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シルビア

「妹君と娘たちを連れてまいりました」


 救出係を担ったトヨルドが、4人を連れてきた。


 幼子二人と、乳飲み子を一人抱いている。


 皆、女の子ということだ。




 「無事でよかった! シルビア」


 オレは妹の名前を呼んで微笑んだ。




しかし、――


 「……殺して欲しかった」


 シルビアの瞳の奥には、濁った底無しの沼のような怨嗟が揺らめいていた。




 「――娘たちだけ生かして……」


 一点を見詰める。


 ――オデルの顔は、見ようともしない。




 「お前が娘たちの面倒を見なければならないじゃないか……」


 ――シルビアの顔がますます引きつった。




 「仕方ないじゃないか、先に裏切ったのは……」


 『アサイルだからな』と言おうと思って、呑み込んだ。




 凍り付いた顔を、見ていられない。


 ――噴火させたら終わりだ。




 ……ダメだ。あきらめた。




 「おー、大きくなりましたねー」


 オレは子供たちをあやして誤魔化す。




 横目でシルビアの顔を窺う。


 ――氷像のように固まった姿が視界に入る。




 「メットの修道院に屋敷を用意したからな。不自由はさせない」


 と言って立ち上がった。


 ――シルビアの顔を、これ以上見ていられなかった。




 「トヨルド、後のことは頼んだぞ……」


 トヨルドは口をアワアワとさせ助けを求めるが、


 ――オレはその場を後にする。




 扉を閉めて、立ち去ったふりをする。


 扉に耳を押し当て様子を窺う。


 ――恐ろしや恐ろしや。




 「おさるのトヨルドでござるぞー」


 「うっほほほー」


 「キャッ、キャッ」と笑う娘たちの声が聞こえる。




 ――あいつ、ほんとに人たらしであるな。


 トヨルドの対応力に舌を巻く。




 特に長女との打ち解けぶりは目を見張る。


 シルビアの気持ちを掴むには、最善策であるのだが……。


 ――それが意図せぬ未来を生むこともある。




 ◇ 




 「タケル公爵より書状が届きました」


 アデルが持ってきた。


 なにを今更。この間の書状よりだいぶ経つ。




 「何と申しておるか?」


 アデルに読み上げるよう指示した。




 「骸を盃にする気狂いへ




 義兄の骸を盃に、さぞ良い夢を見たろうよ


 今度はオレが、お前の骸で乾杯をする




            神の下僕タケル」




 「嫌味ぺえーな」


 オレは眉間にしわを寄せる。




 「骸酒をしたことは、3人と給仕係以外知らないはずだが」


 タケルの元まで噂が広まっているとは。


 それに――『神の下僕』などのへりくだり方は、タケルらしくない。


 タケルの字でもない。




 そして――この時期のタケルは、前世ではもう死んでいた。


 ただ、死んだことを隠すために『影武者』が居たのだ。




 では、影武者がこの手紙を書いたのか?


 ――何か違う気がする。


 前世では返事など来なかった。




 これを創作する意図のある者は……?。




 ――アデルと目が合った。


 アデルはぶつかった視線を、――宙に逸らす。




 怪しい。絶対に怪しい。


 前世になかった骸酒イベントの仕返しか?




 しかし、――あいつが書いたという証拠を掴むのは困難だ。


 ――癪だから出し抜いてやるか?




 「……出陣の準備をしろ」


 アデルの目を見据えて指示を出す。




 「えっ、きゅ、急ですな。タケルにですか?」


 アデルは目を見張って慌てた。


 ――そう、オレの行動は常にあいつの裏の裏をかかねばならない。




 「そうだ。失礼な手紙への報復だ」


 手っ取り早い理由をつける。


 ――建前だ。


 アデルを出し抜きたいだけだ。




 「タケル軍には、この間も敗戦したばかり。難しい戦いになります」


 アデルは真顔でオレに意見する。




 ――よく言うぜ。


 お前もタケルがすでに死んでいることを知っているハズ。


 オレを攪乱させる手紙まで創作したくせに。




 「黙れ、すぐに出陣だ!」


 ウソつきの言うことなど聞く気はない。


 タケルが死んで、敵は今、混乱しているのだ。




 精神的支柱を失った今が、絶好の好機なのだ。


 ――アデルだって知っているはずだ。


 奴の演技が腹立たしい。




 「他のロードにも指示を出せ」


 アデルに皆を招集させた。




 「オデル様。タケルは危険ですぞ」


 ウインザーが進言する。


 ――らしい月並みな意見だ。




 「情報班のトヨルド、いかがであった?」


 トヨルドには常にタケルの周りを漁らせている。




 「はい、アサシンが最新の情報を持って参りました」


 張りのある声。煌めく瞳。何か掴んだな。




 「タケルはすでに、……死んでいます」


 ――ロード達がざわついた。




 「影武者を立て、取り繕っているようです」


 ――再びロード達がざわめいた。




 「ほらな。――すぐに出陣だ!」


 ――ロード達から雄叫びが上がった。




 「今回も先陣はアデルに任せるが……」


 オレはニヤリと笑みを作る。




 「最近、良からぬ噂を耳にした」


 間を置き、タメを作り、もったい付ける。




 「セントヘレナに居た学者がこの間会いに来た」


 アデルの表情を窺う。




 「アデル様のお陰で命を永らえたと」


 アデルの顔から血の気が失せる。




 「必要ないので、切り捨ててやった」


 アデルの瞳が、初めてオレを睨んだ。




 「オデル様のお役に立つものだけ生かしました」


 アデルは青白い顔の真剣なまなざしで、オレを見た。




 「女子供もか?」


 ――アデルの表情は凍り付いた。




 「初動が遅れたので、逃したものもあるかもしれません」


 うなだれたが、精一杯、声を張って主張した。




 「言い訳は聞きたくない」


 「――罰を与えるだけだ」


 アデルを睨みつけた。




 「次のタケルとの戦いでは、魔法を禁じる」


 「魔石銃で戦え」


 アデルは乾いた口を湿らす。


 唾を呑み込む。




 「今度のタケル戦は魔石銃三段部隊で攻め込む」


 これは、新たな挑戦だ。




 「魔法だけでは、国は統一できぬ」


 血で血を洗う白兵戦からの脱却。




 「英雄の時代を終わらせる」


 魔術なしでどこまでやれるのか? 


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