016喧嘩に年上も年下もありません。
わ、わ、私、とりあえず落ち着け。落ち着くんだ。深呼吸、深呼吸....。ふぅ..。心臓、バクバクいってる..。急に叫んだりするから、酸素が足りない..。
背負った碧葉ちゃんを、すぐに降ろして、時間を確認する。ひょっとしたら、バイトの時間過ぎてるぞとかの内容じゃなくて、急用があって掛けてきたのかもしれない。そうであって欲しいと願いながら、私は電話に出る。
『....もしもし』
『ーーっ!つ、つゆりでしゅか?!』
でしゅって...盛大に噛んでる。どうしてこんなに緊張してるの?私がなにかしたとでも....あ。
そうだ、そうだった。私と店長、いま現在進行形で喧嘩中だったんだ。色々なことがありすぎたせいで完全に忘れていた。
しゃあ、この電話ってもしかして、謝るために掛けたのかな?
時間を確認したけど、まだ一時間ぐらいあったし、多分そう。
『..私にかけたのに、私以外がでるってそれどういう状況ですか?』
『そ、そうだよなー。あは、あははは...』
空笑い。電話越しでも分かるぐらい声のトーンとか、喋り方とかが違う。元気がまったく感じられない。それまでに凹んでいるのか。
喧嘩をしている最中なので、それっぽい雰囲気を出しながら私は電話をする。もう怒ってはいないけど、いきなりいつも通りに話しかけられたら不気味がるだろうし...。タイミングをみて、なんとか喧嘩を終わらせないと。一緒に働くのに喧嘩なんかしてたら、雰囲気悪くなっちゃうし。
『...それで、なんですか?バイトの時間までは、まだありますよね?』
『い、いや、その。バイトの話じゃなくて....』
『じゃなくて?なんですか』
『あ、いや、うぅ...』
この電話を聞いていた人がいたら、おそらく親子喧嘩にしか見えないだろう。こんなことしてるから、既婚者だと勘違いされるんだろうなぁ...。
でも、大人でもやっていいことと悪いことがあって、謝らないといけない場面は、ちゃんと素直に謝るべきだと思うし。大人を叱れるのは、大人だけじゃなくて、子供もなんですよ?
『うぅ。じゃないです。唸っているだけなら、もう切りますよ?』
多少はいじわるでも、あちらが悪いのに私が謝るのを促せるのは、また違う。あくまでも、あちらから謝るということが重要。店長も別に悪い人っていう訳じゃなくて、ちょっと調子に乗りやすいだけというか、それがひどいというか...。
なんでもいいけど、お世話になっているからこそ。そこを直してあげたいと思うし、店長がその性格を改善するのを手伝って、より一層、大人になって欲しいとも思う。
...あれ。なんか言ってることが滅茶苦茶になってる気が..。
『ま、待ってくれ!ちゃんと言う!言うから!』
『...で、なんですか?』
言われるだろうことは、もう既に分かってる。店長はやらかした後に、後悔するタイプだから、私を置いて帰った時も、やらかしたーって叫びながら、ごろごろしていたに違いない。
『...その、昨日。じゃなかった、今日の朝、お前を置いていって勝手に帰ったことを、謝り、たくて....』
『...』
『だから、その...ご、ごめんなさい』
『..はい。分かりました。今度からは置いていかないで下さいね?私だって女なんですから、体冷えたら風邪引いちゃいますよ』
『うぅ...ありがとう...』
ずずず..と鼻水を吸う音が聞こえる。店長、さすがに涙もろすぎじゃないですか?もうちょっと、大人らしいとか見せてくれませんか?
『...私も少しいじわるし過ぎました。ごめんなさい。代わりに、今日バイト終わり。いいですよ?』
『い、いいのか?お前にぎゅーって抱きついて、猫みたいに顔をすりすりさせて、ひ、膝枕とかもやってもらってもいいのか?』
さっきまで怒られていた人のセリフじゃないですよ、それ。
まぁ、あまり過ぎたこととかを気にしない性格は、悪いとは言いませんけど。もうちょっと、気にしてください。
『はぁ...ま、別にいいですよ。..ていうか、それを年下にやってもらってることに対して、羞恥心とな無いんですか?』
『ない、と言えば嘘になるが、お前は年齢とか関係なく、接したいんだ。だから、逆に今度、私がお前を癒してやってもいいぞ?いつものお礼に』
『あ、それは大丈ーー』
..あーだったら、癒してもらうんじゃなくて、お願い聞いてもらおう。いつものお礼に、って言ってるし。
『ん?だいじょう?なんだそれは』
『なんでもないです。それよりも店長。代わりにお願い聞いてもらってもいいですか?』
『お願い...?まぁいいが、お前が私にお願いする内容なんてなんかあったか?』
給料か..?それとも賄いか...?と悩んでいる声が聞こえてくるけど、そんなわけない。私、一度でもそんなことを言った覚えありませんよ?
『あります。あるんです。..実は、一週間ほど、お休みを頂きたくて...』
『休み?うーん....まぁ、たまにはいいか。いいぞ。..でも、なんで急に?.......ま、まさか、男か...?!』
震え声で聞いてくるけど、だからそんなわけない。
『違います。ちょっとした旅行に行きたいだけです。ちゃんと、お土産も買ってきますから。今日は行きますし』
『そ、そうか?なら、心配する必要はないか...』
『なーに心配してるんですか。そんなことよりも、自分のことを心配してください。じゃ、切りますねー』
『あ、あぁ。...また後で』
『また後で、です』
その会話を最後に、スマホからは、ツーツーという音が消え、通話は終了した。
「ふー....あ、碧葉ちゃんごめんね。もう行こっか」
「う」
ずっと黙って待っていてくれた碧葉ちゃんをまたおんぶし、私は部屋から出ていく。
雲雀さんにも後で連絡しといた方がいいかなぁ...?先に帰ってますって。ほう、れん、そうは大事だしね。...これは関係ないか。
どうするべきか。部屋の前で悩んでいると、またもや電話が。いまの流れ的に、雲雀さんかと勝手に思って見てみたら、案の定。そうだったーーら良かったんだけど、違った。
知らない番号。一体誰かと思い、電話に出た。
『...あ、もしもしー?良かった良かった、繋がったー。携帯に電話するのって、こんなに難しいものなの?いやー、最近の人間が作るものは凄い。私にはさっぱりだよー..って聞いてる?』
名前も名乗らず出てきたのは、声の高さから察するに女性。おそらく私よりも何歳か上。なのに、女子高生ぐらいにも思える。かと思ったら、二十代半ばぐらいの雰囲気も感じさせる。不気味な人が電話に出てきた。
『....そもそも、どなたですか?』
『あ、私?えっとねー、君達で言うところのいわゆる...あぁ、そうそう。神、ってやつかな?』
『...............はい?』
突然掛かってきた電話。
描けてきた持ち主はーーなんと、神様でした。
そのまま見終わって帰られる方。少し待ってください。
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