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奇襲

「前線の砦が破壊されました!」



午前8時、22年前に回帰したオレは叩き起こされた。



「慌てるな、ラメール」


起こされるのは気分が悪い。あれ?



「ラメール? カルーセルにございますが」  


おっと、22年前に回帰したのか。ラメールの親父ではないか!  


久しぶりだのう。



カルーセルは緊張感MAXだが、オレはニヤケてしまう。



「敵は2万、自陣は2千。籠城して、アサルド軍に支援を願いましょう」



「うむ」


オレは起き上がって、窓際に立ち城下を眺める。


 

二十二年前、この報を受けた時もカルーセルたち家臣は同じことを言った。


籠城。


援軍。


守り。


しかし、それでは国は滅びる。


あの日の自分は、その先の未来を知らなかった。


だが今は違う。


この戦は勝てる。


勝ち方まで覚えている。



――考えているフリをする。


 ……籠城する選択肢はない。




「速攻、出陣の支度をせい」  


オレの迷いのない独断に、カルーセルは反論の余地もない。



「……わ、分かりました」


下がって、筆頭ナイトのウインザーに報告する。



「まじか! 死にに行くようなものだぞ」


ウインザーの顔からも血の気がなくなる。



「誰か殿を止められないのか?」


筆頭ナイトを集めて、ウインザーは問うた。



「ハプスブルグ殿、お願いできるか?」


オデル軍の切り込み隊長に頼んでみる。




「筆頭ナイトのウインザー様こそ、ご自身で御進言ください!」


「そうだ、そうだ!」


と皆、がやり立ってる。




ウインザーのギョロ目に皴だらけの顔が、苦渋に歪む。



「殿に意見することは、死を覚悟すると同じ」


――ウインザーは瞼閉じて固まった。




その瞬間、部屋の扉が乱暴に音を立てて倒れた。



「何をしておる! 付いて来ぬ者は、ここから放り捨てる!」


ここは天守の5階。


武勇のナイト達も縮み上がった。



間に立たされたウインザーの顔は見るも無残な苦渋に歪む。


筆頭ナイトとしてオデル様にモノ申せれば、求心力は爆上がり……。


しかし、瞬間沸騰のオデル様にモノ申すことは、言葉一つ違えただけでも……、

数秒後には首の皮が繋がっていないことも覚悟しなければならない。


オデル様は若き日より無茶ばっかりだ。

しかし、われらの心配をよそにすべて勝ってきたのだ。


常人からしたら無茶ぶりも、あの方には勝ち筋が見えているのだと信じよう。


――今までもずっとそうしてきた。




「5分後に出陣じゃ、イグニス教会に寄ってくぞ! 」

オレは声を張った。


イグニス教会には、炎魔術家系のオレの祖先が祀られている。




「ご、5分ですか……」


騎士たちは、着の身着のままで出陣した。




――イグニス教会に向けて2千の軍が行軍する。



「ご先祖様に挨拶するのは久しぶりじゃのー」


あの頃は忙しくて、ご先祖様をおざなりにしていた。  



アデルに殺られた頃は、罰当たりであったかもしれん。



ご先祖様に報告すべきことが山ほどある。



緑に囲まれた林道を行軍すると、早朝の冷たい空気が心地よい。


――お供していたカルーセルは、オデル子爵の機嫌が良さそうなので話しかけてみた。




「殿、この戦いの勝ち筋を教えてください」



『この無謀な戦いに勝ち目はあるのですか?』


『われら生きて帰れるのですか?』をスゴク遠回しに尋ねた。




「余裕だろ。イマルド軍はうちの前線の砦を2つ破壊した。兵の数も10倍」


「……そこに隙が生まれる」




ウインザー卿は目を見張った。


何て人だ! あり得ないプラス思考!




「イマルドは絶対に我らが籠城していると思っている」


「……なるほど、今は油断しているのですね」




「裏の山道からこっそりカスクバレーに回り込む」


「休んでいるところを、ドーンと討つ」


オレは自信満々。ビビりも吹き飛んだ。




なるほど、ウインザー卿もちょっとは勝機が見えてきた。




「然るに……数の差が……10倍も……」  


恐る恐る聞いてみた。




オレは馬上から、ウインザーをキッと睨みつけた。  


――オレの強面でウインザーは縮み上がった。




「恐れるに足らん」


「早々にイマルドの首を上げてしまえば良い」




前世でも、命がけで成功した。


オレは今回結果を知っている? ハズだ。




「なるほど、恐れ入りました」


ウインザー卿は身体をすぼめる。




「し、しかるに、イマルド公の居場所をどうやって……」


ウインザー卿は、最後まで聞いてみた。




「それは……内緒じゃ」  


再び睨みつける。  


しゃべりすぎてはいかん。    


――固く信じた家臣だって、裏切るじゃないか。 学んだばかりではなか。  視界が滲む。


呼吸が荒れる。


唇を噛み締める。  



「クッソー」



――アデルは今頃どうしているのか?


あの時、背中を預けた男。


確かいま時期はアサルドに奉公しておるはずだ。


あと、5~6年後に出会う。



オレは何食わぬ顔で、またあいつを家臣にする。


強固な信頼関係を築いて、今度はオレの方から裏切る。


――そんな残酷なストーリを夢想する。




広大な敷地の大聖堂内の教会に着いた。


皆で手を合わせ勝利を祈願する。




「ご先祖様、お見守りください」  


22年前のオレは、上半身裸で手を高く掲げ、悪ふざけで祈ったものだ。



――だから、周りからうつけ者と呼ばれた。



だが今は、内面が50歳過ぎている。そんな気にはならない。


真剣に久しぶりのご先祖様と挨拶を交わす。


――もちろん、心の中でだ。




『ご先祖様、オデル家の血を絶やさぬため生き返りました』


『これから、アデルに復讐をします』


『そして、天下を取り返します』


ご先祖様に誓った。




「カルーセル、バラッドの用意だ」


オレはご先祖様にバラッドを捧げる。


バラッドは、炎の魔法種をご先祖様から賜る儀式。



「This soul, once destroyed, has somehow come back to life.


(一度滅びしこの魂、なぜかまた息を得た)」


扇子を広げ、手を掲げ、ステップを踏む。




「Is this the play of the gods, or a continuation of hell?


(神の戯れか、地獄の延長か)」


オレの華麗な舞に、家臣のナイトどもはポカンと見つめている。



「It doesn’t matter. I have known death—there is nothing left for me to fear.


(だが構わぬ 死を知る我に、恐れるものはもはやない)」



オレの魔力が漲る。



何人かのナイトが首を傾げている。



――そう、新曲になったのだよ!


変化に気付いた者も、おるようだ。



歌詞の真意まで分かるかな?



「いざ、出陣!」


午前10時、カスクバレーに向かった。



まずはイマルド軍に包囲されていた、高台にある味方の砦に着いた。


高台にありイマルド軍からは死角だ。



カルーセルがこっそりと眼下のイマルド軍の様子を偵察する。


――踊っているものが居たり、太鼓を叩いているものが居たり。



「……? ウインザー殿、一緒に見てもらえるか」


ウインザー卿もするりするりと、忍び寄り眼下を見やる。



――歌っているもの、寝転がっているもの……。


「……どうやら、敵は宴の最中のようだ」



「者ども、敵は我々が籠城していると思い完全に油断している。」


「チャンスだ!」オレは士気を鼓舞した。



――ナイト達は、死にに行くようなものだと思っていた。


しかし、……勝機があるんじゃない?




「ハプスブルグ、アサシンを使ってイマルドの居場所を掴め」  


「大軍もボスの首を討てば、烏合の衆よ」  


オレには確信がある。



――2名のアサシンが敵陣に潜り込んだ……。


ん? そのうち一名の顔に見覚えがある。



 ……カスガ―卿?


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