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91話 僕は金の亡者なのです

 ミントさんが得た情報は青天の霹靂でした。

 ラシアさんに加え、ラムストンさんも店舗を訪れたお客様から「ディータランドはいかがです? 不満などはございませんか?」と聞いてくれていたようですが、返って来た答えは一様に「大満足」というものばかり。

 客足が伸び悩んでいる原因に辿り着けていなかったのです。


 ですがミントさんが教えてくれた「旅行期間」という問題点に気付けば、それもその筈。

 だって原因はディータランドそのものにある訳ではなかったのですから。


「さすがミントさんですね。僕ではまったく思い当たりませんでした」


「そ、そうか? ふふん。もっと褒めていいぞ?」


 なんだか嬉しそうに、それでいて少し遠慮ガチに身を寄せてくる褐色エルフさん。

 サイドテールがぴょこぴょこ揺れているので、それに吊られて頭を撫でてみると、彼女は猫のように頭を擦り付けて甘えてきたのでした。


「こほんっ。確かにミント様のお手柄です。ここは素直に称賛致しましょう」


 そういうラシアさんは少し悔しそうな顔をしましたが、すぐに居住まいを正して


「それでも原因が分かっただけ。対策についてはどうですか?」


 そうなのです。

 原因が分かれば対策は立てられると思っていましたが、原因が旅行期間などというものでは、こちらで対応策が浮かんで来ないのです。

 それゆえの緊急対策会議なのですが、これには誰もが口を閉ざしてしまいました。


 すると沈黙を破るように


「一つ良いかしら?」


 今日もわざわざご足労頂いているマルグリッタさんが、スッと綺麗な挙手。


「実はロッケンヒルの会合でも話題になったのだけれど、電車と言ったかしら? あの乗り物を大陸中に走らせることは出来ない?」


「おぉ! それは私も考えていたことでございますです! ディータさんはあの乗り物の価値をいかほどとお考えですかな?」


 電車の価値ですか?

 馬もいらないですし魔力切れを起こすまでは走りっぱなしということも可能ですし、出そうと思えばかなりの速度も出ます。

 便利ではあるでしょうけれど。


「馬車の代替品? とんでもございませんです! あれは世界の物流の在り方を引っ繰り返すほどのものですぞ?」


「そ、そうなんですか?」


「そうですとも! 一度に大量に物を運ぼうとしたら、それこそ馬車数十台が必要で、当然人員もそれだけ必要。馬に与えなければならない飼葉や水。そういったものの削減だけでも、とてつもない利益でしょう」


「加えて速度も馬車よりずっと速いですからね。人も物も大量に運べるとなったら、とても便利な世の中になると思うわ」


 そういえば異界の歴史でも、乗り物の発明はいつだって文明を進化させていましたね。

 こちらの世界においてもそれは変わらず、文明開化の音が聞こえる感じでしょうか。

 ですが同時に、異界の歴史に照らし合わせれば、懸念も生まれてしまうのです。


「……戦争になりませんか?」


 科学の発達と戦争は、切っても切れない関係にありました。

 作れたから試したくなるのか、戦争の為に作るのか。

 それはその時それぞれでしょうけど、でも間違いのないことなのです。


「それはもっともな懸念ね。ちなみにあの電車というのは、すぐに模倣出来るような仕組みなの?」


 どうでしょう?

 駆動系は分解して研究すれば、おそらく似たようなものを作れそうです。

 ディータランド内の電力に関しては管理のしやすさから神伝えの石を一箇所に集め、そこからランド全体に供給するような仕組みとなっています。

 けれど電車は架線からパンタグラフで電流を引き込むという方法を取らず、機関車内に神伝えの石を配置した単独走行可能な作り。

 決して不可能ではないでしょう。


 ただし部品は神獣さんの精密な造形力あってのものですし、よほど優れた製鉄技術がなければ無理かもしれません。

 それに電力を蓄える為の神伝えの石は、エルフさん達の村の特産品。

 易々と手に入る代物ではないのです。


「難しいと思います。近いものは出来るかもしれませんけど」


「そうでしょうなぁ。あんなものは見たことも聞いたこともございませんですし」


「ならどうかしら? 試しに近場だけでも線路を延ばしてみるというのは。南にあるロコロルは当然として、ミリアシスから北西へも線路を引けばオーゼクルスはすぐそこよ?」


 オーゼクルスというのはロッケンヒル連合で三番目に大きな国ですね。

 行ったことがないので詳しくは分かりませんが。


「線路を延ばすのは大工事ですし、距離もあるので時間はかかりますね」


「えぇそうね。けれど一考に値するとは思うから考えてみて頂戴。仮に完成すれば、そこからも収益は上がる筈よ」


 そう言われてしまうと金の亡者モードの僕としては、かなり前向きに検討せざるを得ません。

 一度線路を引いて電車を通してしまえば、あとは自動でお金が入ってくるのですから。

 不労所得。素晴らしい言葉です。


 それ以外にもミリアシスの西と東を分断する川に客船を引き入れる案などが出ましたが、これはミリアシスの防衛面から考えて却下。

 まさかミリアシス教の総本山に戦争を仕掛ける国があるとも思えませんが、船で軍を引き入れてしまったらあっという間に制圧されかねませんからね。


 電車に関しても近い懸念はありますが、そこは各駅でのチェック体制を作るなり、関所を設けるなりして対応とのこと。

 ということで、神獣さんは東地区の民泊計画が完了次第、線路敷設に向けて動いてもらうことになるでしょう。

 神様を顎で扱き使っているようで申し訳ありませんが、本人は「楽しいっぺなぁ~」と喜んでいたので大丈夫そう。

 何か美味しいものでも買って差し上げようと思う所存です。



 ……。



 それから一ヵ月半。

 約束の期限まで残り一ヵ月半となりました。


 ロコロル、ミリアシス間の電車が開通し、劇的に利便性のあがった都市間の移動。

 それもあってか、客足は少し伸び始めています。

 今は一日四千三百人ほどでしょうか。

 それでもまだ目標値には達していませんし、今までのビハインドもあるので十万枚には遠く及ばないのですが。


 けれど電車からの収益も出始めていますし、人件費問題も民泊からの収入で賄えてスタッフを増員できたので、ある意味では順調。

 時間さえあれば。

 せめてもう二ヶ月余裕があれば、十万枚は可能なのです。


 そんな折でしょうか。


「怪しい人物?」


 ラシアさんから、不穏な報告があがってきたのは。


「はい。夜間見回りをしていたスタッフからの情報なのですが、どうやら夜間にランド内へ忍び込み、暴れている者達がいたようです」


「目的は分かりますか?」


「見つけた者の話では、なにやらガンガンと叩く音が聞こえたので近付いてみたところ、その者達は一目散に逃げ出したのだとか。現場に剣の破片などが落ちていましたので、ひょっとしたら……」


「アトラクションや施設を壊そうとしていた?」


「可能性は高いです」


 ふむ……。

 これはどうしたことでしょうか。


「本国……から……の……破壊……工作……かも……」


「おやリヒジャさん。そちらから出てきて下さるのは珍しいですね」


 というかいらっしゃることに気付きませんでした。

 広い支配人室とはいえ、特に障害物なんかもないのですが……恐ろしい隠密術です。


「本国というとポードランですか? ついに動き出したと?」


「少し……焦って……た……」


 リヒジャさんの話によれば、定期報告でこちらの現状を知ったダグラスさんは、少し焦りを見せていたらしいのです。

 まだ十万枚には届かないとはいえ、このまま売上が伸びれば万が一にも。

 そう考え始めたのかもしれません。


「ごめ……ん……なさい……。ボク……の……仕事……だか……ら……」


「いえ構いませんよ。リヒジャさんにはリヒジャさんの立場があるのですから、そこは遠慮せずに」


 報告をしなかったり虚偽の報告をすれば、それこそリヒジャさんがどのような責めを受けるか分かりませんからね。

 監視が付くと知らされた時点で、こちらの動きが筒抜けになることなど想定内です。

 なのでそう伝えたのですが、リヒジャさんは唇を噛んで悔しがっているようでした。


「リヒジャさん?」


「なん……でも……な……い……」


 その言葉を最後に再び見えなくなったリヒジャさん。

 なんですかねこれ。魔力は感じないので魔法じゃないのでしょうけど、ちょっとしたマジックです。


「それで、どうなさいますかディータ様。夜間の見回りを強化したほうがよろしいかと思うのですが」


 基本的には問題ないと僕は考えています。

 というのも、神獣さんの建築物であるディータランド。

 その硬度は鉄を遥かに凌駕し、とてもじゃないですが壊すことなど不可能だからです。

 けれど夜に隠れていて、お客さんが入ってきてから暴れだす。

 そんな可能性を考慮すると、捨て置くわけにもいかないでしょう。


「お願い出来ますか?」


「畏まりました。幸いなことにスタッフも増員されておりますし、ローテーションも問題なく組めるかと」


 そうして対応策を実施することになった僕達ですが、次の報せはミリアシスから飛んできました。

 まさか僕達に関係のある話だとは思えませんが、それはこのような報せです。


「ロコロルの港に大船団がやってきたそうです! 戦争かもしれないとミリアシス国内はパニックに陥っています!」




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