引き算の意味
相変わらずの数学的な説明だった。その説明に半ばきょとんとしている詩を尻目に、芽依ちゃんは言葉を繋いだ。
「引き算はマイナスの符号を使うでしょ。引き算することに意味があるのは、マイナスの符号を持つことを伝えるためだと思うの。三つのピラミッドの中で、クフ王のピラミッドの体積を引くとゼロになる。つまり、クフ王のピラミッドはマイナスの体積を持つピラミッドだということを伝えているのよ。」
詩はまだ話の全容がわからなかったので、続きを聞くことにした。
その詩の顔つきを見て、芽依ちゃんは詳しい説明をしてくれた。
「クフ王のピラミッドの体積を引くとゼロになるということは、カフラー王とメンカウラー王のピラミッドを合わせた大きさが、クフ王のピラミッドの大きさになっているということ。私も実際に計算したけど、誤差は殆どなくて、偶然の一致ではなく、明らかに意図的に設計されているの。つまり、三大ピラミッドは三人の国王が独立に建設したものではなく、三つ揃って始めて一つの意味を成す一体の建造物として設計されている。その目的は、この世界には精神と物質が互いに釣り合って存在しているという真理を伝承するためだと思う。」
芽依ちゃんの矢継ぎ早の説明に、詩の理解が追い付かなかった。その様子を見て、芽依ちゃんは更に丁寧に説明してくれた。
「この南の面が安定して存在するには、ここに存在する精神と物質の大きさが釣り合う必要があると考えたと思うの。クフ王のピラミッドが精神の象徴だとすると、そのピラミッドの体積はマイナスの符号を持つ。一方、物質の象徴のカフラー王のピラミッドはプラスの体積を持つ。その両者の大きさが釣り合うのが理想。つまり、精神と物質のピラミッドの体積を足すとゼロになることがこの南の面が安定して存在する条件と考えたと思うの。」
芽依ちゃんの専門的な説明に、詩はたまらず問いかけてみた。
「どうして、南の面が安定して存在するために、精神と物質の大きさが釣り合う必要があるの?」
確かにわかりづらいかもねという顔で、芽依ちゃんが微笑みながら答えてくれた。
「うん、例えるなら、資本主義みたいなものかな。借金をして資産を増やして新しい会社を設立する。会計上マイナスになる借金があってもプラスになる資産と釣り合っていれば、会社の経営は安泰みたいな感じ。」
理数系の知識のない詩も、会社の経営の例え話を聞いて、なんとなく理解できた気がした。借金をしても利益が出れば問題はない。会社の経営というのはそういうものだという話をどこかで聞いた気がする。精神の存在がマイナスだとしても、物質の存在がプラスなら、両方存在しても大丈夫だということを賢い芽依ちゃんは言っている。
詩の理解が少し進んだ様子を見て、芽依ちゃんは話を続けた。
「クフ王のピラミッドが逆さピラミッドだとして、そのピラミッドが天空にその体積と同じ大きさの穴を開けた様子を想像してみて。そして、その大きな穴が天からゆっくり降りてくる様子を想像してみて。」
詩は昔、映画館で見たSF映画を思い浮かべた。その映画は宇宙空間から巨大な隕石が降ってくる非常事態に立ち向かう物語だった。ただ、この場合は隕石ではなくて、巨大な穴が落ちてくるという。その穴が地上に落ちるとその穴の中に大地が吸い込まれて消えてしまうかもしれない。そうなれば大災害どころか、この世界が消滅してしまう。
参考: Pomegranate I
第六章終章 世界の成立要件




