第三話 一緒に抜け出そ?
10月初旬。
夏目縹はこの1年でもっとも憂鬱な時期になるだろうと大晦日にコタツのなかで1年をふと総括するような感じで考えていた。
僕は中学2年生。
そこまで言えば察する人も多いだろう。
文化祭準備である。
アニメやラノベの中では生徒会がやたら変な権力を持っていたり、生徒の自主性とやらを重んじたりしているが現実はそこまでスイートではない。出し物の制約は飲食禁止、メイド喫茶のようなものは名指しで禁止、教室以外での出し物は禁止、数えればキリがない上にSDGsに基づいた出し物をしろという学校からの圧力まであった。
この頃のクラスの雰囲気は大きく二つに分かれている。
一つは雰囲気がピリついて指示系統が崩壊したものになっている。
二つは「みんなで完成させよう!all for one!」みたいな全体主義的な雰囲気で文化祭準備をサボろうという人間を村八分にして弾劾するというものだ。
いずれも21世紀のリベラルデモクラシーを重んじる国で行われているとは思えないような人間存在の自由を軽んじる苛烈なものである。
そのような知性と品性の下劣な環境にいてたまるかと体制に反旗を翻し、僕はホームルームが終わってすぐに家路についた。
「でも文化委員さんなんでしょう?」
僕が自分の部屋に入るなり綾地紡はそんなことを言った。
一体、なにが「でも」なのだろう。
ちなみに彼女は僕の家に僕より早く入って勝手に僕のPCでデジタルカードゲームをプレイしていた。
戸締まりは確認したはずなのだが…
ちなみに僕と彼女は同じ学校の中学2年生でクラスは別である。
そして腹立たしいことに彼女はサボりではなく所属するクラスの文化委員の指示系統がかなり強く、誰が何日に文化祭準備をするかをマメに振り分けているらしい。
「はて?僕は口に出して何かを言ったのかな?」
「というか、仲間外れにされてるのは、文化委員という責務があるのにサボっているという落ち度が君にあるからでしょう?自業自得だよ。」
「だから何も言ってないって。」
「見ればわかるよ。文化祭準備が始まって、私が誘わなければいつもボッチ飯。ホームルーム終わりにちょっと私が君に話しかけようものなら君はクラスの皆に殺気を向けられる。君は教室では目は虚ろで伏し目がちでしかも顔には僕は悪くないって書いてある。」
「書いてねーよ。」
全く酷い言い草である。
だが僕の内心をジャストミートで言い当てられたのもあって反論もできなかった。
だが殺気を向けられるというのは彼女の整った容姿を見た男たちの僕への嫉妬も含まれているのだろう。
ここで某ライトノベルの◯水君のようにやれやれ顔ができれば僕の人生も、もっと豊かになるのだろうが。
「僕、文化祭サボろうかな。」
「ダメ。」
彼女にしては珍しく強い口調で言われた。
彼女はそこまで遵法意識の高い人間ではなかったはずだが、なぜだろう?
「そんなに嫌なら文化祭に行って、一緒に抜け出そ?」
彼女は悪巧みをする悪ガキのような表情で僕にそう言った。




