運命の意識
特集番組は、長年の猫ちゃんの論争に終止符が打たれて、遂に箱の中では白か黒かが決まっていないことが実験で証明されたと伝えていた。詩は、白でも黒でもないって、白と黒の両方の模様があるブチ猫、まるでプチのことだと思ったので、この話を印象深く覚えている。つまり、ボールの色が決まるのは、箱からボールが出て人間の目に見えるようになったときで、それまでは色は決まっていないという。
この事実が実証されたことで、これまでの物理学の常識が覆ったらしい。つまり、箱の中のボールの色が決まっていないとすると、例えば片方のボールが箱から飛び出して宇宙のかなたに飛んで行き、宇宙の果てで誰かがそのボールを目にして黒だとわかると、残された箱の中のボールの色はその瞬間に白になるということになる。このことはどんなに遠く離れていても、瞬時に情報が伝わることを意味し、光の速度も超えることも可能になるので、従来の物理学ではあり得ないことらしい。
つまり量子レベルの小さな世界では、著名なアインシュタイン博士が唱えた光速不変の原理は成り立たず、これまでの物理法則が通用しないことが判明したのだという。ただ、これは科学者にとっては凄い話だけれど、一般人の日常生活には関係がない話かもしれない。詩も話がここまでだったら、きっとやり過ごしていたに違いない。
だけど、番組に登場した有識者の話が、詩と父親を驚かせた。この現象は、微小な半導体や宇宙空間の中だけでなく、人間の脳の中でも生じている可能性があるという。つまり、人間の脳の中も微細に見ていけば、目に見えない小さな量子レベルの世界があり、人間の意識も時空を超える可能性があるという話が番組の最後にあったからだ。
詩は、SFに興味を持つ父親が番組を見終わった後に言い放った言葉を今でも覚えている。
『うちの家族も意識の世界で、繋がっているかも知れないね。』
ロマンチックな言葉だった。もし、人間の意識が量子力学で取り扱われるなら、どんなに遠く離れていても想いは通じ合うということだと詩は思った。運命の意識を持っている相手であれば、時空を超えて、光の速さを超えて、二人はつながることができる。親子も恋人も愛でつながる。だとしたら、本当に大切な人とは、前世や来世でもつながるのかもしれない。それって、彼が言ってくれたMy sweet better half…
詩には、最先端科学がまるで魔法の杖のように思えた。その杖は、見たことのない世界への扉を開けることが出来る。きっと、いっちゃんはその杖を持っているに違いない。その杖を持つ彼は、やっぱり魔法使いなんだ。彼は未来のことだって、予知できる。詩はそう思った。
「どうしたの?」
遠い実家での出来事に想いを馳せていた私に、芽依ちゃんが声をかけてきた。
詩は、我に返った。そして、芽依ちゃんの発言に遅れて相槌を打った。
「うん、大丈夫。確かに神様の秘密を知っていたら、意識の中で時空を超えることが出来るかも知れないよね。もし、そうなら古代の人が遠い未来の知識を得ていたとしても不思議ではないのかもしれない。」
芽依には何だかよくわからなかったが、詩の納得した様子に安堵し、小さく頷いた。そして、話を続けた。
「目に見えない虚数で表される精神は、二乗すると目に見える存在としてこの世界に表せる。そう、あの巨大なクフ王のピラミッドは、きっとこの南の面に存在する精神の象徴なのよ。」
参考: Pomegranate I
第一章序章 彼氏
第二章伝言 彼のメッセージ
第三章探究 量子と心
第四章真理 アインシュタイン博士
第六章終章 科学番組
意識と量子力学




