第二十話 包囲
僕はホームルームが終わってすぐに、紡を連れてとっとと退散しようとしていた。
その動きを予測していたかのように、女子二人に通せんぼされ、その隙に女子達に包囲された。
どうやら観念するしかないらしい。
そして彼女たちは一斉に、ばらばらな内容を僕に質問してきた。
「聖徳太子じゃないんだから、一つずつ質問してくれないか?」
このとき、内心「失敗した」と思った。彼女たちの話を聞くという前提を作ってしまった。
僕は完全に雰囲気に呑まれていた。
「じゃあ不肖、この姫宮愛姫が代表して質問したいと思います。」
すると姫宮は、タブレットのメモ帳を起動して読み上げようとする。
ちらっと見えたのだが、箇条書きで画面がびっしり埋まっている。
僕は隣の紡に助けを求めるも、呑気にあくびをしていた。
「ブルータス、お前もか?」
僕はユリウス・カエサルの気持ちを理解した。
「お二人の馴れ初めは?」
姫宮は右手にタブレット、左手に音声レコーダーを持ち、僕の声を録音しようとしていた。
「言いたくありません。」
そう言うと彼女たちは、ここで言うことを憚られるような、放送禁止用語マシマシのブーイングを一斉に僕に浴びせた。
言葉が鈍器なら、今頃僕は死んでるだろう。
「やっぱり貴方は鬼畜野郎だ!」
姫宮の言葉で、僕はノックダウンした。
彼女達には「鬼畜」が僕を形容する言葉として定着している。
はじめて僕に「鬼畜」と言ったのは……
そう考えて紡の方を見る。
彼女は目を逸らして、口笛を吹いた。
一体どこまで話したのだろうか?
僕は復活して、彼女たちに対峙する。
「どこまで知ってるんですか?」
「細かい事情は知らないけれど、君が綾地さんにとんでもないことを言ったことは知ってる。」
なるほど、それで「鬼畜」か。
内容まではバレてないようで胸をなで下ろす。
「1年の頃は綾地さんは夏目くんの写真を見て、ニヤニヤすることがしょっちゅうだったし、口を開けばいつも夏目くんの話が出るんだよ?」
「愛姫ちゃん!?」
今度は紡が標的になった。
「でも、綾地さんが転んだときの夏目くんの対応はカッコよかったよね?」
「あれは、すごくいいよね?」
姫宮の言葉に同意するように彼女たちは「うんうん」と頷く。
「正直キュンキュンしちゃったよ。」
「ダメ。」
紡から聞いたことのないような、底冷えする冷淡な声だった。
「手を出しちゃダメだよ?」
いつもの口調と声色に切り替えて紡は続けた。
「「「かわいいー!」」」
彼女たちは牽制にまったく怯むことなく、紡を揉みくちゃにした。
僕は高鳴る鼓動を抑えつつ、彼女が他の人に愛されてるということを知って、素直に嬉しく思った。




