第八話 はい、座りましょーねー。
聖幽舎の中はどうなっているのかを具体的に言えば、建物の構造としては塾や予備校とほとんど変わらなかった。
塾で言うところの教室にあたる部分が大きく改装されている。
具体的に言えば、引き戸がシックかつ怪しげな片開き戸になっていたり、内装は全体的に黒い壁紙で、窓はブルーシートで隠してある。
室内の照明が蛍光灯であり、図書館にあるような本棚が二列並んでいる。
教室でよく見るような机と椅子の一組が、学校で言うところの教壇の位置に無造作に置かれていた。
「おー。」
彼女が感嘆の声をもらす。
ちなみに僕たちが選んだジャンルは「ナンセンス」である。
そこには古今東西の様々なナンセンス文学や不謹慎写真が集められているらしい。
「さーて何を読もうかなー。おーっと、バタイユの『エロスの涙』がある。これはグロテスク判定ではないのかー?」
彼女はプロレス実況のような口調でそんなことを言っていた。
「『エロスの涙』、一緒に読も。」
「いや、それぞれで読めばいいじゃん。」
「机と椅子が一組しかない。」
「じゃあ僕が地べたで読むよ。」
「お話がしづらいじゃん。そんなの。」
「本を読みながら話すのか?」
「だって二人で来てるんだよ?それに図書館じゃないんだし。」
「じゃあどうやって読むの?」
「椅子に座るの。私が上で君が下ね。」
あっ、ちょっとその台詞いいかも…。
「いやだめだろ。」
「はい、座りましょーねー。」
「あっ…」
彼女は僕の背中をふいに押し、肩を握って椅子の方へとグイグイ引っ張る。
肩を握る力はおよそ中学2年生女子が持つであろうそれをはるかに逸脱していた。
こんなに強かったっけ…。
変な扉が開きそうだ。
それはともかく、こうなったらもう折れないだろう。腹をくくるしかない。
こうして90分間、女の子を膝の上に乗せて読書するという、男の器が試される試練が始まった。




