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92話 僕達はついに

 ロコロルの港に接岸した船は大型船が五隻、中型船が十隻。

 そのどれもが遥か南にある大国『ガレジドス』の旗を掲げているそうです。


 これはただごとではないと、ミリアシス国内は大混乱。

 すぐさま聖堂騎士隊に招集がかかり、ミリアシス教会からは大司祭様が護衛を引き連れてロコロルへと派遣されました。

 どのような用件なのか聞きに行ったとのこと。

 もちろん内容次第では開戦ということになり、勇み足の商人や旅行客なんかは我先にと逃げ出している有様です。


 一方我等がディータランドは平常運転。

 楽しみにしてくれているお客様を追い返すわけにもいきませんし、なにより僕達にはどうしようもありませんから。

 仮に戦争となったところで、出来ることなどないのです。


 ただし万が一ミリアシス側が負けるようなことになると、ディータランドの扱いがどうなるか不透明。

 最悪の場合、ガレジドス国に接収されるような事態もありえるでしょう。


 なんとなくソワソワしながらいつも通りの日々を送り、第一報が届いてから五日目。

 第二報とほぼ同時に、ディータランド正門前にはオープン時以来となる長蛇の列が出来上がっていたのでした。


 その先頭にはなぜかニルヴィーさんのお姿。

 いつもの自信溢れる表情ではなく、どこか困ったように僕の下へとやって来たのです。


「ディータさん。貴方、ガレジドス国にお知り合いでもいますの?」


 緑色の髪先を忙しなく指でいじりながらの詰問に、僕は首を傾げて答えます。


「いない……と思いますけど。いったいどういうことなんですか?」


 ニルヴィーさんの背後には、五千人以上の人々が列をなしているのです。


「彼等はガレジドス国からのお客様ということなのですけど……どうやらディータランドがお目当てのようなのですわ」


「うちに、ですか?」


「てっきりディータさんがご招待したのかと思いましたけれど、そういうわけでもなさそうですわね」


「身に覚えはないですね」


 もう一度ニルヴィーさんの背後に視線を向けると、整然と並んでいるガレジドス国の方々。

 規律の取れたその立ち姿は、ただの観光客というより軍隊のようです。

 すると僕の視線に気付いたのか、中から隊長格と思われる方が進み出てきました。


「ディータランドは素晴らしい施設だと伺っておりますっ! これよりしばらくの間通わせていただき、学ばせて頂く所存ですので、何卒よろしくお願い致しますっ!」


「よろしくお願い致しますっ!!」


 隊長格の方に合わせて、五千人が一斉に敬礼。

 とんでもない迫力に、ちょっと地面が揺れたような気さえするほどです。


「え、っと……。つまり、お客様ということでよろしいんですかね?」


「その通りですっ!」


 でしたらこちらとしては拒む理由がありません。

 もっともお願いはしておかなければなりませんけど。


「ランド内には一般のお客様も多くいらっしゃいますから、あまり兵士然とした立ち居振る舞いをされてしまうと怖がらせてしまいます。申し訳ないのですが、その辺りは配慮していただけませんか?」


「了解でありますっ! 総員っ! 休めっ!」


「はっ!!」


 本当に分かってくれているんでしょうか?

 とはいえちゃんと入場料もお支払いいただけるみたいですし、問題はないですかね?

 念のためラシアさん経由でスタッフさん達には注意して見ておくように伝え、ガレジドス国の方々は順々に入場となりました。


「な、なんだこの乗り物はっ!」

「おほーっ!」

「た、隊長っ! 大丈夫なのでありましょうかっ!!」


 まぁ良く分かりませんけど、電車に乗った途端、童心に返ったようなはしゃぎぶり。

 これを見る限り、敵意はないと判断しても良さそうです。


 そうして全員をランド内へ送り出すと、残っていたニルヴィーさんが嘆息でしょうか。

 心底疲れたといった感じに、ホームの椅子へ腰を下ろしたのです。


「ニルヴィーさんは行かれないのですか?」


「えぇ参りますわよ。せっかくのディータランドだというのに、あの方々に付きっ切りというのは何とも気の滅入る話ですけれど」


「というと、やはり外交的な立場で?」


「そうなりますわね。彼等の真意を探りつつ、失礼のないようにご案内するというのが私の役目なのでしょう。何かあれば即外交問題に発展しかねませんし。エリーシェさんではなく私が選ばれたのは、万が一を考えてかもしれませんわね」


「エリーシェさんだと万が一を自分から引き起こしに行きそうですしね」


「あら、とてつもなく不敬ですわよ? これっぽっちも反論が見当たりませんけれど」


 ようやく顔をあげてニコッと笑ったニルヴィーさんは、よいしょと椅子から立ち上がりました。


「さて、私も行きますわ。何も問題が起きなければ良いのですが」


「スタッフにもよく言っておきます」


「よろしくお願い致しますわね」


 タイミング良く来た電車に乗り込み、僕を一瞥した後に、ニルヴィーさんは地下へと消えて行きました。

 本当に、何も起こらなければいいんですけどね。



 ……。



 それから三週間。

 懸念していたようなことは一切起こらず、拍子抜けするほど普通に日々が過ぎていきました。

 結局彼等は三週間遊びまくっただけみたいで、最後の方など兵士であると思えないほどの腑抜けっぷり。


「隊長っ! 自費で構いませんのでもうしばらく滞在の許可をっ!」

「ニャー助君を連れ帰りたいのでありますっ! 確保のご命令をっ!」

「ここで脱退申請は可能でありますかっ!? 私はこの地に骨を埋める所存っ!!」


 まだ遊び足りないと後ろ髪を引かれつつ、彼等は引き摺られるように帰って行ったのです。

 最初の一週間ほどはニルヴィーさんが付きっ切りでしたが、危険はなさそうだと判断されたのか、その後は自由行動。

 こんなことならもっと遊び倒せば良かったですわと、彼女も悔しがりながらミリアシスへと戻っていきました。


「お疲れ様でしたラシアさん。ようやく緊張の糸も緩められますね」


 閉園後、支配人室に戻ってきたラシアさんに声を掛けたのですが、彼女はにっこり笑って首を振りました。


「いいえディータ様。どのような方でも一度ディータランドに足を踏み入れれば、等しくお客様ですから。普段と変わりありませんでしたよ?」


「そんなものですか?」


「そんなものです」


 ふふっと普段と変わらぬ笑みを浮かべながら、僕のお茶なんかを用意しているあたり、さすがとしか言いようがありません。

 するとソファーで資料を纏めていたミントさんが、嬉しそうに声をあげました。


「なんやかんやあったが、終ってみれば売上が激増しただけだったなっ! 見ろっ! この三週間で一気に目標が近付いたぞっ!」


 バサッと自慢げに見せてきた資料に、僕とラシアさんが顔を並べて視線を走らせます。

 やはり他国の兵士が上陸したという噂は広まってしまったようで、一般客の足は少し鈍ったようですが、それでも毎日五千人が上乗せされたこの三週間の売上は凄まじいです。

 彼等はランド内でもお金を使っていってくれたらしく、こちらも人件費に余剰が出来ています。

 それらをあわせると、現在の資産は……。


「金貨九万四千枚。あと六千枚で目標達成ですね!」


「ああっ! 期限まではあと十四日。一日四百五十枚でもおつりが来るぞっ!」


 客数換算ですと、平均で二千五百名くらいの方が来てくれれば達成出来る計算。

 今の集客力であれば、問題なく可能な数字です。


「ラシアさんっ! ミントさんっ!」


「はいっ!」


「おうっ!」


 バシンと手を叩き合い、僕達は勝利を確信でしょうか。

 この場にシフォンもいれば一緒に喜びを分かち合いたいところですが、妹はもう就寝してますからね。

 明日にでも教えてあげましょう。


「ラムストンさんもありがとうございましたっ!」


「いえいえ。私共も儲けさせて頂いておりますし、こちらこそありがとうございましたでございますですよ。――ですがディータ様」


 同じく顔を綻ばせてくれていたラムストンさんですが、スッと顔を引き締めて、真剣な表情を作りました。


「商人にはこういう言葉があります。『財布が見えても顔を緩めず、金貨が見えたら心を引き締め、手渡されたなら注意せよ。金庫に仕舞うまでが取引なのだから』とね。途中で横から掻っ攫われるような事はないと思いますが、最後まで気を緩めませんよう注意なさったほうがよろしいですぞ」


「肝に銘じておきます」


「とはいえ、ここまでくれば大丈夫でしょう。おめでとうございます」


 予想外のお客様達にも恵まれ、目標達成が目前と迫り、喜び合った僕達が顔を青くしたのは、それから二日後のことでした。



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