両家の顔合わせ
「本日は、お集まり頂き、ありがとうございます。」
少し緊張した面持ちで葉音の彼氏が挨拶に立った。見かけはスラっとして華奢な感じだが、日焼けしていてスポーツが得意な人だと聞いている。物腰が優しそうで、いかにも葉音の好きそうなタイプだ。
ここは実家近くにあるホテルの和食レストランの個室。婚姻前の両家の顔合わせで初対面の親族が集まるのだから、緊張するのも無理はない。季節は夏だというのに、彼氏は襟付きのシャツにスーツを羽織って正装している。葉音も朝から美容院で髪を整えて、余所行きの桃色の可愛いワンピースを着ている。詩は紺色のシックなワンピースに銀のネックレスを組み合わせて、同じように朝から小綺麗にしている両親と共に一緒に参加した。
今日は、葉音と彼氏が念入りに準備した婚姻前のお祝いの食事会。エアコンが効くレストランフロアの個室の中、両家の親族が横一列になって、向かい合わせに着席している。食事会の主催者の彼氏と葉音を真ん中に、その両側にそれぞれの両親と兄弟が腰をかけている。
両家の間に設置された横長の大きなテーブルの全面には、白いテーブルクロスが掛けられている。列席者の各席には扇形に手折られた白いナプキンが立てられていて、その横には今日のメニューリストのメモが添えられている。そのメモの内容を見る限り、今日のランチはこのレストランのオリジナルの洋風の懐石料理のようだ。
会合の冒頭、葉音の彼氏が簡単な挨拶をした後、テーブル側の並びの奥に座る彼の両親を紹介した。彼の父親と母親が簡単に名前を告げて会釈をする。続いてテーブル側の並びの入り口の方に座る彼の弟を紹介する。母親からは事前に聞いていたが、先方も二人兄弟とのことだ。その弟さんは、お兄さんのようなスポーツマンタイプではなく、オフィス内で仕事の出来るサラリーマンのような風貌をしていた。
先方の家族の紹介が終わると、今度は葉音が湖嶋家を紹介する番になった。詩は、自分が主催する会合ではないのになんだか緊張した。少しおどおどした様子で、葉音は上座の父親と母親を紹介した。ついつい、姉の立場で『葉音、頑張って。』と言いたくなる。
両親の紹介が終わると、葉音は部屋の入り口に近い側の私の方を向いた。そして、左手をテーマパークのガイドさんのように差し出して、私を可愛く紹介してくれた。
「そして、私の姉です。」
「詩と申します。よろしくお願いいたします。」
詩も、周囲の人の発言に合わせて、長い自己紹介は省いて簡単に名前だけの挨拶をして、相手の家族に向けて丁重にお辞儀をした。
すると、詩の挨拶が終わるのを見計らったかのように、レストランの給仕役の人が部屋に入ってきて、乾杯のドリンクをグラスに注いでいった。飲み物は、葉音の幸せを感じさせる薄いピンク色のロゼのスパークリングワインだ。
全員に飲み物が行き渡ったことを確認して、葉音の彼氏があらためて乾杯の発声をした。
「ではささやかですが、お食事を楽しんで頂ければと思います。乾杯!」
「おめでとうございます。」、「乾杯!」、「おめでとう。」・・・
彼氏の発声の後、参加者銘々がお互いに言葉をかけあいながら、それぞれのグラスを掲げて、正面に座る相手の家族に向けて乾杯した。
参考: Pomegranate I
第三章探究 葉音




