026 神様の妹2
「そもそも、この世界にいるためにはクリアしなきゃいけない課題、っていうのがあってね」
チョコレート(ちょっと高かったやつ)を食べながら、マティネスさんは順序だてて説明をし始めた。
チョコ、おいしい。
「碧葉ちゃんはこの現代においてはイレギュラーな存在。つまり、この世界にとってはとっても邪魔。そこはわかった?」
「...はい」
碧葉ちゃんを邪魔扱いされたことに一瞬、お腹の中に黒いものがグルグルとなった気がした。
それが怒りなのかは分からない。けど、確かにマティネスさんの言っていることは事実だし、なによりこの神様は悪くない。
「いなかったものが増えるわけだから、そのなにかがその世界にいたことで起きるこれからの出来事は全部、なかったことになってしまうわけ。連鎖的に現代まで響く場合もあれば、逆になんの被害も出さずに済む場合もある」
「...」
「じゃあそれだけで終わると思ったら、大間違い。その世界において、それがなくなるわけだから、それが現在にいてもダメなわけ。でも、存在してしまった。それを直すのが修正力。時代は書き換えられないようになっているから、それはいずれ、なくなるか消されてしまう」
「..修、正.....」
それだけ聞くと、碧葉ちゃんが間違いみたいに聞こえて嫌になる。
でも聞かなきゃいけない。それを言わせないよう、止めるために。
「で、いままではそれでどうにかしてたんだけど――イレギュラーがねー...発生しちゃったんだよね」
「イレギュラー?..どうしても残っちゃったとか?」
「ううん、違う」
真顔で一蹴される。
真面目に考えたつもりなんだけどなー。
ついでに心も削られた気がする。
「この世界に来て早々に消されるか、戻る予定だったのがねー....近くにいた一人の少女のてによって救われちゃったんだよねー」
「...あれ?」
なんかどこかで聞いたことのあるような...。
「だーいぶ昔にいた時代だったからすぐに修正力が働いたんだけど、近くに人間がいたせいで、流石に現在で生きる人間を殺すことができないから、修正力を姉が止めてね?でも、残すわけにもいかないし、どうしよーって困ってたわけ」
「もしかしてそれって最近のことですか?」
「うん」
「この付近ですか?」
「うん」
「........私と..碧葉ちゃんのことですか?」
「....うん」
言いづらそうに目を逸らしながら答えるマティネスさん。
そっかー、私のことだったんだ。そうだったんだ。
ひょっとして私、凄くまずいことをしてしまった感じなのでは?
「....えっと、その、謝っても許されることじゃないって、分かってるんですけど、その、本当にごめんなさい....。私に出来ることならなんでもするので....」
「あああ謝らないで‼うんうん。これは、その、人間だったらやっぱり困っている子を見つけたら、助けようと思っちゃうし、ね?うん、仕方ない仕方ない」
「うぅ....」
優しさが痛い...。なんだろう、さっきまでの私を振り返ってみたら、もっと心が痛くなってきた。
これは、私、地獄行き確定だよ。もの凄いことやらかしちゃったし。
「ま、まぁ、それをどうにかしようって話だから‼ね‼ね‼」
「....もっと良いチョコレート、用意しとけば良かったです....」
「大丈夫だから‼ほら、話の続きをちゃんと聞いて!ね?」
いつもと立場が逆....。
私はもしかしたら知らないところで、色々とやらかしちゃっているに違いない。この話が無事に終わったらみんなに謝りに行こう、そうしよう。
「...んん‼..えっと。それでどうにかしようと模索した結果、どうにか修正力に穴を作ることに成功してね。で、その穴が“前の世界での未練を完全になくすこと”。その条件に成功したら、あとはこちらでなんとかできるから」
「...未練?」
死ぬ前にやってみたいこととみたいな..?
これは遠回しに、未練はもう無いよなという確認なんじゃ...。
あぁ、私はやっぱり終わ――
「――違うって‼深く読みすぎ‼そうじゃなくて、碧葉ちゃんのあっちにいたいという感情をなくしてしまえば、成功ってこと‼」
「...でもそれって」
「うん。めちゃめちゃ難しい。だからこそ、手っ取り早く恋をさせるって言ったんだよ、多分ね。好きな人のためなら何でもしたいと思うのが、普通の人の感情だって思ってね」
なるほど。だから、恋なんて単語があの場面で出てきたんだ。
好きになったら人は盲目になってしまうって、どこかで聞いたことがあるし、たぶん前の世界のことも忘れてしまうかもしれないけど....。
「でも、それでも難しい。完全に、なんて簡単に言ってるけど、ほとんど無理。生きている人は普通、慣れ親しんだ場所、風景、空気、時間、人をどこかで覚えているものだし。それに、その忘れるために与えられた期間だって、そんなに長くない。姉の力をもってしても...」
そこでマティネスさんが、どこかを向いて考えるそぶりを見せる。計算でもしてるのだろうか。
それなら、計算しなくても私は電話で先に聞いている。
「....1週間」
「あれ、もう聞いてた?そう、だね。だいたいそのぐらい?」
「....やっぱり、短い」
「元は0だったのが、1増えているだけでも十分頑張ったほうだじゃない?」
改めて聞くと、凄く、短い。それに条件を聞いたから、尚更、短く感じる。
間に合う、のか、なぁ...。
「はい。これで説明終了。まぁ、ほら。難しいこと言ったし、事実難しいことだらけだけど、簡単に言えば想い一つで、碧葉ちゃんは助かるワケ。だから、そんなに難しく考えなくていいんじゃない?」
「.....」
「私もできる限り手伝うし、ね?私としても碧葉ちゃんが消えるのは心苦しいものがあるしね」
励まして..くれてるのだろうか。
碧葉ちゃんを助けたことに対しては、まったく後悔はない。でも、それのせいで他の人に迷惑をかけているなんて、思いもしなかった。
「...ほら、私もさっきまで迷惑かけてたじゃん?だから、それでお相子ってことで。.......って‼これいつもと逆じゃない?!みおりん、いつもだったら慰める側だし、叱る側じゃん‼」
「なんで知って....あぁ、神の力とやらですか。別に慰める側なんて大層なこと、してませんし、出来ませんよ。あれも叱るというか、なんというか。...そんなこと言える立場じゃないのに」
「あぁもう‼何がそこまでみおりんの心を弱くさせたの?!大丈夫だって‼そこまで気にするようなことじゃないから‼ね?」
必死の形相で私の肩を掴んで、ぐわんぐわん揺らされるのは中々酔いそうになるけど、それでも私を元気づけようとしてくれる優しさは伝わる。
...ふふ。
「ありがとう、ございます」
「ほ..よかったよかった。..なんか、みおりんのダークサイドの覗いた気分」
「なんですか、ダークサイドって」
「なんでもなーい。....あ、そういえばさ。元気になったんだったら、一つお願いしてもいい?」
「お願い?どうしたんですか急に。碧葉ちゃんのことなら、大丈夫ですよ。ちゃんと覚悟は決めましたし」
「あー、ううん。そうじゃなくってさー」
「...?」
歯切れが悪い。
さっきまでぺらぺらと喋っていたのに、急にどうしたというんだろう。
....はっ、もしや。まだ、言い損ねた私が犯した罪みたいなのが残ってる...みたいな。
だとしたら、確かに言いづらいだろうなぁ。この流れで言うのは気まずいだろうし、この神様は見た目以上にとっても優しいから、いま頭の中でいろいろと考えているんだろうなぁ。
「..マティネスさん。大丈夫ですよ。私もちゃんと覚悟を決めました」
やっぱり。
いまの短い話でも分かる。マティネスさんはとっても良い神様だ。優しい神様だ。
その神様に最後まで迷惑をかけるわけには、いかない。
「...え、ほ、本当?てか、私気付かないうちに言っちゃってた?」
「いえ、言ってはいませんが、なんとなく察しました」
「あっちゃー、バレっちゃてたか」
「はい。ですから、気にせず言ってもらえれば」
今度はいったい、何をいわれるのだろう。
記憶をさかのぼってみてるけど、なかなか出てこない。
あ、いまため息ついた。どんなこと忘れちゃったんだ.....私..。
ゴクリ。
「――いっやー、まさかハグしたみたい、なんてことがバレてたなんて」
「本当にごめんなさい‼」
...うん?
いまなんて?
ハグシタイ?え?
ハグって、あの、抱きしめあう、あれのこと?
あれ?違ったの?私がまた何かやらかしたとかじゃないの?
「...え、あ、うん。そう、だよねー。嫌だよねー。普通断るよねー。ハハー、私ったらうっかりー.........はぁ....ダメだったのかぁ..」
「えあ違うといいますかそうといいますか、とにかく言い間違いです、聞き間違いです‼大丈夫です‼おっけーです‼問題ありませんから‼」
「え、でもいまごめんなさいって...」
「いやいやいや、勘違いしちゃっただけですから‼ハグでしたっけ!?もちろんいいですよ‼」
「ぁ.....」
ぐるりと腰にまでまわした手がマティネスさんを包む。
体は完全に菜目草さんだし、手触り、匂いもやっぱり菜目草さん。
だけど、いまハグしている相手は違う。マティネスさんだ。
全部が全部菜目草さんというわけじゃない。話し方、姿勢、雰囲気。それらはすべて、菜目草さんの物ではなくマティネスさんのものだ。
どうしてハグを要求してきたのかは分からないけど、迷惑をかけ続けたからには、少しぐらい、私でも出来る恩返しがしたい。
それにさっき、なんでもしますって自分からいっちゃたしね。
「....」
「こ、これであってますか?」
「....あー、なるほどね。たしかにこれはくるよ。うん。この体の持ち主のせいかもしれないけど、それにしたってこれは....」
「え、ええっと...。これで、大丈夫なんですよ..ね?」
「んー...おっけー、おっけー。...あー、きもちいー。リラックス効果のある成分でもでてんのー?みおりん」
「どんな体ですかそれ...」
もしそうなら、どんな特殊体質なんだ私。
偉いひとの研究所に連れてかれない?大丈夫?
「~~♪」
楽しそうに鼻歌をしながら、私の胸に頬ずりをするマティネスさん。
なんか似たようなの最近見たなーと、妙なデジャブ感を思い出す。誰だったかな.....えーと、えーと。
...あ、碧葉ちゃんだこれ。似たようなのやってたやってた。
「いやー、にしてもみおりん胸大きいねー。ほんとの私は貧乳だからなー。この体の持ち主....菜目草さん?羨ましいなぁ」
「まぁ、ほら。ないものねだりっていうじゃないですか。兄弟姉妹がいない人とか一人っ子の人とかいい例じゃないですか?」
「そりゃそうなんだけどねー。女の子としては神様だろうとやっぱり、胸大きいほうがあこがれるじゃん?」
神様の力とやらを使えばいいのでは?と思ったけど言わないでおいた。人それぞれならぬ。神それぞれあるんだろう、事情が。
「......それにしても、なんで急にハグを要求してきたんですか?」
「あー、いやね?母親とかいう存在が、私たちにはないんだよ。ほら、神様だからさぁ。ちょっぴり憧れてたんだよね。お母さんに甘えるってこと。...いやーでも、やってて正解。これは気持ちいし、心地いい。眠るなんて概念神にはないけど、眠たくなってくる気がする....」
「...なら、よかったです」
....そんなに年を取っているように見えますかね?
ちょっぴり傷ついた私の心を知らず、マティネスさんは私の胸の中で、嬉しそうに口元を緩めているのだった。
そのまま見終わって帰られる方。少し待ってください。
まず見てくださり、ありがとうございます。
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あと、この話、なんか直したほうがよくない?と思うのがありましたら、そちらも報告してくれると嬉しいです。どこを直したほうがいいかも言ってくれると、もっと嬉しいです。
次回もまた会えることを願っています。
では、また。




