたような顔を見せる。
そこまで驚かれるとは、さすがに思わなかった。
「さっき。お母さんに甘えることに憧れてる、って言ってましたよね?じ、自分で言うのもあれですけど、よく。その、人に甘えられるので、甘やかし方なら、なんとなく分かってるんです。それで、もしよかったら...わ、私に、甘やかされませんか?」
「....」
「も、もちろん断ってもらっても」
「いや、ううん。文字通りお言葉に甘えさせてもらおうかな。ここまできたら、とことんいろいろとやってもらおうかな。なんでもするって、さっき言ってたし」
「....自分で言っといて、ちょっといまのはアレかなー思ってたんですけど、受け入れてもらえてよかったです。ヒかれてたりでもしたら、心がノックアウトしてました」
「ヒきはしないよ。驚きはしたけど....。というか、さっきのを味わっちゃったら、次を求めちゃうに決まってんじゃん...‼」
「す、すいません。最後の方はなんて...」
「聞こえなくていいよ」
「いえ、でも...」
「いい」
「は、はい....」
耳は悪くないんだけど、さすがに耳元を囁く程度の声量を聞けるほどは良くない。本人も聞こえなくていいって言ったから、大丈夫なんだけど...。期限悪..い?
さっきから機嫌を悪くさせてばっか。自分がほんと、嫌になってくる。
「...あーいいのいいの。機嫌悪いとかじゃないから」
「でも..」
「違うったら違うの‼.....ちょっと照れてるだけだから」
ふいっとそっぽを向くマティネスさん。その一瞬、ほっぺたが赤くなっているのを私は見逃さなかった。
「え、照れ...」
「あー、私もう帰るね⁈ほら、もう時間もないし‼それじゃあ、そういうことだから‼」
口早にまくし立ててお別れを言ってくる。
戸惑う私に構わず、目をつむるマティネスさん。あれが戻る方法なんだろう。
とっさに私は口を開いて、最後にこう告げる。
「マティネスさん‼」
「....‼ど、どうしたの?」
ぴくりと軽く反応しつつも、目は開けずにそのまま聞いてくる。
何気に、名前を言ったのは初めてかもしれない。
「今度はゆっくりお話ししましょう‼」
「....うん。またね」
ビフォーアフターって、こういうことを指すんだろうなぁと、初めて実感。
数分前は、なんか変な人...いや、神様か。と思っていたのが、なぜかいまは普通に話してて、次に会う約束もしている。私の心境も変わったし、マティネスさん自身も、初めより砕けた感じで....いや、元々かな?
目をつむったマティネスさんはしばらく動かず、眠ったように固まっていた。
三十秒ぐらい時間が立つと、寝ている途中に体が浮くような感覚がするアレ(なんていうんだろうね)が起きたみたいに、一瞬体をびくっとさせる。眠たそうに目をかきながら、目を開けたのは、見てわかる。いつもの菜目草さんだった。
「...ん....ふわぁ...。あ、あれ..?も、もしかし、て。わたし、眠って...たの?」
目を開けるなり、現状がどういう感じなのかを瞬時に理解したのか、じょじょに顔を青ざめていく。
慌てる菜目草さんに私は冷静に、時計を指差す。
「菜目草さん、おはようございます。なにを勘違いしてるのか、分かりませんけど時間なら、まだ大丈夫ですよ?」
「え..?い、いや、でも、確かに、時間、が....あれ..?」
「菜目草さん。たぶん、寝ぼけてるんですよ。...もう、掃除も終わったことですし、はやく店長のところに行きましょう?」
「う、うん...?」
時間は確かに菜目草さんが乗っ取られたときより、そこまで変わっていなかった。
神様の力って、すごい。
「...あれ?」
「どうしました、菜目草さん?」
気を取り直して店長のところへと向かおうと、菜目草さんと一緒に歩き出すと、不意に菜目草さんが声を上げて歩みを止める。
私達がさっきまでいた場所をじーっと眺める。意味ありげに。
なにかあるのかと思って見てるけど...なにもない。
どうしたんだろう。
「....ううん。なんでも、ない。ごめんね、止めさせ、ちゃって...」
「べ、別に謝らなくても.....」
「い、行こう..?あたりえ、さんも、きっと、待ってます...」
「...そ、そうですね。い、行きましょう行きましょう」
危ない..!!最近、店長のこと名字とか名前で呼ばないから、一瞬本気で、誰だっけ?って思ってしまった。反省。
...そういえば、私、いつごみを片付けたっけ?というか、いつからなかったっけ。
あれ?
そのまま見終わって帰られる方。少し待ってください。
まず見てくださり、ありがとうございます。
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次回もまた会えることを願っています。
では、また。




