第二十七話 デート
「紡、デートしよう。」
「分かった。行こ。」
僕たちは教室を出ようとする。
「いや、ちょっと待ちなさいよ。」
姫宮がイチャモンをつける。
言い出しっぺの癖に、一体なにをゴチャゴチャ言おうとしてるのだろう?
「2時間目はどうするの?」
「デートだからな。サボるよ。」
「いや、ダメだって。」
「学校の周辺を散策するだけだよ。」
「そんなのデートじゃない!」
姫宮は叫んだ。
そして標的を変える。
「ねぇ、綾地さんはいいの?」
「縹となら楽しいんだよ。」
「もっと過激な要求をするんだった。」
「じゃあもらってくぞ。」
僕は姫宮が教科書に挟んでいる、いつかの夜に使うであろう大事な素材を抜き取って、ポケットに突っ込む。
2時間目は数学で、レベル別に3段階で分かれる複数クラスの合同授業だ。
なんやかんやで、有耶無耶になるだろう。
僕たちは学校の外に出た。
我が校に到着するまでに、絶対に避けては通れない二つの坂がある。
一つは始業式のときに上った、長い螺旋状の坂。
もう一つは学校の裏門のすぐ先にある、真っ直ぐかつ短く、非常に急な坂だ。
裏門にある坂で通称「裏坂」と言われている。
どれくらい急かといえば、坂を上るときに蹴り出した足のアキレス腱がいい感じに伸びるくらいだと思っていただきたい。
この坂を上るのは、結構きつい。
基本的には下校のための坂である。
僕たちは「裏坂」を下った後、軽く周囲を散策していた。
学校の周りにある神社や廃れた公民館、カフェなどを見て回って、適当におしゃべりした。
「この絵はなに?」
「なんだと!」
彼女はいつの間にか僕のポケットから、くしゃくしゃになった紙を取り出し、ニヤニヤした顔で聞いてきた。
バレたのだから、男らしく白状してしまおう。
「ああ、ちょっと自室に秘蔵のコレクションが置けなくてな。自分で作ったんだ。」
「縹がちゃんと男の子なんだよ…。」
「ふふっ、紡から見たら、やはり僕は純朴でかわいい男の子だったか。だが、『男子、三日会わざれば刮目して見よ』だ。常日頃から自分を超克しているのだよ。」
「自分の欲望に素直になってるだけなんだよ。」
紡はジト目で僕を見る。
「ジト目」というのは、字面だけでも気分がアガる。そんな目で見られたら、反応しちゃうじゃないか。
だが、僕は内面と外界を切り分けることのできる、誇り高くも猛き紳士だ。
頭をフル回転させて、内面と外界の二つに折り合いをつけた。
内面と外界を行き来して、対象の不在を埋め合わせるのではなく、その不在を抱えたまま、不在との関係を現在の生の中で更新する。
それが、気高きオタク魂だ。
ありがとう紡、そんな目で見てくれて。
僕はやっと「ジト目」という不在の対象の真理が分かった気がするよ。
まぁ、要するに、あれですよ。
捗りますな。
「じゃあ、家に泊まっていくといいんだよ。なんだかんだ言って、やったことないよね?」
今日の朝、母に夜は帰ってこれないと言われた。
素材を回収できるし、家にもいなくていい。願ってもない話だ。
「大五郎さんと睦美さんには許可は取れる?」
「縹の顔を見せたら、どうせ良いって言われるんだよ。」
「というか、いるの?」
「今日、家に親はいないんだよ。」
なるほど、許可を取るつもりはないらしい。
まぁ、好きに使っていいって言われてるし、1回だけなら甘えてもいいか。
「3時間目なんだっけ?」
「体育なんだよ。」
「ダルくね?」
「ん。」
「駅まで行って適当な所で駄弁ろうぜ。」
体育は野球とサッカーのどちらかを選ぶ男女別の授業だ。
委員長には賄賂も渡してるし、まぁなんとかなるだろ。
「紡はサボってもどうにかなる算段はあるの?」
「愛姫ちゃんがなんとかするんだよ。」
本当か?
流されてるだけじゃないだろうな?
こういうことは、誰かを誘ってやるのは良くないのかもしれない。
別に怒られるのは紡だけだし、まあいいか。
素行不良者達は、なし崩しでデートの時間を延長した。




