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78話 僕は思いつきました!

 ミントさんの回復を待たなければならないので、そのままロコロルに滞在することになった僕達。

 今日はマルグリッタさんのご厚意に甘え、彼女のお屋敷で一泊させてもらうことになりました。

 かといって何もしないのも落ち着かないので、今は四人でロコロルの港町を散策中。

 何かヒントはないかと探し回っているのです。


 あ、四人と言いましたが、そのうち三人は僕とシフォンとラシアさん。

 もう一人はミントさんでもマルグリッタさんでもありません。

 では誰かというと……


「お……気に……なさらず……」


 誰でしょう?


 全身黒ずくめで、身長は僕と同じくらい。

 年齢不詳の女の子なのです。


「いや普通に気になるのですけど?」


 斜め後ろから物陰に隠れるようについてくるので、気にするなというほうが無理でしょう。

 もっともかなり気をつけていないと、すぐに見失うほど影が薄いのですけど。


「ディータ様はお気づきになられませんでしたか? 彼女、ポードランから着いて来ているのですが」


「え、そうなんですか?」


「はい。おそらく彼女が、国王陛下の仰っていた監視役かと」


 あぁ、そういえば監視を付けると言ってましたね。

 てっきり強面の兵隊さんが来るものとばかり思ってましたが、彼女がそうなんですか?


「こちらにはダークエル……ミント様がいらっしゃいますから。男性では何かと不都合なのでしょう」


「そういうものですか」


「そういうものです。それに彼女、気配の消し方が尋常じゃありません。今はあえて姿を晒しているようですけど、本気で隠れられたら私でも捕捉は難しいかと」


 ほほぅ。

 ならばと僕は、今のうちに女の子に接近します。

 一瞬ビクリとした彼女は慌てて左右を見て、それから諦めたように僕と対面してくれました。


「な……んで……しょうか……」


「いえ、これから半年近くも一緒にいるわけですから、自己紹介をしておこうと思いまして」


「ひ……つよう……ない……です」


「あります。いざという時、お名前も分からないようだと困りますから」


 ん~、どうでしょうか?

 ちょっと強引に迫ったのが悪かったのか、女の子は指の爪を噛みながら、困ったように首を廻らせています。

 シフォンと同じく小動物っぽい印象ですけど、こちらはどちらかというと夜行性。

 フクロウとかそんな感じですね。


「リ……ヒジャ……」


「リヒジャさん、でよろしいですか?」


「よ……ろしい……です」


「分かりました。知っているとは思いますけど僕はディータと言います。これからよろしくお願いしますね」


 握手を求めて手を差し伸べましたが、リヒジャさんはジーッとその手を見つめるばかりで、応じてくれる様子はありません。

 あまり馴れ馴れしくするなという命令をされているのかも。

 であれば無理強いするのも可哀相なので、少し残念ですが僕は諦めて手を引っ込めました。


「あ……」


「え?」


「な……んでも……ない……」


 するとスッと半歩下がって建物の影に隠れてしまったリヒジャさん。

 今はこれ以上話すことはないという意思表示みたいです。


 仕方ないので一礼し、僕はラシアさんとシフォンのもとへ戻りました。


「お話は出来ましたか?」


「少しだけ。これから仲良くなれればいいんですけどね」


「……にぃ、手が早い」


 そうですね。

 握手を求めるにはまだ早かったみたいです。


「ふふ。ディータ様は大物ですね。でも、あまりナティルリア様を悲しませないようにお願いしますよ?」


「もちろんです。僕も彼女の涙は見たくありませんから」


「たぶん通じてませんけど、今はそれで良しとしましょう」


 諦観のような、それでいてどこか嬉しそうな、複雑な表情を浮かべたラシアさんに並び、僕達はロコロルの散策を続けることにしました。


 ロコロルの町は、相変わらず活気に溢れています。

 この港にはひっきりなしに船がやって来て、そのたびに人と物が入ってくるのです。

 流行や、今どんなものが売れそうなのかを考えるなら、この町以上に適した場所はないかもしれません。


 僕達の指針は、広大な土地でなにかする。

 そのように決まりかけていますが、肝心の「何か」がさっぱり思いつきませんからね。

 それを考えるうえでも、人々の興味がどこに向いているのか調査するのは大切なのです。


 すると目につくのは、やはりあちこちでトランプを楽しんでいる人々の姿。

 世界を席巻しつつあるのかもしれません。


「トランプはディータ様が考えて広められているのですよね?」


「考えて……と言われると、少し申し訳ない気持ちにはなりますけど」


「素晴らしいことです。見て下さいあの楽しむ様を。あの笑顔を、全てディータ様が作っておられるのですよ」


 いやそこまで言われると面映いのですが。

 ラシアさんはちょくちょく僕を褒め殺そうとするので油断ならないです。


 でも悪い気もしません。

 ポードランに広まるのはこれからですが、それで少しでもポードランの人々に笑顔が戻れば。

 そう願わずにはいられないのです。


 けれど……人々の様子が、少しミリアシスの人たちと違うことに気付きました。


 ミリアシスでトランプ遊びをしていた人達は、もちろんゲームなのだから勝ち負けがあり、ゲームの最中は笑ったり怒ったり悲しんだりしていたのですが、最後には皆笑顔だったと記憶しています。

 でもロコロルの方々。

 とりわけ水夫などのちょっと荒々しい人達は、ゲームの後も険しい顔をしている方がいるのです。


「どうしましたディータ様」


「いえ、なんで彼等は怒ったり、喧嘩してしまっているのかなぁと」


 それを不思議に思い見ていると


「くそがっ! やってらんねぇぜっ!!」


 また一人、怒りながら席を立った方がいました。

 彼は頭をガリガリと掻き毟った後、懐からお金を取り出し、テーブルの上に叩きつけて去って行ったのです。


「そういうことですか」


「え? ラシアさんは何か分かったのですか?」


「はい。恐らく彼等は、トランプを賭けの道具にしているのです」


「賭け? 賭博ですか?」


 そういえば異界でも、そのように扱われる場合が多かったですね。

 カジノと言うのでしたか?

 ポーカーやブラックジャックなどのトランプゲームで、お金のやり取りをするのです。


「荒くれ者達の賭け事というのは、普通は的当てであったり喧嘩の勝敗などが主でしたが。トランプは手軽で安全ですからね。そういう使い方を思いついた人がいるのでしょう」


 お金を賭けるというのは良く無いことかもしれませんけど、でも気持ちは分かります。

 ただ勝敗を決めるよりも、何かを賭けたほうが熱くなれる。熱中出来るというのは、分からない気持ちじゃないですから。


 けど、同時に懸念も生まれます。

 賭け事となれば当然敗者がいるわけで、その人は頑張って働いたお金を失うのです。

 場合によっては明日食べる物も手に入らなくなり、そうなった人の行動は二通り。

 誰かにお金を借りるか、犯罪に手を染めるか……。


 トランプ自体がまだ流行り始めたばかりなので表面化していませんけど、今後そういった事件が増えるかもしれません。


「ディータ様が悪いわけではありませんよ?」


「それはそうかもしれませんが……」


 ラシアさんは頭を撫でて慰めてくれますけど、でもやっぱり割り切れるものではないです。

 トランプが治安の悪化に繋がり、どこかで誰かが悲しむようなことになったら、もうそれは楽しい遊びを広めたいという想いから外れてしまうのですから。


 異界でもそういう問題はあると思いますけど、それほど問題になっているようには思えませんでした。

 それどころかカジノという大きな賭場を作り、一大レジャー産業として成り立っているようにすら……そうか……。そうです!


「カジノですっ!」


「え、な、なんですかディータ様?」


「カジノですよラシアさんっ! 大きな賭場として集客してしまえば、健全に賭け事が楽しめるので治安の悪化を防げますっ! それに大きなお金が動くのですから、十万枚も夢じゃありませんっ!」


「よ、よく分かりませんけれど、何か思いつかれたのですね!」


「はいっ! さっそくマルグリッタさんにも意見を貰いに行きましょうっ!!」



 ……。



「駄目です」


 駄目でした。



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