第七話 えーと、その、どうすればいいですか?
「聖幽舎」は、僕が所属する学校の長い下り坂の先にある駅のすぐ近くに位置している。
外見はというと、正直に言って一見様お断りの雰囲気をひしひしと感じる様相だ。
4階建ての建物の1階がコンビニで、2階から上が「聖幽舎」となっているらしい。
コンビニのすぐ上にある、「マルバツビル」というどこか怪しい名前の大きくて廃れた看板が、「聖幽舎」に入ろうとする新規参入者をことごとく屠り去っていった、歴戦の猛者のような風格を漂わせていた。
「これは一人だったら踵を返していたよ。」
綾地紡は大きくて廃れた看板に惚れ惚れするような壺を眺める骨董家のような視線を向けながらそう言った。
彼女が僕の手を引いて「聖幽舎」へ連行したのもあって、僕たちは惰性で手を繋いだままでいた。
特に手を解く理由もないのでそのままでいたこともあり、彼女の緊張と手の強張りがダイレクトに伝わってくる。
「行きますか。」
ここでいつまでも突っ立っているわけにもいかないだろう。
コンビニの横にある錆びた階段を上っていく。
2階を上り終わったときにたしかに「聖幽舎」という看板と入り口があった。
聖幽舎の看板は出入り口のすぐ上のスペースに小さな円状ウッドスライス看板に「聖幽舎」という文字が書かれているだけである。
その看板のお世辞にも綺麗とは言えない字が一周まわって僕たちの気後れを好奇心に変換した。
さすがに手を繋いだまま店に入るのは躊躇われたため彼女と目配せをし合いながら手を離した。
「いらっしゃいまっせぇ。」
中性的な癖の強い声とともに、よくできた能面を被ったような、外見から年齢が分からないような、ミステリアスな店主が出てきた。
一目で分かることと言えば、生物的な分類上、おそらく男なのだろうということだけである。
服装はリクルートスーツに紺色のネクタイというアンバランスさもあいまって、頭が混乱する。
彼女も僕と似たような脳内状態になっているのか口を少し空けたまま2秒ほど静止していた。
「えーと、その、どうすればいいですか?」
とりあえず間を持たせようという意思が伝わってくる感じで彼女は店主にそう言った。
すると店主は無言でカフェのメニュー表のようなものを店の奥から取り出してきた。
僕たちに手渡すのが面倒だったのか、無造作にフリスビーを投げる要領で投げたそれは、一直線に彼女のもとへと吸い込まれるように向かった。
彼女は突然の出来事に驚きながらも見事に両の手でメニュー表を挟んでキャッチしてみせた。
店主にドヤ顔を見せる。
能面のような顔の店主と美少女の視線が交錯する。
すごくシュールだ…。
「メニューがお決まりになったら声をかけてくだっさい。90分コース1300円でアイスコーヒー飲み放題です。一つのジャンルごとに個室を用意してます。勝手に時間は測りますので。」
店主は癖の強い声でそう言ったのちアイスコーヒーを作りに店の奥へ消えていった。




