77話 僕は方針を考えます
あれから真っ直ぐに港へ向かった僕達。
出航まで少し時間があるので、先に近くのお店で食事を取る事になりました。
けれどあんな謁見の後ですからね。
なかなかスプーンが進まないのも無理はないでしょう。
しかしさて。どうして港へ着たのかと言うと、ポードラン国内では動きが制限される可能性があるし、何よりロコロルへ行くべきだとミントさんが主張したからなのです。
そこで船を待つ間にミントさんに「何かあてがあるのですか?」と聞いてみた答えがこれ。
「あ? ないぞ?」
う~ん……?
「だって自信満々だったじゃないですか。十万でいいのか? とか、国が滅びなくて良かったな、とか」
「そりゃあそうだろう。あそこで答えに窮していたら、せっかくのチャンスが消えるかもしれないんだぞ? 国が滅びるうんぬんはブラフだな。今の私にそんな力はないし、あったとしてもやらん」
「す、凄い度胸ですね」
「ああでも言わないと王か根性なしが横槍を入れてきそうだったからな。こちらには奥の手があるんだぞってところを見せておく必要があった」
さすが年長者……というと怒られるし悲しまれるので言えませんが、やっぱり頼りになります。
ミントさんはダークエルフになる前まで族長の娘として色々活動してたようですし、海千山千な人との付き合いもあったのかもしれません。
「しかし金貨十万枚。安請け合いだったのではありませんか?」
感心する僕とは違い、現実的な指摘をしたのはラシアさんです。
長年お城に勤めていた彼女でも、やはり金貨十万枚というのは大金なのでしょう。
それはそうですよね。
一般市民が一ヶ月で稼ぐお金というのは、だいたい金貨十枚程度と言われています。
僕はトランプのおかげでその三倍の収入がありますが、それを溜めたところで到底十万には届きませんし。
「ならお前は、他の方法であの窮地を脱することが出来たのか?」
「そ、それは……」
黙りこくってしまったラシアさんの額に、ピンッとミントさんがデコピンです。
「ディータのことは当然だが、王女を助けてやりたいというのは私も同じだ。自分達だけ逃げるために、その場凌ぎで受け入れたわけじゃない。だから心配するな」
何事かとビックリしながら額を押さえていたラシアさんですが、ミントさんの言葉を聞くと一瞬俯き、それから立ち上がって深々と腰を折りました。
「申し訳ありませんでした。それと、ありがとうございます」
「いい。気にするな」
その二人の手を取ったシフォンが、ミントさんの手とラシアさんの手を重ねたのです。
「……ん。みんなでがんばろー」
「ふ……。あぁ、そうだな」
「はい、シフォン様。それにミント様も、よろしくお願い致します」
なんとなく水面下でギスギスしていた二人ですが、これでようやく真の和解でしょうか?
そこからは金貨十万枚に向けた意見交換が始まり、僕達は食事を取りながら議論を交わしたのです。
しかし結局妙案は生まれず、最終結論としてミントさん案
『金を稼ぐなら得意な奴に聞きに行こう』
で纏まりました。
それこそがロコロルに向かう理由だったのです。
……。
ロコロルの港町に到着した僕達は、さっそく「お金を稼ぐのが得意な人」に会いに行くことになりました。
すでにポードランを出発してから五日です。
半年と期限があるなかで、このロスは痛いでしょう。
サーフボードを使えれば良かったのですが、残念なことに没収されてしまいましたから。
さすがに「それ返して」と言える雰囲気ではありませんでしたし、返してもらったところでシフォンが全力拒否でしょうけれど。
「う……っぷ……」
ラシアさんの背中で、褐色エルフさんが悶えておられます。
今回も宿敵である船酔いに、酷くお見舞いされてしまったご様子なのです。
「あれだけ偉そうなことを言っておいてこの様ですか……」
「うる……っぷ……さい。襟首から大地の恵みを抽入されたくなければ黙って運べ……うぇっ……」
おぉ……。
ラシアさんの顔が見る見る青冷めていくではないですか。
なんという恐ろしい脅迫なのでしょうか。
とまぁそんな感じで、僕達は目的の場所へと到着しました。
閑静な住宅地の中にある、一際立派なお屋敷。
ここに忍び込んだのも、今は良い思い出ですね。
「ごめんください」
彼女はお忙しい方なので突然の訪問でも大丈夫なのかが心配でしたが、どうやら今日は運良くお宅にいらしたようで。
「あらあらディータさんじゃありませんか。それにミントも……ミント?」
「悪いなマルグリッタ……とりあえずベッドを貸してくれ……うぷっ……」
そんなとてつもない訪問になりましたが、マルグリッタさんは嫌な顔をせず、僕達を応接間へと招き入れてくれたのでした。
……。
広々とした応接間には、とても良い匂いが漂っています。
どうやらマルグリッタさんはお菓子作りの最中だったようで、それをご馳走してくれることになったのです。
品の良いテーブルに乗せられた焼き菓子と紅茶。
それを頂きつつ、まずは世間話から入るのが常道でしょうか。
「シフォンさんは副々聖女様、だったかしら? 今代の聖女様はとてもユニークな方のようね」
「え、えぇ。ユニークというかなんというか……」
エリーシェさんを語るのに、ユニークなどという言葉一つでは到底足りません。
とはいえ下手なことも言えないので、なんとも紹介しづらい方です。
そんな風に頭を悩ませていると、シフォンがお菓子に手を伸ばしていました。
「副々聖女様のお口に合うとよいのだけれど」
心配はいらないでしょう。
すでにシフォンの頬っぺたは、げっ歯類のごとく膨らんでいますから。
それを和やかに見つめてから、マルグリッタさんは僕に視線を合わせてきました。
「それで、どのようなご用件かしら? ミントの体調が悪い、というだけではないのでしょう?」
「ミントさんは極端に船に弱いみたいで……」
「森の民ですからそれは仕方ないのよ」
現在彼女は二階の客間を借りて、そのベッドに横たわっています。
久しぶりの揺れない地面に、早く体調が戻れば良いのですが。
それはさておき、僕は来訪理由を語ることにしました。
それを黙って聞いていたマルグリッタさんですが、話し終えると顔を顰めます。
「厳しいわね。それだけの大金となると、通常の物販では難しいのではないかしら」
「マルグリッタさんでも厳しいですか?」
ミントさん曰く、この方はもともと大きな商家の出で、引き継いでからも多数の商いを成功させていたのだとか。
その実績や政界とのパイプもあり、今はロッケンヒル連合の役員を務めているのです。
それだけ実業家として成功した彼女ですら厳しいとなると、素人である僕達には不可能のように思えます。
「物販というのは中々難しいのよ。どれだけ良い物を作ろうと、それを軌道に乗せるまでには時間が掛かるわ。材料を安定的に、かつ安く仕入れられるルートの開拓。なるべく低労働力、短時間で量産する態勢の構築。そして宣伝」
トランプが早々に軌道に乗ったのは、まず材料が安価で手に入りやすかったから。
それと聖女自ら宣伝するという裏技があったからなのでしょう。
あれと同じようなことは、なかなか出来ることではないそうです。
そう考えるとジョーカー柄をシフォンの顔にしたというミントさんも、商才があるのかもしれません。
「となると宿や料理店などのサービス業が手堅いのだけれど、それはキャパシティの問題で稼げるお金に上限が掛かるのよね。どれだけの繁盛店であっても、一日に捌ける人数は限られてしまいますもの。それに人件費も相応に掛かるから、半年で十万枚となるとやはり厳しいと言わざるを得ないでしょうね」
ふむふむ。
物を売るのも駄目。店舗を構えるのも難しい。
となると、他に何があるのか……。
思い悩む僕ですが、マルグリッタさんは指を一本立てて僕に示しました。
「ひとつだけ」
「あるのですかっ!?」
「ある……わけではないわ。けれど、先に言ったキャパシティの問題だけなら、なんとかなるかもしれないの」
「それはどういうことでしょう?」
「ミリアシスの東にとても広大な土地があるわ。本来ならどの国の領土でもないし、誰も欲しがらなかった土地なのだけれど」
聞けばそこは、グロウシェルの通り道だった場所。
あれだけの数を駆逐は不可能なので、どこの国も欲しがらなかったような土地。
けれどグロウシェルが殲滅された今ならば、危険はないし格安で手に入る。
そういうことらしいです。
「その広大な土地で何か面白いことが出来れば……あるいは可能かもしれない、ということよ」
何をするかまでは僕達任せ。
けれど半年で金貨十万枚なんていう無茶を達成するには、それこそ誰も思いつかなかったことをやらなければならないと、マルグリッタさんは言うのです。
「応援はするし、多少の準備金くらいは都合してあげても良いけれど……やっぱり難しいと思うわねぇ」
「それでもやります。やらなければならない理由があるのですから」
決意を込めてマルグリッタさんを見ると、彼女はにっこりと微笑み
「なら土地だけでも抑えておきましょう。そのくらいはお手伝いさせて?」
「ありがとうございますっ!」
マルグリッタさんは土地と道しるべをくれました。
ここからは僕達次第ですね!




