第四十三話 調理実習
調理実習に意味があるのだろうか?
僕のクラスは班ごとに家庭科室で肉まんを作っている。
最初は肉まん作りと聞いて、ま◯そふと作品世界の青髪のVTuberを想起してテンションが上がったものだが、それも長くは続かなかった。
僕の班は全員が料理ができる人であるからやることがなく、適当に家庭科室をうろうろして「仕事してますよ」感を演出していた。
暇すぎる。
料理なんて独学でできるのに。
そして5人や6人で一つの料理を作ると必然的に役割分担をすることになる。
それだと結局のところ自力で食事を作ることができないだろう。
料理をしたことのない人はそれをすることが何かすごいスキルのようだと思いがちである。
そして調理実習は往々にして時間制限もあるため未経験者は、料理ができる人を頼って手持ち無沙汰になるか、チャレンジするも料理に対する苦手意識が大きくなるかのいずれかである。
およそ意味がある慣習とは思えない。
「鬼畜くんもサボり?」
「うお、姫宮さんか。」
「料理できるのにやらないの?」
「うちの班は間に合ってるから。」
「嫌な奴だね。」
「……。」
『君も同じじゃないか』と言いかけたが、なんとか踏みとどまる。
「鬼畜くんは綾地さんとはどう?」
「どうとは?」
「というか好きなの?」
「好きだよ。」
「えっ!?」
姫宮さんは目を白黒させて、忙しない動きをなんとか小規模に抑えながらも、スマホで僕の声を録音する準備をしていた。
「録音するなら何も言わないぞ。」
「チッ、まぁいいでしょう。」
謎の上から目線で僕の言うことを聞いてくれた。
「なんで付き合わないの?ビビってるの?」
「言いたくありません。」
「身体目当て?」
「それは違うな。」
「チキン野郎。甲斐性なし。」
それは誰に言われようとも甘んじて受け入れる覚悟がある言葉である。
「その先が、すごく怖いんだ。」
「……。」
彼女は「なんで?」とか「なにが?」とは聞かなかった。
「なんか過去にしくじったの?」
「ノーコメントだ。」
「でも綾地さんは生殺しだよ。」
「なんで?」
「君の愛情が態度で分かるもん。」
僕は公衆の面前で惚気たりするような恥ずかしい奴ではないぞ。
「2人揃うとなんて言うか視線でイチャイチャするというか、会話もお互いにすっごい甘い声を出してるというか、距離も近いし、ボディタッチも多くて、なんか、もう、言葉は選ばん!」
何を言うつもりだ。
「ちょっとエッチすぎるよ!」
家庭科室は静寂に包まれ、僕たちに視線が注がれる。紡はあからさまに機嫌が悪くなっていた。
家庭科室の先生が僕を睨みつける。
いや、話せば分かるはずだ。
「夏目くん、ちょっと来なさい。」
「先生。人は善悪判断を常に間違えるものです。まずは話を聞きませんか?」
「ふざけてるの?」
「アダムとイヴの話ですよ?聖書ですよ。ご存じ、ないのですか?」
「クソガキが!」
言葉選びを間違えてしまったらしい。
オタクのダメな部分を出してしまったのが要因だろう。
「職員室でその生意気な態度を叩き直してあげるわ。」
「それでも僕はやってない!」
僕は家庭科室から摘み出された。




