022 なんか、今回キャラ紹介多くないですかね。
今回、前回。碧葉ちゃんが空気。
ごめん。
問題はなく、滞りなく、血液のように流れていく。満員電車で降りる駅がみんな一緒だったときに、一斉に出ていくように。...いや、例えがおかしいね。うん。
要するになんにもなかったよ、ってこと。
店長はあの後、数分ぐらい立ってから戻ってきて、なにをしていたのかと聞いてみると、
「警察だけは勘弁してくださいって、土下座された。もともと出す気はなかったけど、反省のしるしやらなんやらで、こんなの渡してきた。...絶対にゴミだろ。ま、もちろん、二度と来るなって言ったけどな」
と、いつも以上に男勝りな話し方で、愚痴を吐いていた。
渡してきたと言ったものは、一つの小包。白い紙で包まれていて、いかにも危なさそうなものだった。
どうして、これを渡してきたの?どう考えたっておかしくない?普通は謝罪して、もう二度と来ません!って言うだけとかじゃないの?私がおかしいのかな?
とにもかくにも、この小包はいいとして、問題は一先ず解決した。
そして今は、店の後片付け。みんなで分担しながら、いろいろと片付けたり、洗ったり、整理したり、確認したり...えとせとら、えとせとら...。
「ねぇねぇ美織ちゃん。今日のあれって..もしかして素だったりする?」
そんな時、窓をふく私のもとへとやってきて、話しかけてきたのは、梓 陽良さんだった。
ちゃらそうな話し方で、ちゃらそうな見た目。耳と口にはピアス、頭を金髪に染め上げ、渋谷とか新宿とかにいそうなイメージを抱かせるその風貌。
実際にちゃらいんだけど、普通に良い人。
私と接するときも、大抵の人は体..主に胸部に視線を移してくるけど、この人は最初に会ったときから、目と目を合わせて話をしてきてくれた。
別にこの人が同姓愛者だとか、そういうじゃなくて、単純に、純粋に、事実的に、良い人だから。人を見た目ではなくて、中身で見ようとする人。
この人のことで分かっているのは、歳は23だとかで、この店以外はなんのバイトもしていないらしく、一人暮らしらしい。
これしか教えてくれず、どこに住んでいるのかとか、どうしてここしか働かないのかとか、細かいことは、ホントに何も教えてくれない。というか、この店に働いている私以外の人全員、謎に包まれてる。
聞いても教えくれず、上手い具合にはぐらかされて、結局聞けずに終わってしまう。
無理矢理問いただしてまで聞く気はないけど、少しばかり気になる。私の好奇心が疼くというか...なんというか。
とにかく良い人だから、うん。多分。おそらく。
「あれって、今日の男性客の出来事のことだったりしますか?」
私がそう言うと、カラカラと楽しそうに手を叩いて笑いながら、
「いやいや美織ちゃん。それ以外なにがあるのさ?それだよ。そーれ。その出来事」
と言ってきた。
「素...ではないと思います。あの時の私は男性客が、碧葉ちゃんを怖がらせたことに怒っていたので..若干キレていたんだと思います」
「へぇ~。美織ちゃんって怒るんだ?意外だわ~」
「いや、私だって怒りますよ。たまには」
機械じゃないんだから、私だってたまには怒るときぐらいある。ましてや、碧葉ちゃんを怖がらせたのが、偶然ではなくて、故意に。しかも男性なら尚更。さらに、私のことを仕事中なのにナンパしてきたし、店長のことをバカにしてきた。
怒ってしまう条件を何個もクリアしている。こんな状況で怒らないはずがない。...まぁ、怒ったっていっても、そんなガチギレとかじゃなくて、少しだけ。ほんの少しだけ..ってこれさっきも言ったような..。
「なーんか、得した気分」
「得?なにを得したんですか?」
「いやだってさ?いつもの美織ちゃんとは、また違う美織ちゃんが見れた訳でしょ?なんかそれって...よくない?」
続く言葉をしばらく考えたのちに、思ったような言葉が出なかったようで、なんともふわっとした返事を返してきた。
梓さん。語彙力が致命的です。別に勉強できないとか、頭が特別悪いとか、そういうのじゃないんですから。
両方ともない私と違うんですから。もうちょっと、違う言い方しましょう?いまのままだと私の方がありますよ。語彙力。
「ちょっと梓。美織にちょっかいかけないで、さっさと片付けて。...ほら、これ。あとこれも。ついでにこっちもよろしく。頼んだから」
「え、ちょ、ま」
「待たない。じゃ、よろしく」
そんなことを考えていると、雨倉さんが少し離れた位置から梓さんを呼び止めて、梓さんの仕事量を増やしていく。
やめてもらおうにも、強制的に話を進まれてしまい、さらに言うだけ言って雨倉さんは立ち去ってしまった。
「えぇ~..ちょ、京子さーん。...あー、これ本当に任されたパターンだわ。...はー...ごめんね美織ちゃん。話はまた今度ってことでいい?」
「別に構いませんけど...」
梓さんは私に一言かけてから、雨倉さんを追いにいく。しばらくして、私の見えるぎりぎりの所で雨倉さんと遭遇。雨倉さんに何か言ったのか、梓さんが頭を叩かれて、バツの悪そうな顔をする。そして、二人でどこかへと立ち去っていく。
...この人。苦手ではないし、嫌いではないし、普通に良い人なんだけど、やっぱり私とは合わない。
仕方のない、ことなんだけどね。
「ん....ふわぁ...。こんなもん、かなぁ?」
窓を一通り吹き終えた私は、ぐーっと一回背筋を伸ばす。ついでに欠伸も口から溢れる。ちょっぴり眠い。
そんなに働いた記憶はないんだけどなー..と思って時計を見る。時刻は三時。...そりゃ眠いわけだ。
よく動けたと、自分自身を誉めたい。
あ、だからなのかな?眠くて疲れていたのもあって、私は少しキレたのか。なるほど。一つ学んだ。
...うん。えと、自己分析はひとまずいいとしても、眠いことには変わりない。早めに帰って、少しでも寝ないと
思い立ったが吉日、だったっけ。そんな感じで私は店長に、窓拭きの終了を伝えにいこうとする。
後ろを振り向いて、雑巾を片手に店長を探そうとすると、そこにいたのは、店長。ではなくて、私より少しだけ小さいくらいの身長で、かなり猫背な誰かが、真後ろまで接近していた。
「ーーって、うひゃあああぁぁぁぁ!?なななな、なめくささん?!」
「っひ...ご、ごめん、なさい...。わ、わざとじゃ...ない、の....。わ、私って、影が薄いから....」
「い、いや、そこまでは言ってませんから...」
「あ、え、えっと...その、ご、ごめん、ね...」
「あ、謝らなくていいんですよ?」
「で、でも、ほら、私って、気付かない内に、人を傷つけたり、気分を悪く、させちゃうから...」
自虐的な発言を開始早々に繰り出してきたのは、私よりいくつか年上で、聞いて分かる通りかなり喋るのが苦手で、そしてなにより超がつくほどのネガティブ思考の持ち主でもある。菜目草 早苗さんだった。
菜目草さんは確か、雨倉さんと同時期ぐらいに入ってきた..とかなんとか言っていた気がする。ちなみに入ってきた理由は不明。まぁ、人それぞれ、色々とあるよね。深くは聞かないでおく。
この店では主に厨房で料理を作る担当をしており、菜目草さんの作る料理は中々に絶品だと、お客さんからもよく褒められている。しかし、本人は社交辞令の一種だと思っているらしく、まったくもって信じていない。むしろ裏で色々と貶されているのだと思っている。絶対にそんなことないのに。
確かに客観的に見れば、覇気がなくて、いまにも倒れてしまいそうな感じもする。顔は長い髪に隠れ、ほとんど見ることは叶わない。常に猫背だから態度が悪いようにも見えてしまう。
でも、その長い髪に隠れた先にある素顔は、すっごく綺麗。
猫背でさらに服はぶかぶかだから分からないけど、本当はスタイルだっていい。
え?何で知ってるか?...あー、えっと、それは、また今度。
とにかく。しゃきっとしていれば、特になんの問題もないのに本人が(何度も言うけど)ネガティブ思考の持ち主だから、色々と考えすぎちゃって、なんというか、結果的に大分損しちゃっている、みたいな人。
長くなったけど、そんな感じの人。
「大丈夫ですよ。私は傷ついてませんし、気分を悪くされてもいません。むしろ菜目草さんから来てくれて、嬉しいですよ?いつも、避けられているような気がしますから」
「あ、ありがとう...?」
むぎゅう...と、ゆっくり菜目草さんの体に沈みこむように、正面からハグをする。
....うひゃあ..菜目草さんの体、柔らかいぃ...。
太ってるを遠回しに言ってるんじゃなくて、例えるなら...そう。人をダメにするソファ、とかが例えには丁度いい。それの人間版が菜目草さん。ホントにやわらかい。
体がどこまでも沈みそうで、尚且つ沈んだ体を、ほどよい弾力で、包み込みながらも、圧迫してくる。
猫背だから分からないけど、菜目草さんの身長は私とそんなに差がなかったりする。私の方が...数ミリばかり上、だったけかな。
私が屈みながら抱きつくと、ちょうどよく顔が菜目草さんの柔らかな胸部に当たる。菜目草さんは体もさることながら、胸もかなり柔らかいので、疲れた私の体がどんどん癒えていき、夢の世界へと行きそうになる。
「つ、栗花落ちゃん。そ、その、こそばゆい..よ?」
「あ、嫌でした?それならすぐに離れますけど...」
「ち、ちがっ!...その、私なんかに抱きついても、なんの得もないし、損するだけだし、その、汚いだろうし...」
...む。
抱きついていた体を一旦剥がし、両腕を掴んで、私は菜目草さんと正面から対峙する。目は髪で隠れてるから、分からないけど、おそらく目が隠れてるであろう場所を見つめて、私は話を切り出す。
「菜目草さん」
「は、はい..」
「そういう自虐的なのは止めて下さい、って何度も言ってますよね?」
「で、でも...」
私はもう何回も、菜目草さんにこの話をしている。
何度も、何度も。でも、その度になにかしら理由をつけて、そのまま逃げ去っていっちゃう。
今日こそ、菜目草さんのこのネガティブ思考を、せめて私の前だけでも、抑えてもらえるようにしないと。ホントに損しかしなくなっちゃう。
せっかく、そんな魅力的なモノを、武器を、可愛さとかを、たくさん持っているというのに。
..勿体無い。
「でももダムもありません。菜目草さん。私もう、この話を何回もしてます。でも、ちゃんと聞いてくれた試しがありません」
「あぅ....ご、ごめーー」
「ーー別に全部を否定してる訳じゃないです。私がこうして言っているのは、単純に押し付けがましいだけでしょうし、事実そうなんでしょうし」
「え..」
「それでも、私は心配してるから。どうしても、菜目草さんにはポジティブに生きてほしいから。ただの仕事仲間ですけど、私個人は、菜目草さんのことを友達だと思っています。友達は、大切にしたいです」
「と、とも...だち..」
「はい。ですから、全員が全員に対して、その考え方を止めて下さいなんてはいいません。...例えば、雨倉さんとか、店長。梓さんや高良さんでもいいです。少しは考え方を変えてみては、どうですか?」
「....」
菜目草さんは何も言わない。
いつもはこれくらいのタイミングで、どこかへいってしまうから、記録は更新できた。あとは、頑張って説得するだけ。
それが一番大変なんだけどね。
「そ、その...」
「...?」
「他の人よりかは、まだ信用とかその他もろもろがないでしょうけど..その.....。私の前でも、そういう風な考え方になってくれたら、嬉しい、かなぁ...って」
これは説得じゃない。私個人の、身勝手なお願い。
押し付けがましいと思われても、こんなに努力をしてきた。頑張ってきた人を、私は見捨てたくはない。もっともっと幸せになってほしい。
..そんな話を、お店でするのもどうかと思ったけど、ここ以外であんまり会えないし...。
「栗花落ちゃん.....」
数秒の無言が私達の周りで、突如として巻き起こる。
なんとも気まずいその空気が流れる。周りのみんなは気を使ってくれたのか、さっきまでいた(ような気はした)のにいなくなっていた。静まり返った店。私がどうしたものかと悩んでいたその時。その空気を菜目草さんが破った。
私に捕まれていた腕をゆっくりと振り解いてくる。もちろん抵抗はせず、素直に私の方から手を離す。振り解かれるイコールダメだったと思っていた私は、一瞬諦めかけるがそれは杞憂に終わった。
振り解いた手を、今度は自分から私の手を握りしめて、顔を上げ、こちらに目を合わせる。
風でなびいた髪の隙間から、菜目草さんの瞳が覗かれる。やっぱり綺麗だなぁ...と見惚れているうちに、菜目草さんは私に言葉を、答えを返してきた。
「....うん。わかっ、た。がんばって、みる」
「ーーっ!!ほ、本当ですか?!」
「いきなりは、むずかしい、から。ちょっとずつ、だけ、なら...。私でも、出来ると思う」
両手をグーにして、ちからづよく握る。その様は、なんだか一皮むけたような、ちょっとした頼もしさみたいなのも感じられた。
「だ、だから、えっと...その、さっきの、続き...しよう?」
今度は握った手をパーにして、前に差し出してくる。なにを意味するのかは分かっているし、もちろん。私の答えは....。
「...はい..!」
「ん...」
抱きしめたその体は、さっきと同じはずなのにどうしてか、さっきよりも、心地よさを感じたのだった。
そのまま見終わって帰られる方。少し待ってください。
まず見てくださり、ありがとうございます。
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次回もまた会えることを願っています。
では、また。




