第三十二話 嫉妬
学校を出るまで、紡に手を引かれる。
年頃の男の子としては気恥ずかしいものがある。
周囲の生暖かい視線と若干の殺意が僕を襲う。
裏門を出たところで、ようやっと解放される。
彼女はあからさまに機嫌が悪かった。
今度は僕が原因だろう。
「縹は女たらしなんだよ。」
それは大きな誤解だと言わざるを得ない。
「綾地紡の恋路を応援する会」の女子達に構ってもらってはいるが、個別の人間と仲良くはない。
いつの間にかハーレムが出来ちゃいましたみたいなことが起きるほど、現実は甘くはないのだ。
だが、こうなったら全面降伏である。
彼女のご機嫌取りをするしかない。
「何をしたら、許してくれる?」
「女たらしなのは認めるの?」
完全に僕を甚振ることを楽しんでる顔だ。
ちょっと不機嫌だけど。
ここまで踏み込んでくるのも珍しい。
慎重に言葉を選ばなければならないだろう。
「嫉妬してんの?」
「その言葉で殺意が湧いたんだよ。」
どうやら言葉を間違えてしまったらしい。
こうなったら、素直に思ってることを言うことにした。
「どっしり構えてればいいのに。」
「殴ってもいいかな?」
「どんな関係でも添い遂げる覚悟はあるよ。」
「うん?」
彼女は完全にフリーズした。
確かにちょっと重かったかもしれない。
でも、受け入れてもらえるということは分かっている上で言っている。
『私をあげるから、君をちょうだい』
この言葉はずっと覚えている。
なんてことを言っても、彼女の気持ちにずっと応えてない僕は明らかに格好悪い奴なのだが。
僕の勝手な、気持ちの問題なのに。
「昔の言葉を本気で受け取ってる?」
「え?僕との関係はお遊びだったの?」
「子供の頃の、戯言って思わなかったんだ?」
「そんなもんに子供も大人もないだろ。」
「よし、許したんだよ。」
なぜか機嫌が良くなり、再び僕らは手をつなぐ。
なんだかすごく懐かしい気分だ。
最近、紡はやたらと手を繋ぎたがる。
なぜか気になるが聞きにくい。
「手を繋ぐのっていいよな。」
「うん。大きなものに包まれるのは、なんだかとても落ち着くんだよ。」
その気持ちはちょっと分かる気がする。
紡にとっての自分が、ある種の癒しになっているなら嬉しかった。
「じゃあ、スーパー行くべ。」
「帰りにコンビニに寄るんだよ。」
「コンビニスイーツは美味しいもんな。」
「じゃあついでに買うことにするんだよ。」
一進一退の攻防だった。
女の子と2人でそんなもの買ってたまるか。
思春期の男の子の心はガラスで出来てるんだぞ。
もっと丁重に扱ってほしい。
「私のこと、嫌い?」
それは、ズルい。
そんな訳がないことくらい、分かってる癖に。
「嫌いな訳がない。紡は僕の恩人だ。」
「まぁ、今はそれで許してあげるんだよ。」
彼女は、ほくほく顔で僕の手を引いて、坂を下りた。




