第四話 話長いよ。
「うーん?」
彼女の言葉を受けて思案する。
「一緒に抜け出すなら最初から行かなければいいじゃないか?」
「ふふん♪私は君と違って友達がいるからね。文化祭を休んだら心配されるのだよ。」
「抜け出したら同じじゃないか?」
「出席したら変な連絡されないでしょう?」
「友達からの心配の連絡を変な連絡と申すか。友達は選んだほうがいいと思うぞ?」
僕は、学校でのポジションを保とうとするだけの空っぽな人付き合いをしているらしい親友に、同情の視線を向ける。
ああ、可哀想に。
「君が私になぜ憐憫の視線を向けているのかは理解できないけど友達がいないよりマシでしょ?」
なんでコイツは人の傷をこうも的確に抉ってくるのだろう。
しかもそういう時の顔には生気がみなぎっていて血色も心なしか良くなる。
サディスティックに歪んだ表情にはどこかエロティックさを感じてしまう。
そして僕はこういうことをされるのが案外嫌いでもないのだから困ったものだ。
「降参だ!降参。」
僕は両の手を天に向けて突き上げ、敗北宣言をした。
「そうだよ。なんでこんなことになったんだ。
文化祭準備の前は、僕は結構うまく立ち回って友達もそこそこいたんだよ。おのれ文化祭。21世紀のリベラルデモクラシーに反抗するポピュリズムめ。僕を孤立させたのはこの社会の逃れられない構造によるもので僕を責めることはこの構造を見て見ぬふりして温存するということにつながるんだぞ。社会の正義はどこにあるんだ。」
「話長いよ。」
彼女は僕の実存の叫びをまったく聞いちゃいなかった。
「要するに君には顧みる世間のない無敵の人だけど、私はそうではないの。でも私は友達と遊ぶのはつまらないし、君はサボりたい。その折衷案が文化祭を抜け出して君とデートすることなのだよ。」
彼女は胸を張って「どうだこの天才の発想は!」という圧倒的なドヤ顔とともにそう言った。
そして僕にはもうこの議論においてのインセンティブやイニシアチブなどないらしい。
こうなったら従うしかないのは、長い付き合いで分かっている。
「それで?どこに行くの?」
「本屋さん巡り!」
彼女の瞳は爛々としていた。
そしてそれは楽しそうとも思いつつ、本屋で彼女がするであろう教養にあふれた長い話を聞いてどうやってご機嫌取りをしようかと考えてしまう。
でもこの楽しさと憂鬱が入り混じったような感覚は嫌いではない。
「それいいな。文化祭でそれらしいからってやってるだけのリア充なんて消えればいいんだよ。」
「私はそこまで言ってない。」
彼女は僕の非リアの自意識の葛藤には全く関心がなかった。




