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雷鳴の突撃

「イマルド侯爵は、ヒヨルド窪地で宴を開いております」


戻ってきた一人のアサシンが地図で示す。



22年前も襲った、逃げにくい絶好の窪地だ。



「もう一人のアサシンはまだか?」


――カスガ―卿似が戻ってこないのが気になる。



すると――ポツリ、ポツリ、大粒の雨が滴る。



「スコールのようだ」


カルーセルが冷静に呟いた。



雨が鉄鎧を激しく叩く。


馬の鼻息が荒くなる。


立ち込める泥の臭い。


そして、稲妻の閃光。



――雨脚があれよあれよと激しくなる。



それは、22年前と同じ。


――オレらの襲撃の音を掻き消す、天からの恵み。




もう一人のアサシンが戻ってこないのが気がかりだが、


――この機を逃すわけにはいかない。




「突撃だ!野郎ども」


オレは、大扇子を掲げて合図した。




一気呵成に馬に跨ったオデル軍が高台の砦から谷底のヒヨルド窪地に向かう。



「ハプスブルグは先陣を切って、イマルドに一直線に迎え!」


オレは、切り込み隊長に指示した。




「もちろんです」


ハプスブルグは自分の役目を承知している。


先頭を切って駆け抜けた。


「生きて帰れるかな」

若い兵が呟く。


「殿について行けば死なん」

古参兵が笑顔で諭した。



――敵は宴の真っ最中。

激しい雨と雷鳴がせっかくの宴に水を差す。



いったん、お開きにするよりないかと思う者。


酔って、濡れても構わぬと続ける者。




雷鳴と喧騒が渦巻く中、


――オデル軍が襲撃する。




最初、イマルド軍は意味が分からなかった。




 なぜ血が流れる?


 人が倒れる?


 酩酊のせいか?



まったく無防備なイマルド軍はあっという間に死体の山となった。



「イマルド侯爵はおるかー」ハプスブルグの叫びが響く。



ヒヨルド窪地の本陣に向かった。



ハプスブルグが、陣に張られた幕にスピアを掲げて乗り込んだ。




「イマルド、覚悟!」



スピアに引っ掛かり、幕がバサッと落ちた。




――そこは、……もぬけの殻?


人っ子一人おらぬ。



オデル達本体も、すぐにヒヨルド窪地に辿り着いた。



「誰もおらぬ」


カルーセルは呆けたような表情になった。



「あの、アサシンがウソを申したか?」


オレも動揺する。前世と脚本が違うではないか?


心臓が16ビートで鼓動する。腋から大粒の汗が滴る。


ヤバイ。ナゼダだ?




「戻ってきたアサシンは、ほれ、われわれと同行しておる」


ウインザー公が指さした。



「すると、あのカスガー卿似のアサシンが……」


奴のことは気にせず、前世と同じタイミングで切り込んだのが過ちであったのか?



未来知識があるから余裕だなんて、甘かった。



オレのビビりが、急に顔を出す。



その時だった、


雷鳴が唸りを上げ、稲妻の閃光が天を切り裂く。



光になった神龍が天から地を目掛け轟音とともに舞い降りる


――イマルド侯爵の参上。



「空を裂き、瞬きの間に討て雷いかづちよ、トニトルス!」


イマルド侯爵が雷の魔法を詠唱した。



天が割れる。雷鳴が轟く。光が瞬く。


天から無数のカミナリが降り注ぐ。


オデル軍の武勇のナイト達もさすがに縮み上がる。



――たまらず山側に身を隠した。


イマルドのイカヅチ攻撃になす術はない。



「雷属性のイマルド軍に、今戦うは絶対の不利。退却しましょう」


ウインザー公は命がけだ。


ちびらずにオデル子爵に進言できた。



――何ということだ、前世の知識は役に立たないのか?


今度の人生も甘くはないようだ。



上等じゃないか!


オレのビビりは怒りで克服する。



「皆のもの、息を整えろ。30秒後に再突入だ」



ウインザー公は真っ青な顔を引きつらせて叫んだ。


「と、とのー、勝ち筋はあるのですか……」



オレは馬上からウインザー公を睨み射付けた。


「チャンスだ! ウインザー、頭を使え!」



オレはイグニスを詠唱する。


「灰より生まれ、すべてを焼き尽くすもの、我が意に従え――イグニス‼」



――イマルドのイカヅチが炎に包まれる。その火はたちまちイマルド陣営に広がる。


イマルド陣営は炎に包まれた。




先ほどまでの、豪雨もウソのように上がる。



――やはり、われは神に愛され、神になる男。


ガナブノ・オデル=ウオマンテ・クロイダ




「ハプスブルグ、いけー。イマルドの首を上げろ!」


「突撃だ!」


再びハプスブルグ公に先陣を切らせ、イマルドを狙う。



イマルド軍の陣営は紅蓮の炎に包まれた。



巣に煙を撒かれた鼠のように、イマルド軍のナイトたちは炙り出される。



「イマルド侯爵見つけたり!」


ハプスブルグが叫んだ。



イマルド侯爵と親衛隊は命からがら炎から逃げてきた。



ハプスブルグは馬上からスピアでイマルドを狙う。



「イマルド覚悟!」



咄嗟に出てきたイマルドの親衛隊のペイジが槍に刺された。



「うむ、邪魔が入ったか」


ハプスブルグは馬を旋回させる。



「イマルド公、捉えたり!」


今度は、カルーセルが馬上からスピアを振り回す。



オレはウインザー卿に守られ、やや遠方より見守る。


「前と後ろから、二人掛かりで行け!」


指示を飛ばした。



今度はカルーセルが正面から突撃をする。


ハプスブルグも後方より進む。



――その時、イマルド公爵は剣を掲げた。


「古より伝わる聖なるレフターソードよ、その持てる力をすべて我に捧げ!」


伝説の妖刀レフターソードは青い光を放ち、ハプスブルグのスピアを弾いた。




――いかん! ハプスブルグが!


その瞬間、イマルドの妖刀はハプスブルグの躰を貫いた。




「ハプスブルグーーーー!」


何てことだ、一瞬でやられた。


また16ビートの鼓動が音を立てる。



今度は、後方よりカルーセルのスピアがイマルドを襲う。 



イマルドは反転した。


レフターソードは勢いに乗り轟く。



その青い光を伴う旋回を喰らったカルーセルのスピアは真っ二つとなる。



その瞬間、青い光に纏った妖刀はカルーセルの背中を捉えた。


地面より天に向けて切られたカルーセルが宙に舞う。



「カルーセルーーー!」


体中の汗が噴き出してきた。恐怖がオレを包む。


あいつ、化け物か?



妖刀レフターソードの切れ味に、取り囲んだオデル軍は腰が引ける。



――誰もイマルドに近づけない。



ハプスブルグの指が震えている。……まだ息があるか?



許さん!


退けてきた自軍に逆らい、オレだけが前に進む。



足が止まる。呼吸が詰まる。



でもオレが踏み出さねば。



「伝説のレフターソード、オレの物だ」



イマルド公の正面に対峙した。



「返してもらおう、オレのソードを」


イマルド侯爵は狐につまされた顔をする。



「はぁー、このソードはお前のものではない。今も昔も」


イマルド侯爵は断定する。



「お主には与り知らぬこと。ここで死ぬのだから」


オレは不敵にほほ笑む。



「いや呆れた。天下に名高いうつけ者とはおまえのことよ」


イマルド侯爵は目を見張った。



オレはソードを渡せと言わんばかりに、手を差し伸べる。



「はぁ? おまえ頭おかしいのか?」



――その時であった。


背後に回り込んでいた瀕死のハプスブルグのスピアが、イマルド公の背中を衝いた。



「うおあ、しまった!」


イマルド侯爵の背中が……あり得ないほどエビ反った。  


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