メモ用紙の説明
芽依ちゃんは、過去の記憶を振り返っている私の顔を確認して、言葉を繋いだ。
「神社には、表の世界と裏の世界があるの。表は目に見えるこの世界、裏は目に見えない神様の世界よ。拝殿に垂れ下がる紙垂はその境界。古木には神様が宿るとされるから、この古い樫の樹は御神木、つまり天界との境界だと思うの。」
「なるほど、この樫の樹は、表と裏の世界との間の境界になっているのね。」
そうか、芽依ちゃんは巫女の経験から、この樹が御神木ではないかと考えたんだ。自宅に不思議なメモを残した芽依ちゃんの思考の源泉が、巫女の経験にあることを知って詩は少し納得した。
「この模様は69に見えるだけど、それは表面からみたときの数字で、幹の中にはいると鏡文字の96に見えるの。つまり、この模様は表と裏の二つの数字を意味していると思うの。」
「だから、メモを二枚重ねたのね。でも、数字を取り囲むこの円は何?」
「詩ちゃん、良い質問。それが今日の話のポイントなの。」
詩が気になったことを聞くと、芽依ちゃんは我が意を得たりと言わんばかりに、話をつづけた。
「日本では、御神木の幹にはしめ縄が巻かれるのよ。」
「この円はしめ縄なの?」
「そう、最初はしめ縄のイメージを円で描いただけ。でも、詩ちゃんの家にあった古代エジプトの書籍を読んだときに、しめ縄の本当の意味に気づいたの。」
「本当の意味って?」
詩の問いかけに芽依ちゃんが、語りだした。
「ヒエログリフの数字で、縄は100を意味するの。だとすると、表の69と裏の96はいずれも100に囲まれることになる。つまり、この樫の樹の模様は69と96ではなくて、本当はしめ縄の100を含めた数の169と196になるはず。」
「なるほど、そういうことだったのね。だから、このメモ用紙は169と196に分離できるように左右が切り取られているのね。」
詩は、メモ用紙を見つめながら呟くように言葉を発した。
「わかりにくくて、ごめんね。あまり時間がなかったから。詩ちゃんにもこの模様の意味に気付いて欲しくて、工夫して作ってみたの。パズルみたいになったのはそのせい。」
芽依ちゃんの説明を聞いて納得はしたけれども、正直、これは複雑過ぎて頭の良い人しか分からないなと詩は思った。理数系が得意な芽依ちゃんだから理解できるパズルのような気がする。
芽依ちゃんは話を続けた。
「その169と196を合わせた数字が、驚くべきことに生物が暮らすこの世界を産み出す太陽の軌道を表す数字365になっているのよ。まるで、この世界が存在するには太陽が絶対要件であることを言わんばかりに。」
詩は、芽依ちゃんの説明に納得するしかなかった。このメモ用紙にそんな意味があったなんて。同じ太陽神を崇める古代エジプトと日本の神社には、遠い昔から伝わるこの世界に共通する真理が伝承されているのかもしれない。
参考: Pomegranate I
第六章終章 365の意味
ヒエログリフの数字
100の差




