愛の存在
つまり、物理学では数字には目にみえる実数の他に目に見えない虚数iがあるとして世の中の出来事を説明する。昔、学校で教えて貰った知識によると、虚数iは、i×i=―1で定義される数字、つまり二乗すると実数になる数字のことをいう。複素数とはその虚数が存在することを前提として考え出された数字で、実数の成分と虚数の成分を持つ数字だ。
現代科学ではこの複素数がないと世の中の出来事が上手く説明できないという。電波や光通信を使ってインターネットにつながるスマホやパソコンなども、複素数のおかげで生み出されたという。先の海水浴場の波の高さもこの複素数を使うと綺麗に説明できるらしい。ただ、虚数は実在しない架空の数字で、あくまで物理学や数学の世界の中で存在している。私たちが目にすることができない数字だ。
芽依ちゃんは、話を続けた。
「目に見える世界は物質の世界。目に見えない世界は精神の世界。生物が暮らすこの南の面は、その両方の世界が重なる世界。それが、四つの面を持つピラミッドが示すこの世界の真理。三大ピラミッドがその真理を伝える建造物だとしたら、ピラミッドの設計のどこかに精神が存在することを示す必要があったと思うのよ。」
きょとんとする詩を尻目に、芽依ちゃんは更に話を続けた。
「樫の樹の裏の数字が196。裏の世界は、神様の世界。だから196の底面積を持つクフ王のピラミッドは精神を表していると思うの。その精神は目に見えないから、数字で表すと目に見えない虚数で表されている気がする。つまり、クフ王のピラミッドの底辺は、実数ではなく虚数ではないかと思うの。」
理数系の科目に明るい芽依ちゃんは、もしかすると、目に見えない精神は虚数で表されると言いたいのだろうか。芽依ちゃんの数学者のような説明に詩はたまらず、説明を求めた。
「それは、どういうこと?」
「詩ちゃんのいう目に見えない海水浴場と同じことよ。虚数の空間で遊ぶ子供は私たちには見えない。」
「見えないけど、その子はどこかに存在しているということ?」
詩の問いに芽依ちゃんはこう答えた。
「うん、目に見えないけど、この南の面には精神が存在する。海水浴場の波と同じ。虚数の世界にも波があって始めて、私達が暮らすこの世界で目に見える波が存在する。この南の面では、精神の存在があって始めて、意識を持つ目に見える生命が存在する。」
何だかわかるような、わからないような説明に詩は戸惑った。すると、芽依ちゃんが笑みを浮かべながら言葉を繋いだ。
「愛だって、目にみえないけど存在するでしょ。」
詩は、いっちゃんのことを思い浮かべながらこう思った。ここに彼はいないけど、どこかに存在している。少なくとも、彼の愛は今も存在し続けている。
「うん、愛は存在する。そう信じている。」
芽依ちゃんは頷きながら、説明を続けた。
「でしょ。ただ、愛も架空の数字の虚数のままだと私たちには見えない。だから、ピラミッドは愛を含む全ての精神がこの世界に存在することを示すために、架空の数字の虚数を目に見えるようにピラミッドの設計で表したのだと思う。言語が異なる後世の人達にも、この世界の真理を伝承できるように、巨大な建造物の設計で伝えたのよ。」
まるで、大学の歴史学の先生か考古学者のような芽依ちゃんの発言に、詩は驚くしかなかった。
参考: Pomegranate I
第四章真理 虚数とは




