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第四十話 腹ごしらえ

ゲーセンに行く前にまずは腹ごしらえをしようという話になった。

「じゃあ何を食べる?」

「焼肉がいいんだよ。」

「そんな金ねぇぞ。」

「一人あたりの上限はいくら?」

「出して2000円だ。これが限度だ。」

「二人で4000円ならイケるんだよ。」

食べ放題なのだろうか?

贅沢を言うようだが、食べ放題の肉ってなんかあんまり美味しくないんだよな…。

そして紡はなぜか僕を住宅地のど真ん中まで案内していた。

「えっ、住宅地にあるのか?」

「明るいオヤジさんと無愛想だけど人の顔は一発で覚える奥さんの二人が経営してるんだよ。」

「住宅地にわざわざ焼肉屋の建物を一から構えるとは思えないな。住宅を改装したのだろうか?」

「勘がいいね。そうらしいよ?」

住宅と住宅の間の細い道を抜けていく。

到着した。

看板には『焼肉住吉』と書かれている。

店の外壁には太い排気ダクトがたくさん見える。

店内に入ると奥さんが迎えてくれた。

手慣れた様子で一言も喋らずに席まで案内してくれる。

この人と話すの無理かも。怖い…。

「じゃあチキン南蛮定食とトンカツ定食と鶏ハツとマクミとホルモンと…」

「待て待て待て待て。」

コイツ、正気か?

わんぱくすぎるだろそれは。

それと女子高生が頼むラインナップじゃないぞ。

メニューに「ハラミ」って書いてるのに「マクミ」って言ってるし。

そんなに頼んで4000円で済むわけないだろ。

チキン南蛮定食930円、トンカツ定食1300円、内蔵600円、肉800円で全て税込なんだよ。

安すぎるだろ。だが4230円か。予算を若干超えるが許容範囲である。

「あと豚ロースを食べるんだよ。」 

渋いな。

頑なにカルビを選ばないあたりが特に。

合計で4830円で、僕の予算を415円オーバーだ。

「バスを使わないで、歩いてゲーセンに行くならそれで構わないよ。」

「それいいね。そうするんだよ。」

注文してから10分ほどで鶏ハツとマクミが届き、奥さんが七輪型コンロをテーブルの上に無造作に置く。炭火の遠赤外線で僕の肌が焼けそうなくらい熱い。まぁ科学的に言えば、炭火そのものからの輻射熱などによる熱さなのだが。

肉は小皿にこんもりと盛られていた。

すごい火力であっという間に焼ける。

「えっ、めっちゃ旨い!」

鶏ハツの歯触りがサクっとしてて旨味が強い。

今まで食べた肉の中で一番旨い。

こんなに感動するとは思わなかった。

紡がそんな僕に穏やかな眼差しを向けていた。

思わず見惚れてしまった。

「顔が緩んでるんだよ。」

「ああ…。」

紡はあからさまな僕の生返事にツッコむことはなかった。

紡と食べ進めながら会話する。

予定調和の会話が心地良い。

この食事において、僕みたいな人間でも言える確かなことが一つだけあるだろう。

「流石に頼みすぎた…。」

「トンカツは縹が食べて。」

「……。」

頼んだ奴が言う台詞か?

どうせ無理って言っても聞かないだろう。

メニュー表にはデカデカと食べ残し厳禁と書かれていた。

声をかければお持ち帰りもできるそうだが、僕は無愛想な奥さんに完全にビビって、声をかけることができなかった。






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