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55話 僕は脱走を計画します

「どどど、どうしましょう~? ゾモンさん達がお亡くなりになってしまいます~!」


 再び小屋に戻って来たところでエリーシェさんが大慌てです。

 あの後彼女はグーダンさんと交渉を続けていたのですが、結局ゾモンさん達の処遇が変わることはなく。

 僕達は明日の昼頃ポーシーへ帰らされ、ゾモンさん達は首だけになってご同行という決定でした。


「見せしめ……。森を焼かれ続けているエルフ種の我慢が、もう限界ということなのでしょうね」


 そうなのです。

 決してゾモンさん達が何かしたというわけではなく、これ以上森を荒すとこうなるぞという見せしめのため、彼等は殺されてしまうのです。

 逆に言えば、あまり人間種と関わらないようにしていたエルフさん達が、そんな決断を迫られるほどに追い詰められているとも言えるかもしれません。

 なにしろ森が焼かれた為に神獣が暴れるようになり、その被害は日に日に増えているそうですから。


 僕達には直接関係のない話でしたが、種族というものを重んじるエルフさん。

 同じ人間種なのだから同罪だと、そういうお話でした。

 いっそ人間種を嫌悪しているのではないかと思えるほど、彼等は排他的なようです。


「めちゃくちゃな話ですわっ! 一人の罪が種族の罪だなんてっ! 罰は犯した者にのみ与えられるものっ! そうですわよねっ?」


「僕達はそうですけど、これも文化の違いっていうやつなんでしょうね」


「何を暢気にしてるんですの!?」


「そ、そうですよ~ディータさん。ミリアシス様も仰っています。『今日やれることを明日してはいけません。明日にしか出来ないことが明日出来なくなってしまうから』と」


 微妙に意味が分かりませんが、いつものことなので放っておきましょう。

 エリーシェさんに構っている時間はありませんから。


 今は夜。

 監視の方は寝ずの番をするのでしょうけど、他に人の気配はないようです。

 空気窓からは、月明かりと静寂だけが染み渡っていました。


 つまり、今がチャンスということです。

 僕は二人を呼び寄せ、頭をくっ付けるくらいに近付いてから、小声で計画を打ち明けることにしました。


「ここから抜け出し、ゾモンさん達を助けます」


「抜け出し、って簡単に言いますけど、監視はどうするんですの?」


「昼と同じ手を使いましょう。今度は嘘でも構いませんけど」


 そう言ってエリーシェさんを見ると、彼女は力強く頷いてくれました。


「つまり、どうすればいいんですか~?」


 ……なるほど。

 理解したから頷いたわけではなかったんですね。

 どうやらエリーシェさんを見くびっていたようです。

 申し訳ありません。


「エリーシェが手洗いに行きたいと伝え、監視がいなくなった隙に……ですわね?」


「その通りです。ニルヴィーさんは話が早くて助かります」


 こちらはご理解頂けていたようで、ふむふむと考えるように頷いていました。


「けれど、ゾモンさん達がどこに捕まっているのか分かりませんわ」


「ですよね~。それが分からなければ助けようもないと思うんですけど~」


 もっともなご指摘です。

 けど、僕には遊び人スキルがありますからね!


 二人の前で僕は紙とペンを取り出し、ついでにミサンガを取り出します。

 このミサンガはゾモンさんの私物。

 今回の旅が始まる前に、みなさんから一つずつ私物を預かっておいたのです。

 そう。こんな時のために。


「なにをしてるんですか~?」


 エリーシェさんが興味深そうに覗き込んでくる中、僕は紙に村の見取り図をサラサラと描いていきます。

 昼に長の家に連れて行かれる時、しっかり記憶しておいたのでそこそこ正確な筈。

 そして書き終わった紙を床に置き、エリーシェさんから借りたネックレスをその上に翳しました。

 当然ネックレスの先にはミサンガが取り付けられており、その先端がビシッと一つの小屋を指し示したのです。


「ここにゾモンさん達が?」


「その筈です」


「凄いですね~ディータさんっ! これ、他にも何か探せたりするんですか~?」


「え、えぇ。もともとは紛失物なんかを探すのに役立つスキルなので」


 説明してあげると、エリーシェさんの目がキラッキラ輝きだしました。


「どうしてだか私の周りってすぐ物が消えちゃうんですよ~。ミリアシスに戻ったら、探して欲しい物がたくさんあるんですけど~」


「そうでしょうね。じゃあ今度お手伝いしますよ。もちろんここを皆で無事に脱出出来たら、ですけど」


 ということで感激に目を潤ませるエリーシェさんと、呆れ顔のニルヴィーさんの同意を得て、いざ作戦開始です。

 まずはエリーシェさんが扉に近付き、激しく尿意を訴え始めました。


「すいませ~ん! もう漏れちゃいそうなんですけど~!」


「またかっ! ちょっと待ってろ!」


 すると即座にエルフさんが対応。

 扉を開いて中に入ってきた彼女は


「ちょ、え、えぇ!?」


 エリーシェさんを連れ出して行ってしまいました。

 ……おや?

 てっきり上役に判断を仰ぎに行くと思ってたのですが……。


「ど、どうするんですの?」


「……予定変更です。まずゾモンさん達を助けだし、その後でエリーシェさんと合流しましょう。監視エルフさんは僕がなんとかします」


 靴飛ばしをするわけにはいきませんが、最悪レシビルで気絶くらいは仕方ないかもしれません。

 あまりやりたくない方法ですけど、こちらはゾモンさん達の命が掛かってますからね。

 悪く思わないでください。


「ということで行きますよニルヴィーさん」


「分かりましたわっ」


 監視エルフさんとエリーシェさんの姿が遠ざかったのを確認し、僕とニルヴィーさんもそっと小屋を抜け出しました。

 向かうのは村の北西に位置する小さな小屋。

 そこにゾモンさん達が捕らわれている筈なのです。


 ほとんど灯りの消えた村内は足元も覚束ないほどですが、腰を屈めて野菜の葉に姿を隠すようにしながら、僕達は畑のあぜ道を走ります。

 すると目的の小屋の前。

 椅子に腰掛けて眠そうにしている男のエルフさんを発見です。


「監視がいますわね。どうなさるの?」


 僕の袖を引いて小声になったニルヴィーさんが、心配そうに尋ねてきました。


「なんとかします」


 そう言った僕は、エルフさんに背中を向けた状態でおもむろに姿を晒したのです。

 当然彼は僕に気付き「そこで何をしているっ!?」と近寄ってきました。


 何をしているか?

 決まってるじゃないですか。

 遊んでいるんですよ。


「……転んだっ!」


 振り返った瞬間動けなくなるエルフさん。

 それを確認して目配せすると、ニルヴィーさんが素早く彼の背後に回り、猿轡を噛ませて腕を後ろに縛り上げました。


「い、今の技って、もしかして『聖なる真言』なんじゃありません!?」


「あー……気のせいです。それより早くやるべきことを済ませましょうっ!」


 そうでしたそうでした。

 これってエリーシェさんが起こした奇跡ってことになってたんでしたね。

 あまりミリアシス国の人の前では使わないようにしなければ。


 反省しつつモガモガ蠢くエルフさんに頭を下げて、僕達は小屋の扉を開きます。

 すると小屋に入ってきた僕達に気付き、中にいたゾモンさんが驚愕の声をあげました。


「ニルヴィー様っ! それにディータ殿もっ! ご無事でしたかっ!」


「ゾモンさんも無事でなによりです」


「エリーシェ様のお姿がないようだが、無事なのだろうな!?」


「それはもちろん。今はお花を摘みに行っているだけなんで心配ないですよ」


 ホッと安心するゾモンさんに近付いてみますが、こちらの部屋はちゃんとした監禁用らしく。

 頑丈な鉄格子がはまっていて、素手ではビクともしなさそうです。


「我々のことは気にするなっ! エリーシェ様とニルヴィー様を連れて逃げてくれっ!」


「そうはいきませんわ。貴方達、このままですと明日には殺されてしまいますのよ?」


「だとしてもですっ! 我々の命などいくらでも替えが効くが、お二人の命はそうではないのだからっ!」


 ゾモンさんの後ろでは、他の護衛の方々も覚悟を決めて頷いていました。

 素晴らしい忠義心だと思いますけど、だからこそ僕も見捨てたくありません。

 鍵。

 鍵さえあれば……あ、もしかしてさっきのエルフさんが持ってるんでしょうか?


 そう思って振り返ったところで


「騒がしいと思えば脱走とはなぁっ!」


 腕を組んでこちらを睨みつける山賊エルフ。グーダンさんが、そこに立っていたのです。

 しかも横にはエリーシェさん。

 どうやら動きを察知され、また捕らわれてしまったようですね……。


「女子供だと大目にみてやればこの始末か!? やはり人間など情をかけるに値せんっ!」


 小屋の周りはすでに取り囲まれてしまっているようです。

 篝火が煌々と焚かれており、逆光になっているためどれだけの人数がいるか把握出来ません。

 だるまさんを転がそうにも、これでは全員の動きを止めることは出来ないでしょう。

 つまり万事休す。

 僕達は、再び捕らわれの身となってしまったのでした。


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