第三十一話 紡さん?
「やっと終わった。」
ホームルーム終了と同時に僕はそう言った。
学校生活の中で一番ドーパミンが出るイベントは何かと言われれば、放課後と言わざるを得ない。
この解放感のために学校というものがあるのだと言われても、僕はまったく不思議とは思わない。
「あれ?鬼畜くん、髪型変わった?」
姫宮さんが声をかけてきた。
「ああ、デートの時に理容室に行った。」
「綾地さんと一緒に?」
「そうだよ?」
「オカンと息子か!」
やはり他人から見てもそうなのか…。
「そして、何だその、ダッさい髪型は。」
彼女は、なんとも形容しがたい気持ち悪いものを見ているような感じでそう言った。
え?坊主の伸びかけってそんなにダメなの?
じゃあ野球球児はどうするんだよ。
そして坊主の伸びかけというものは案外パッとしないもので、僕の前衛的な髪型が変わったとしても、姫宮さん以外に気付かれることはなかった。
最近は「綾地紡を応援する会」の女子たちに構ってもらっていたから麻痺していたが、僕に紡以外の友達はいないのかもしれない…。
僕は男子に「女子集団と仲のいい男子」認定をされて、遠巻きにされるとはいかないまでも、男子と女子の間の大きな断絶によって、話せるけど友達にはなれないような、そんな感じのポジションに収まりつつある。
だからと言って、紡以外の女子と仲が良いわけでもない。
僕の高校2年生デビューは、失敗とまではいかないが、もっと自分が上手く立ち回っていたら変わっていたのかもしれない。
「だって、スポーツ刈りって怖くない?」
「その話は綾地さんから聞いたからいいよ。」
「さいですか。」
「お泊りなんでしょ?」
「聞いたのか?」
「うん、そうだよ。」
紡にしては口が軽いな。
いや、仲が良いってことか。
「ちゃんとお財布には入れてる?」
「皆それ言うよね。」
とは言っても、担任と姫宮さんの2人だけだが。
「僕はそんな下品じゃないよ。」
「じゃあ、制服の内ポケット?」
「違う。そうじゃない。」
「だったら、一体どこに…。」
「今から縹と買いに行くんだよ。」
紡がとんでもないことを言い出した。
「あっ、そうなんだー。じゃあ綾地さん、ファイトだよ!」
姫宮さんは僕たちにサムズアップした。
そして早足で退散してしまった。
「じゃあ、買いに行くんだよ。」
「睦美さんに綾地家の常備菜を作って欲しいって頼まれてたんだ。うん、そうだな。スーパーで食材を買いに行こう。」
「途中でコンビニにも寄るんだよ。」
「あのー、紡さん?」
僕は紡に手を引かれ教室を出た。




