バトル オブ ローランド
――トスクブルグ伯爵はまどろんでいるところを起こされた。
「ローランド城から使者が参りました」
ただ事ではないと悟り、体を起こす。
地獄を通り抜けて、
――『ここにたどり着いた』という顔の男が立っていた。
「援軍を願います。ローランド城が、タケル軍の手に……」
気力で立っていた大柄の男は倒れ込んだ。
「敵は15000、城内の味方は500」
――それは話にならない。
「大丈夫か? 水を飲ませてやれ」
トスクブルグは男を介抱した。
「明日、すぐに10000で進軍する」
目を開いた男に答えてやった。
「タケルは侮れん。オデルに援軍も頼む」
遅かれ早かれその予定で、オデル公爵と談合していた。
「安心しただろう。風呂と寝床を用意する。ゆっくりするが良い」
大男を労ってやった。
「お心遣いありがたく受け止めます」
「しかし、今も仲間は命がけで戦っている」
「――すぐに伝えねば」
と言うとお辞儀をして、足早に立ち去った。
――大男の名はバーディー。
ローランド城に駆け戻る。
……妻と娘を置いてきているから。
60㎞走り来て、また60km走り戻る。
よい返事のお陰で、疲れも吹き飛んでいる。
――しかし、運命の皮肉。
城を目の前にしたところで、タケル軍に捕まった。
「タケル公爵様、敵の伝令兵を捕まえました」
タケル公爵は体調不良ということだ。
近衛兵は、衝立ついたて越しで話した。
「『援軍は来ない、降伏しろ』と叫ばせろ」
タケル公爵はしゃがれ声で話した。……いつもと違う?
「ローランド城の抵抗勢力に、絶望を与えるのだ!」
大声を出すと、張りのある若々しい声になった。
――もしやこの声は……息子のタケルサン?
近衛兵は、衝立の奥が見通せないかと凝視した。
とりもなおさず、この男をローランド城の前で磔にする。
「さあ、叫べ」
というと近衛兵はスピアで突き立て、脅した。
……大男は目を閉じ唇を噛みしめる。
大きく呼吸をする。額から大粒の汗が滴り、体が震えている。
「援軍は来るぞ!」
「あと少し耐えろ!」
「かっ」と目を見開いたかと思うと思い切り叫んだ。
「こ奴、気狂いか?」
というと、近衛兵はスピアで腹を刺した。
まさか、自分の命を捨てて?……手が震える。
大男には、絶叫して手を振る――見方が見える。
「バー―デーーーーィーー」
と叫んでいる。
――隣で泣き叫ぶ、女と子供。
「近々、数万の軍勢が来るぞ!」
なおも叫び続ける。
近衛兵はムキになって、何度も何度も腹を突きさした。
――敵なのに……刺しながら……涙がこぼれた。
一部始終を眺めていたタケルサンは唇を噛む。
「急がなければ……」
◇
「トスクブルグ伯爵より、援軍要請が来ました」
情報省のトヨルドが伝えてきた。
「タケル軍が、トスクブルグ伯爵のローランド城を包囲しているとのこと」
少し焦りのある真顔だ。
「チャンス到来だ。5万の大軍で援軍する」
今後、盟友トスクブルグも含め、皆が一堂に会す戦いはないだろう。
そもそも前世ではアデルはこの戦いに参加していない。
――そこを敢えて先陣部隊に据える。
身勝手な行動をした罰だ。
しかも、魔術を封印させる。
だが、魔術の封印は、アデルに対する罰だけの意味ではない。
時代は変わろうとしている。
一人の勇猛な武将の魔術とその他兵隊の白兵戦から、魔石銃を組織化した中距離戦へ。
一騎当千の騎馬隊が、名も無き兵の連射に沈む。
時代が変わる。
英雄一人が戦を決める時代ではない
――それを証明するのだ。
「奴ら焦るぞ。5万の大軍に」
トヨルドに対し、意味深に笑ってやった。
「しかし、敵はタケル軍。侮ってはならん」
煽っておいて、引き締める。
「タケル軍は短期決戦でローランド城を落としたかった模様です」
トヨルドも不敵な笑顔で返す。
「援軍に焦って、奴らはローランドから離れる。そこを狙う」
防護柵に向かってきたところを、魔石銃3段部隊が狙撃する。
◇
アデルは3000名の魔石銃部隊を指揮する。
――蹄の喧騒、馬の嘶き、叫び声、タケル軍が近づいてくる。
「撃ち方よーい」
アデルは声を張り上げる。
――前方より砂埃を纏った騎馬隊が突進してきた。
「イグナイト!」
最前列が魔石を装填する。
「フォーカス!」
照準を合わせる。
2列目が魔石を装填する。
「スルー!」
銃を放った。青い光が敵を討つ。
2列目は照準を合わせる。
3列目は魔石を装填する。
――この繰り返し!
オデル公爵の考案した、3段魔石銃部隊。
次々に放たれる銃撃に、タケル軍の騎馬隊は立ち往生する。
「これは見事だ! 隙がない」
指揮するアデル自身が見とれている。
勇猛果敢なタケル騎馬隊が、総崩れしている。
タケル軍指揮官――息子タケルサンは考えた。
……見たことのない近代戦法だ。
このままでは、破滅する。
――奥の手だ。
詠唱を始めた。
「大気のマナよ、我が呼びかけに応じ、万物の姿を塗り替えよ!」
「メタモルフォーゼ・ライズ!」
すると、
……リズムが変わった。
「いやいや、待たれよ。われこそはタケル公爵成り」
華美な甲冑に身を包んだ、体格の良い老人がいた。
――騎馬隊に囲まれて前進してくる。
タケル公爵は死ぬ前――
「ワシの名を終わらせるな」と言った。
だから息子は、”父を生かし続けている”。
「オデル公爵は何処いずこよ? タイマン対決を申し込む」
剣を天に掲げ奇声を上げた。
――オレは性格上、黙っていられない。
「我こそは神の使い、ガナブノ・オデル=ウオマンテ・クロイダ!」
挑発に乗ってやる。
影武者と分かっていても。
妖刀ウオマンテ・クロイダを天に掲げた。
「我が深淵なる魔力よ、今ここに解き放たれよ!」
「ミラージュ・スプリット!」
タケルサン騎馬隊の面々が次々と、剣を天に掲げる。
――なんと! 7名の騎馬隊がみなタケル公爵ではないか!
前世にない展開に、オレの鼓動が波打つ。
「オデル様、挑発に乗ってはいけませぬ。みな影武者です」
アデルが叫んだ。
オデルの周りを、8名のタケル公爵が取り囲む。
「卑怯な! タイマンと言ったではないか!」
アデルは叫んだ。
「タイマンだろう。タケル対オデルだ!」
タケルの声がハウリングする。
アデルは……考えた。
――ここは、名誉挽回のチャンス。
オデル様に全力でアピールせねば。
「イグナイト!」
魔石銃部隊を起動した。
「フォーカス、スルー!」
8名のタケル公爵の影武者たちに魔石銃の青い光を浴びせた。
影武者たちはなす術もなく――果てる。
タケルサンは、崩れ落ちた影武者たちを見た。
父の名を守るために、父ではない男たちが死んでいく。
――それでも、 “タケル公爵”は生きていなければならない。
「余計な事すんな! たわけ!」
オレは怒鳴った。
「ウオマンテ・クロイダに血を吸わせてやろうとしたのに」
邪魔されたオレは怒りをぶつけた。
「そうだったのですか……。守るのが仕事ゆえ……」
アデルは謝罪した。
「黙れ、ハゲ!」
「いつもいつも、おまえはオレの邪魔をする」
「大変申し訳ございません。」
アデルは行動を詫びた。
……しかし、ハゲはないんじゃない? ――モラハラだ。
「おまえは余分な事ばかりする」
「最近、おかしいんじゃないか?」
アデルを問い詰めた。
「トヨルドの方が良い。あいつは空気を読める」
――アデルは目をつぶり唇を噛み締めた。
トヨルドと比べられるのが、耐えがたいのであろう。
――アデルの武者震いは止まらない。
――魔石銃の火薬が、指の間から零れ落ちた。
その時アデルは――
自分が、もう必要とされていない気がした。




