025 神様の妹
「...んくんくんく.....ぷはぁー!.....いやー冷たいお茶ってなんでこんなに美味しんだろうね」
仕事終わりの一杯を飲んだ会社勤めのお父さんみたく、勢いよくお茶を飲み干す。
ただし、菜目草さんの格好で。
「さ、さぁ...?」
「いやー私さぁ?アルコール系の飲み物とかって、ほんとに弱いからさー。一度酔っちゃったせいで、大変なことしちゃったから姉からも止められててねー?いや、私自身も飲みたいわけじゃないんだけど」
へらへらと軽口を叩くように、友達ぐらいの距離感で話しかけてくる。コミュ力が高そう。というか、高い。
だがしかし、その格好は菜目草さんだ。
「はぁ」
「おかげでお茶とかが一段とおいしく感じられるようになってねー?あ、なんか食べ物ない?なめくささんとやらのお腹がペコペコで、私までお腹すいてきちゃったよー」
「おやつぐらいなら私のバッグ入ってますけど.....。いや、そうではなくてですね?私、いろいろと聞きたいことあるの我慢しているんですけど、特に説明もないなら質問してもいいですか?」
「えー、そうなのー?飴とかでいいんだけどそれもないのー?」
「流石にバイト中に飴だろうと、お菓子を持ち込みながらはやりませんよ。そんな勇気ありませんし」
中身も外も私より年上の人からお菓子がないかとせがまれる。普段だったら絶対に言わない。
なぜなら、中身は菜目草さんじゃないから。
「というか、そろそろ説明してくれませんか?ないならこっちから質問させてください。そして答えてください。これ言うの二回目です」
「あれ、ちょっと怒ってる?ダメだよー、短気は損気っていうでしょ?リラックスリラックスー」
「....」
私、短気じゃないです。
ちゃんと怒る理由があります。しかもそこそこ重ならないと怒ったりもしませんし。
夜遅くて眠くて、掃除が終わったところで報告しようとしたら邪魔されて、菜目草さんとの仲直りも邪魔され、連鎖的に碧葉ちゃんと一緒にいる時間も減らされ。
別にすぐ話をしてくれれば問題はないのに、なぜか説明はされず、世間話をしはじめて、話を促したら短気呼ばわりされて。
.....短気なのかなぁ。
いや、それはともかく、早く菜目草さんの体を返してくれないと、仲直りができない。
とゆうか、体を乗っ取ってるけど、菜目草さんに害はないの?うーん、凄く心配。
「うわぉ、ちょっとじゃなかったよ、普通にキレちゃってたよ。一応とはいえ神なのに私、人類に怒られそうだよ。ごめんごめん。ふざけすぎたね、真面目に話すからまってまって」
「ナチュラルに心読まないでください。セクハラです。読みハラです、読みハラ」
「いやなにそれ!?やっぱり怒ってるって、ひいー。すぐ説明するから、どー、どー。ほら、人参あげるから」
「わかりました。いまあなたの姉に電話をかけるんで待ってください。どうにかして無理矢理にでも連れて帰ってもらうので」
静かに私がそう言うと、顔を青ざめ慌てて電話させまいと邪魔しにかかる。
そんなに嫌なら最初からしなきゃいいのに。
「ちょ、ちょ、ちょ!やややややめて?!私が悪かったから!!ちゃんと説明するし、終わったら安全に迅速に体を返すから!!」
「仏の顔も三度までなんで。あとワンチャンス、ですからね」
「はい。肝に命じておきます!!」
本当かなぁと怪しみながら、私は話をしてもらおうと促す。
それにしても、ちょっと調子に乗っちゃって、慌てて謝るところまで全部そっくり。本当に姉妹なんだなぁ、と実感する。
「..ごほん。私がこの子の体を乗っ取ってまでやりたかったことはただ一つ。さっきも言ったけど話をしにきたの。あの、碧葉ちゃんとやらの子についての話...とゆか解説をしにきたんだ」
「...解説、ですか?説明なら、あなたの姉からとっくのとうに――」
「それが違うんだなぁ。あの姉からの情報ってどんな風に伝えられた?」
「え、っと...。確か、あ、碧葉ちゃんに恋をさせることって...」
「アハハハハハハハハハ‼‼‼‼あの人、そんなこと言ったの?!適当すぎでしょなにがなんでも‼」
部屋を包み込む菜目草の大きな笑い声。いつもだったら聞くことのできない、大きな、大きな。そして、心底面白がる笑い声。
ひーひーと笑いすぎて目から涙が見える。笑いの沸点低くない?
「..違うんですか?」
「はーはー.....あー..いやね。完全に違うってわけじゃないんだよね、その説明。嘘はついてないよ、安心して。ただ、それはあくまで最終結論」
「...?」
どゆこと?
「まぁ、その大雑把な説明を。ちゃんと、具体的に説明しに来たってわけ。ユーアンダスタン?」
「..私怒るの嫌いなんです」
「ごめんごめん。..で、それでね。あー、どこから説明したものか。うーん...」
ふざけていたとはいえ、説明はきちんとしてくれるらしく、頭を捻って考え出した。
...ちょっと、雑にしすぎたみたい。
「...チョコレートしかないですけどいいですか?」
「.....え?くれるの?」
「....真面目に考えてくれる人に、ひどい扱い、言葉はしませんし、かけません。それで、いります?」
「....‼いるいる‼あまぁいやつ頂戴‼」
曇らしていた顔を少しずつ明るくさせていく菜目草さ...いや、マティネスさん。
私も思わず顔を綻ばせ、チョコレートを取りに行こうと立ち上がった時。
「..あ」
「ん?どしたのー」
「いえ、そういえば今は、清掃の時間だったことを思い出しまして...」
しまったー‼話してて忘れてたけど、いまはがっつり仕事の時間。
店長に叱られるぅ....。
「あー、それならだいぜぶだよー」
「へ?」
「いま、この瞬間は、一秒であって一秒でない。とゆか、時間が止まってる?」
「....え」
「なにそのかおー。だから、これでも神って言ったじゃん?そんな長い時間止めるのは無理だけどさ。三十分ぐらいならできるし」
か、神様って、なんでもありなの...?
開いた口が塞がらないって、こういうこと言うんだね。一つ学んだよ。
「...ちょこれーと......」
「え、あ、は。ちょっと待ってくださいね。いま取ってきますので」
うん。気にしない、気にしない。いまは、碧葉ちゃんのことで私は精一杯。神様がどうとか、考える余裕はない。神様と電話番号交換してる時点で、大分すごいんだろうけど。普通、そこから考えるものなんだろうけど。
わたしの荷物が置いてあるスタッフしか入れない部屋へと侵入する。
道中、みんなが固まって完全に石像状態になっていたけど、無事だろうから、気にしない、気にしない......。うん。
目的のものを取り出し、早々に出る。音一つ立たない部屋に一人って、すっごい怖い。恐怖しかない。
私が戻ってくると、床に寝そべりごろごろとぐだっていたマティネスさんが、ひらひらと手を迎えてくる。どんだけリラックスしてるんだろうこの人、いや、神様は。
さっき、一応軽く怒ったんだけど、どれだけメンタル強いの?
「おー、みおりん。思ったよりも早かったねー。てっきり止まっている他のみんなを見て、失神しちゃうのかと思ってたよ」
「失神はしませんでしたけど、びっくりはしました...。というか、そのみおりんって...あだ名ですか?」
「うんうん、そうだよー。美織だから、みおりん。...もしや、気に入らなかった?」
「いや、別にいいですけど...。というか、ちゃんとチョコレート持ってきたんで話してくださいね」
「もちろん。...それでチョコレートはどういうのー?....おー、定番の板チョコかぁ。いいね。おいしいよね、板チョコ。いっただっきまーす」
「あ、ちょっと、早いですよ。...食べながらでもいいので、ちゃんとしてくださいね」
「わかってる。わかってる。おいしー‼..んーと、みおりんがいない間にちゃんと考えてきたんだけど...」
碧葉ちゃんが助かる方法。
分かるんだったら、ちょっと高かったチョコレートも仕方ない。
...でも、一人でゆっくり食べたかったなぁ...ぐすん。
そのまま見終わって帰られる方。少し待ってください。
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では、また。




