アデルの苦戦
トヨルドがシナ公攻略を任されたのに対して、
アデルは――メットからシナ国に至る間の、グリーンライン一帯の攻略を任された。
首尾順調であったはずが、……。
「ウインズが裏切りました」
アデルの側近、カスガーが叫んだ。
「すぐ退却だ」
アデルは歯を食いしばり、拳を握りしめた。
慎重に一つ一つコマを進めたのに……裏切り!
――1年間築き上げてきたものが一瞬で吹っ飛んだ。
敵城を攻めているところを、――
味方だと思っていたものに、背後から襲われる。
「早く逃げないと、持ちません」
カスガーの叫びに促されるまま、メットに逃げ帰った。
アデルとカスガーは、オデル伯爵の前で跪くひざまず。
「私の不徳の致すところ、申し訳ございません」
アデルはオレに謝罪した。
「裏切りにあったとの事?」
オレは訝し気に尋ねた。
「はい、ウインズが裏切りました」
アデルはあっさりと答えた。
ウインズが裏切るなど分かり切っていること
――なのはオレだけか?
アデルも見切っている感じがしたのだが
――深読みし過ぎだったか?
「ウインズは城主レッディー兄弟と縁戚。甘かったんじゃないの?」
オレは、現実論で責めた。
「おっしゃる通りです。申し訳ございません」
跪くアデルの顔は眉間に深い皴が寄る。
アデルは、――自分の甘さを呪ったのか?
「早く、グリーンラインを平定しないと、トヨルドのシナ攻めも遅れる」
「どう、責任を取ってくれる?」
アデルを詰めた。
「お前甘いんだよ。人質取るとか、金ばら撒くとか、干すとか、せんと」
「正攻法過ぎるんだよ」
まだいけるか?
「今度失敗したらトヨルドに、お前の領土をくれてやる」
アデルの顔から血の気が引く。
そして、耳元で囁く。
「ハゲもバラす」
――アデルが硬直した。
「プッ」
オレは可笑しくなって後ろを向いた。
――この失礼さは愉快だ。
アデルの顔面は真っ赤に茹で上がっている。
「早く行け! もう一回やってこい」
笑いがこらえきれないので、アデルを追い立ててやった。
奴がいなくなってから――オレは大声を上げて笑った。
それからしばらくして、……アデルは重い病にかかった。
――マラリア
高熱に浮かされる日が続いた。
朦朧とした意識の中で……何度も同じ夢を見る。
炎。
大聖堂。
剣を交えるオデル。
何度斬っても終わらない。
1か月余り寝込んだ。
一時は重篤化したが、回復に向かうのが分かると仕事を始めた。
――オデルの圧が凄まじいからだ。
いつまでも休んではいられない。
「カスガー、次は失敗は許されない」
アデルはやせ細った身体で、カスガーを睨み据える。
「まず、敵城を包囲せよ」
「砦を破壊し、補給路を断つ。虫一匹通すな」
復活したアデルの執念は凄まじかった。
――アデルは奮闘する。
そこに今度は、……突然妻が他界した。
浪人時代から共に手をつないできた妻。
心の支え。
――アデルが妻の遺品を見る。
妻の手紙。
「あなたは優しすぎます」
「でも、その優しさが……好きでした」
アデルは必死に自分の気持ちをより戻した。
――こうなる運命だったのだ。仕方ない。
その後、2年。
苦労して――敵を干した。
レッディー兄弟は、骨と皮だけになっていた。
「降伏したら命だけは助けてやる」
こう、条件を出した。
「アデル様、言葉だけでは信じられんと申しております。」
仲介役のカスガーが伝令してきた。
「人質か? 母が望みか?」
アデルは表情のない顔で答えた。
「そうです。よく相手の要望が……分かりましたね」
「アデル様の母君を人質にと申しております」
カスガーは少し驚いたが、流した。
数日後、――
アデルは、レッディー兄弟をオデル公爵に引き渡した。
「オデル様、大変お待たせしました」
アデルは跪く。
「時間がかかりましたが、何とかこのような運びとなりました」
「うむ。オレは成果主義だ。結果だ。今回はよくやった」
オデルが微笑んだ。
――アデルは何年分もの肩の荷が下りてきた。
呼吸さえ、久しぶりにしている気がする。
「その者たちを斬首しておけ」
オレの言葉に――アデルは再び凍り付く。
「それはできません。私の母を人質に出しております。」
アデルはキッパリと言った。
オレはしばし……アデルを見詰める。
こいつ、分かっているのか? 分かっていないのか?
「命令だ。打ち首にしろ」
アデルはうなだれた。
しかし、――肩がヒクヒク揺れている。
こいつは……
泣いているはずなのに……そう見えない。
口元だけが――緩んでいる。
――笑っているのか?
笑っているとしたら……こうなることを読んでいる。
母は身代わりを出しているだろう。
オレの……心の中に考えたくない疑念が浮かんだ。
ずっとそんな感じがしていた。
でも、認めたくなかった。
……やめろ。
それ以上考えるな。
あいつまで回帰していたら、 オレは何のために――。
しかし、もう自分の心を隠し通せない。
結論はこれだ。
――アデルも転生回帰している。
そして、再びオレの命を狙っている。
再びインスティクト大聖堂で、――
オレと相まみえるまでの人生を……トレースしている。
改めて思考が認識されると、オレは身震いし意識が遠のいた。




