第十五話 かわいい。
小学5年生の頃の僕は、自分の判断が全て間違っていて、自分がこの世の中の最底辺の人間だと本気で信じていた。
今でも、割とそう思っている部分がある。
彼女と知り合ったきっかけは修学旅行だった。テーマパークで班行動をしていたが、意図的に置いていかれて、何をするでもなくベンチに座り、正面を見て、ぼーっとしていた。
何かをすることが、とても怖かったからだ。
一人で行動したらロクなことがない。
そんなときに綾地紡に声をかけられた。
「何してるの?」
「困ってるなら力になろうか?」
声は非常に冷たく、世捨て人みたいな、俗世からかけ離れた雰囲気がある少女だった。
彼女の善意はどこか義務的であり、
「そうであるべきであるから、そうしている。」
というような感じだった。
その義務感に、どこか切実なものを感じた。
「なんで助けるの?」
そう質問してみた。
「私は善きサマリア人になりたいの。」
当時は、何を言ってるのか分からなかった。
でも、良い人になりたいということは分かった。
「君も一人ぼっちなの?」
なんとなくそう思ったから、言ってみた。
彼女の頭を撫でる。
母さんが泣いてる時にこれをしたら
元気になったから。
「なんで、わかるの?」
そう言って、彼女は泣いた。
母さんも、最初は泣くけど、すぐに元気になる。
けれど全然泣き止まなかった。
母さんの頭を撫でたときとは違う、不思議な連帯感が僕らにはあった。
心の拠り所など無い。
誰かと一緒にいても、一人ぼっち。
その部分で、僕たちは共鳴した。
「たすけて。」
彼女は僕に縋り付くように、そう言った。
「お話しよう?」
僕は彼女の頭を撫でるのをやめずに、鼻水と涙を自分の袖で拭った。
話をしても、彼女が何を言ってるのか、当時の自分では理解できなかった。
けれど、彼女は元気になった。
「ちょっと元気になった。ありがとう。」
「名前は夏目縹って言うんだ?きれいな名前。」
「この恩は忘れないから。」
そう言って、去ろうとする彼女の袖を、僕は引っ張った。
「じゃあ、助けて。」
「僕は最低の人間だから。」
「一人で行動したら、何にもならない。」
僕の言葉を聞いた時の、彼女の表情は今でも鮮明に覚えている。
悲しさと、同情が入り混じった、痛ましいものを見ているような顔だった。
「かわいい。」
そう言われたとき、ゾクゾクした。
「私をあげるから、君をちょうだい。」
その後に続けた僕を褒める言葉はよく覚えていないが、彼女の難しい言葉で元気になった。
「魔法使いみたいで、カッコいい!」
「僕も、そんなお話できるかな?」
彼女は、僕の言葉を聞くと目を丸くして、雰囲気が少し柔らかくなった。
「友達になろう!」
彼女が手を差し伸べる。
そして、僕をベンチから引き剥がした。




