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56話 僕は生贄として捧げられるようです

 再び縛られてしまった僕達は、小屋に戻されるのかと思いきや、長の家へと連れて行かれました。

 グーダンさんがどっかりと床に座りながら、テキパキと指示を出しています。

 それに従い、他のエルフさん達が色々と何やら準備。

 野菜。鶏。花。そして大きな樽。


 嫌な感じです。。

 偶然だと思いますが、人が隠れられそうなほど大きな樽です。

 大の男なら二人くらいがやっとでしょうけど、女性なら二人でも余裕。他に少年が一人くらいは入るでしょうね。


 ……あぁもう。

 嫌な予感しかしないんですけど……。


「準備が整いました」


 全ての荷物を籠に詰め終え、男のエルフさんがグーダンさんに報告。

 それを受けて、彼は獰猛な笑みを浮かべました。


「よし、ならさっそく入れろっ!」


 その言葉を合図に、エルフさん達が僕達を無理矢理立たせ、樽の方へと引っ張って行きます。


「な、なにするんですのっ!?」


 ニルヴィーさんが必死に身を捩って抵抗していますが、それで逃げられるほど甘い筈もありません。

 というかあの必死さから見て、何をされるのか僕と同じ結論に達したのでしょう。

 まぁここまでお膳立てされてしまったら間違いないですよね。


「お前達を神獣へ捧げるんだよ。それで神獣の怒りが収まれば、同胞の罪は流してやるってんだ。聖女らしい仕事で良かったじゃねぇか」


「い、生贄……」


 予想はしていたでしょうが、はっきりと言われてしまい顔が青冷めてしまったようです。

 抵抗する力も失い、その身体が樽の中へと入れられてしまいました。


「あの~、私達なんか食べたらお腹壊すと思うんですけど~? ミリアシス様も仰っていましたよ? 『水は冷たいうちに飲みましょう』って」


「んなこたぁ知らねぇよ。こっちとしちゃあ神獣さえ大人しくなるならなんだっていいんだ」


「それなら歌でも歌いましょ~か~? 私の歌を聴けば、神獣さんもきっと――」


「いいからさっさと入れっ!」


 相変わらずの交渉能力を発揮し、「あれ~」と暢気な声を上げながらエリーシェさんも樽の中へ。

 最後に僕もひょいっと持ち上げられ、樽へと押し込まれてしまったのです。


「大人しくしてりゃあ帰してやったものを。まぁこうなっちまったら覚悟を決めるんだな」


 そのまま蓋をされてしまい、樽の中は真っ暗です。

 あまり上等な樽ではないのか隙間から多少の明かりは入ってきてますが、息がかかるほど近くにいるお二人の顔も満足に見えないほどでした。


「さぁ運べっ!」


 と、外でグーダンさんが号令をかけると同時、ガタッと樽が揺れました。

 このまま僕達は神獣のところへ運ばれていくのでしょう。


「な、なんで落ち着いているんですの? 私達、これから生きたまま食べられるんですのよっ!?」


 ガタガタと樽が揺れているのは、悪路を運ばれているからというだけではないようです。

 恐怖からかニルヴィーさんの身体も震えており、その振動が伝わってくるのです。


「大丈夫ですよ~。神さまの遣いである神獣さんなら、きっと話せば分かってくれますって~」


「け、獣は獣でしょうっ!? 話が通じる相手だとは思えませんわっ! 意思疎通が出来るエルフ相手でもあのざまだったのですからっ」


 ごもっとも。

 というか獣と会話を試みようとしていたエリーシェさんに戦慄です。

 とりあえず話し合ってからという彼女のスタンスは素晴らしいと思いますけど、さすがにそれは無茶でしょう。

 まぁエリーシェさんは、その前に会話術を習うべきですけど。


「ディ、ディータはどう考えてるんですのっ!? 貴方も落ち着いてますけど」


「ディータさんも何て声をかけようか迷ってるんですよね~? なにせ神獣さんですし~、共通の話題もなさそうですし~。やっぱり定番の『髪切りました~?』あたりから入るのがいいですかね~」


 僕が落ち着いているのは当然理由あってのことです。

 間違ってもエリーシェさんが言っているような内容ではないのであしからず。


 まず前提として、僕は神獣とやらを倒そうとは思ってません。

 室内で樽に入れられてしまったため、最大戦力である靴を装備していないということもありますし、靴があったとしても倒せる保証がありませんから。

 それにその後で神様に会うのに、神獣を殺したなどとなれば不都合が生じかねません。

 ここは平和的な解決を模索するべきなのです。


 そしてもちろん、自分達は当然としてゾモンさん達を諦めるつもりもありません。

 神獣の前から逃げ出し、こっそり村に戻って今度こそゾモンさん達を救出。

 先ほどとは違ってグーダンさん達も完全に油断しているでしょうし、この状況は逆にチャンスですらあるのです。


 では、どうやって神獣をやり過ごすのか。

 簡単ですね。


「着いた……みたいですわ」


 ニルヴィーさんが呟いた通り、樽の底から響いていたガタゴトという揺れが収まっていました。

 神獣の近くに到着し、僕達の入っている樽を地面に設置したのでしょう。

 しばらくは周りでガサゴソと作業をする音が聞こえていましたが、それもいつしか止み、タッタッタッと走り去る音が聞こえました。

 途端に、辺りを静寂が包み込みます。


「さて、すぐにでも逃げ出したいところですけど、いつ神獣が来るか分かりません」


 痛いほどの静けさと不気味な雰囲気に、押し黙っていたニルヴィーさんがゴクリと喉を鳴らす気配。

 すぐ隣で密着しているエリーシェさんは、首を伸ばして外の様子を覗おうとしているみたいですが、それに構わず僕は続けます。


「ですので、まずは神獣さんをやり過ごします。そうして神獣さんが立ち去ったのを確認してから、僕達はここを抜け出してゾモンさん達を助けに行きましょう」


「やり過ごすって、どうやってですの? その言い方なら、何か妙案があるんですわよね?」


「はい、このまま隠れてます」


「はぁっ!?」


「それは無理ですよ~ディータさん。こんないかにも怪しい樽、私でも調べちゃいますって~」


 それが無理じゃないんですよね。

 なぜなら僕には『隠れごっこ』スキルがあるのですから!


「とにかく、物音をたてないように静かにしていれば見つかりません。僕を信じて下さい」


「し、信じないわけではありませんが……」


「駄目だったとしても私が説得するので大丈夫ですけどね~。ニルちゃんももっとリラックスしたほうがいいですよ~?」


「貴女はもっと危機感をお持ちなさいよっ!」


 こんな状況ですら二人は言い合いを始めてしまいましたが、僕は慌てて両者の口を塞ぎます。


「んんんんっ!!」


「しっ! お静かにお願いします」


 僕のただならぬ気配に何かを察したのか、ビクッと身体を硬直させて固まるニルヴィーさん。

 すると、確かに聞こえてくるのです。

 ドスッ、ドスッと、何か大きな生き物が近付いてくる足音が。


「……来ました。あれが神獣で間違いないでしょう」


 樽の繋ぎ目から外を覗き見ると、暗闇でも分かる巨体にギラリと光る緑色の双眸。

 ふしゅーふしゅーと息を吐き出しながら、体長五メートルはあろうかという巨大な獅子が歩み寄ってきたのです。


「大きいですね~」


 さしものエリーシェさんも、小声になって驚愕しているご様子。

 あれと話し合おうなどという考えは、さすがに諦めてくれたのでしょう。

 ニルヴィーさんに至っては見る気もないみたいです。

 反対の方を向きながら、耳を塞いでガタガタしてました。


 まぁ気持ちは分かります。

 僕もこのスキルを知らなければ、ちょっと絶望してしまいそうですから。


 そんな僕達が樽の中に潜んでいるとも知らない神獣は、のっしのっしと近付くと、樽の周りに供えてある野菜などを齧り始めました。

 至近距離で牙を剥き出しにしている様子は、ニルヴィーさんじゃなくとも目を逸らしたくなる恐ろしさです。


 大人の身体ほどもある四肢は見るからに強靭そうで、足の先には鋭く尖った太い爪。

 全身は白と黒の縞模様ですが、その体毛は一本一本が硬くて丈夫そうな感じ。

 きっと通常の攻撃程度では、かすり傷ひとつ負わせることが出来ないでしょう。

 靴飛ばしでもどうなるか分からなそうなので、攻撃手段があってもなくても結果は変わらなかったかもしれません。


 あとは静かに時を待ち、この神獣さんが立ち去ってくれるのを願うばかりですが……。


「△☆△☆◇×□~◇っ!!」


 ――ッ!?


 い、今喋りましたっ!?

 何か言語のような声を発しましたよ神獣さんっ!?


 余りの衝撃に叫びそうになりましたが、寸でのところでなんとか我慢。

 樽に顔をつけ、僕は神獣さんの動きを注視します。

 あ、そうだ。『統一言語空間(ルバラフィールド)』を展開してみましょう。

 ひょっとしたら神獣さんの言葉が聞き取れるかもしれません。


 と、そうこうしているうちに、今度は神獣さんが太い前足を持ち上げ――


 ――ズドンッ


 豪快に地面へと振り下ろしました。

 ぶわっと舞い上がる土埃……っていうレベルじゃないですっ!

 地面には大きなクレーターが出来上がり、代わりに土砂や樹木までもが舞い上がっていましたっ!


 なんて凄まじい破壊力なのでしょうか。

 神獣という名は伊達じゃないようです。


 と、今度は舞い上がっていた土砂があっという間に形を変え、土のお城が出来上がっていました。

 何が起こっているのか正直理解出来ないです。

 とにかく神獣さんは土砂を舞い上がらせ、その土砂をお城の形に造型してしまったのです。


「ム~ラムラするっぺよ~っ!!」


 しかしそのお城をまた前足で粉々に砕き、また地面を掘り起こします。

 今度出来上がったのは巨大な竜でしょうか?

 鱗の一枚一枚まで再現した、職人技の造型技術です。

 さっきとは表面の艶も違うことから、土の成分なんかも変化しているのかもしれません。

 そういえば神獣さんは、元々森と大地の神様だとグーダンさんが言っていましたね。

 ならばこれは、神の奇跡にも近い技なのでしょう。

 今僕達は、凄いものを見ているのかもしれないです。


「ム~ラムラするんだっぺよ~っ!!」


 言葉の意味はさっぱり分かりませんけど。


 と――


「何かお悩みなんですね~!」


 緊急事態発生ですっ!

 エリーシェさんが立ち上がり、神獣さんのお悩み相談所を開設してしまったのですっ!

 僕としたことが早計でしたっ!

 エリーシェブレインは『あ、喋った。ならお話出来ます~』と、シナプス直結回路なのでしたっ!

 その前に自分達の悩みを解決して欲しいんですけどねっ!


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