↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/85

第十九話 自己紹介

始業式のお決まりのテンプレートを全校生徒がこなし、大掃除をした後にホームルームがあった。

この時間が憂鬱な人も多いと思う。何が憂鬱かって、自己紹介だ。

奇を衒えばイタイやつ認定されるから一番最初の、あ行の苗字の人間たちが切り開いていった道を踏みしめるのが世の常である。

綾地紡はその意味では、開拓のプロフェッショナルであろう。

何気に同じクラスになったことがなかったので、彼女のお手並みを拝見しようと、教壇に視線を向けた。

「はじめましての方は、はじめまして。私の名前は綾地紡です。好きな人は夏目縹です。」

「好きな人」という言葉にドキッとしつつも、好奇の視線に晒され、冷や汗をかいた。

彼女は学校の優等生で、表向きは皆に優しいだけあって人望があり、女子の間では愛されキャラというポジションに収まってるというのもあって、突然の暴走を周囲は微笑ましく眺めていた。

中学時代と違って、なぜ女子の間で彼女が人気者になったのかは分からない。

「縹くんとは許婚で、小さい頃に出会ってから私の理想でした。でも彼は、私がいくらアピールしても、まるで取り合ってくれません。それはなぜか!彼は私の身体にしか興味がないからです!」

見事なアジテーション演説である。だが、全てがデマだ。しかし明らかに僕は彼女に引け目があるから、声を上げることができなかった。

そして僕と彼女の人望を比較した時に、どちらを周囲が信じるかは自明である。

主に女子からは「女の敵!」「鬼畜野郎!」

「綾地さんの貞操を守れ!」

など罵詈雑言である。

それを聞いた男子も盛り上がって、野次が止まらない。担任に目配せして助けを求めたが、僕に軽蔑の視線を向けていた。

いや、止めてくれよ!

よく考えると、女子の野次が男子に伝播するという構造に違和感がある。

彼女が女子に根回しをしたのだろう。

「待ってください!」

紡は目に涙を浮かべて訴えかけた。

まるで舞台役者のようだ。

「彼は私の理想です。私の話を聞いてくれて、いつも欲しい言葉を投げかけてくれる。」

山よりも高く、海よりも深い、慈愛の声だった。

そして、そんなストレートな好意を口にされたら彼女から目が離せなかった。

周囲は「やはり鬼畜野郎だな!」「ヘタレ!」

「チキン野郎!」「羨ましいぞこの野郎!」

「男ならはっきりしやがれ!」

という風に、若干だが茶化す方向へ変化した。

だが僕の社会的地位が、「身体目当ての鬼畜野郎」から変化することはないだろう。

「勝手なことだって分かってます!でも初めて本気で欲しいと思ったんです!私の恋路に皆さんの力を貸していただけませんか!」

彼女は、悲痛そうな声で自己紹介を終えると、クラスはスタンディングオベーションだった。

もちろん、バカバカしくて立たない奴もいる。

そういう人種を、僕は愛している。

紡は教壇から自分の机に移動する最中で何の段差もないのに、足が絡まってすっ転んだ。

相当緊張していたのだろう。

立ち上がり、駆け寄って声をかける。

「おい、大丈夫か?」

「鼻血が出てるぞ?ちょっと待って。」

彼女を立ち上がらせて、僕のハンカチで彼女の鼻を拭く。血が止まってきたらハンカチをポケットにしまい、ポケットティッシュを持たせてトイレで顔を洗うようにと言い、彼女を連れて教室を出ようとしていた。

紡は恥ずかしそうな顔をしながら声を出した。

「縹は過保護なんだよ。」

そう言いつつも、満更でもなさそうだった。

僕達にニヤニヤ顔と生暖かい視線が注がれる。

このことがきっかけでクラスの女子が「綾地紡の恋路を応援する会」なるものを設立した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。