第二十八話 理容室
「なんでこんなことになったんだ…。」
僕は大衆理容室に連れていかれた。
「いい加減、髪を切ろうよ。」とオカンの小言みたいなことを言われ、当初の計画を変更して理容室に行くということになった。
本当は美容室が良かったらしいのだが、さすがに時間がない。
ネットの口コミも周囲の評判もいい、研ぎ澄まされた技術とスピードが売りの店に行った。
ちなみに高校生は900円、大人は1200円である。
渋いおじいさんが一人で接客していて、それがとてもカッコいい。
「さすがに伸びすぎだよ。天然パーマがくるくるになって、前衛芸術家みたいになってるよ?」
「だって、美容師さんと話すの怖くない?」
「なんで?」
「なんか、すごい服装とかがオシャレな人が多いし、雰囲気で気圧される。」
「美容師さんは縹みたいな人を冷笑するような、悪い人じゃないんだよ?」
さり気に僕をディスっている気がするが、ここは華麗にスルーする。
「紡は退屈じゃないのか?」
「ここにはたくさんの漫画があるんだよ。」
まぁ、本人がそう言ってるならいいだろう。
正直に言って、このうざったい髪が鬱陶しいと思っていた。
行こう行こうとして先延ばしにして、最後に行ったのが半年以上前だった気がする。
お客さんは僕一人しかいなかったため、すぐに切ってもらえた。
顔剃りとカットを含めて40分もかからなかった。
「絶望的にセンスがないんだよ…。」
なんてことを言うんだ。
「おいおい、オヤジさんのことは悪く言わないでくれよ。ちょっと仲良くなったんだから。」
「縹が全部悪いんだよ。」
あ、そっちのことか。
「なに?その坊主の伸びかけみたいな頭は?」
その言葉には圧があった。
「いや、紡が坊主頭を好きなのは分かるけど、さすがに…。」
「座って。」
「はい…。」
彼女は僕の軽口をまるで相手にしなかった。
「もっとさ。それするならスポーツ刈りとかさ、もっと、なんかこう、あるでしょ?」
「スポーツ刈りって怖いじゃん。」
「それに声だけは大きく、顧問をリスペクトするふりだけはやたらうまくて、自分では何も考えないし、屈折して陰湿なマッチョイズムがやたらある、運動部の奴らがする髪型だろう?さすがに品性を疑われるよ。」
「運動部へのルサンチマンがすごいんだよ。」
彼女は僕に憐憫の視線を向ける。
僕はさらにまくし立てた。
「なんだよ。運動部って。そういう奴らに限って大したこと考えてないくせして、学校の体制に中指を立てて、これみよがしに見せつけるんだよ。そして何も考えずに備品を平気でぶち壊したり、盗んだバイクで走り出したりするんだよ。表向きは『ドンマイ!』とか言って、爽やかな人間を気取っても、裏でやってることは部活メンバーの陰口とポジショントークだぜ?温室育ちのマッチョごっこほど哀れなものはないね。」
「縹の偏見が止まらないんだよ。」
もう完全に髪型の話から離れていた。
「今度は私が切ろうか?」
「できるの?」
「縹は短くなればなんでもいいんでしょ?」
「まぁ、うん。」
ぶっちゃけ、散切り頭でも構わない。
「じゃあ頼みます。」
「うむ。また今度ね。」
紡なら気を使わなくていいし。
僕らは駅で適当に時間を潰して、学校に戻った。




