殲滅
「また、妹君より贈り物が届いて居りまする」
トヨルドが謁見しに来た。
アデルも同席する。
小脇に抱えた包みを渡された。
包みを開くと、……また小豆入りの麻袋だ。
今回の穴は2か所だが、
――血糊のようなものが付いている。
「また、何かのメッセージですか?」
トヨルドが訝し気に問うてきた。
「敵は減ったが、穴は大きい……とか?」
「それより、血糊が不気味だ」
オレは見たままを気持ちに吐いた。
「すぐに、助けに来て欲しいのではないですか?」
トヨルドはいつもの貼り付けた笑顔で答えた。
「いや、……罠かもしれません」
アデルが真っすぐにオレの顔を見た。
……ボコボコに波打った親指の爪をさする。
「確かに……妹はこんな不気味なことはしない」
誰かが妹のフリをして、オレを誘き出しているのか?
「アサイルはかなり弱体化しているようです」
情報通のトヨルドは顎を上げ、笑みを浮かべ話した。
「誘いに乗ってやってもよいかもな」
オレは自然と口角が上がる。
「とどめを刺しますか」
慎重なアデルも賛同してきた。
◇
オデル軍はアサイルの居城の砦を次々に落した。
――もう、袋の鼠だ。
「アサルドの援軍は来ぬか?」
奴らは”つがい”だからな。
「来ておりますが……向かってきませぬ」
情報係のトヨルドが答えた。
「援軍しても、勝ち目がないと悟ったか?」
オレは訝しむ。
「今のうちに、――アサイルを殲滅しましょう」
アデルが正論を吐いた。
「アサイルにはオデル様の妹君が居る」
「……慎重に事を運ばねばなりませぬ」
トヨルドは実まことしやかに宣った。
「トヨルド、お主分かっておるな」
トヨルドの気配りはいつも心地よい。
「……」
アデルは何か言いたげにして止めた。
強く唇を噛んでいる。
しかし、……急に晴れやかな笑顔が広がる。
「では、翻してアサルドどもを追撃しましょう!」
アデルの態度はコロッと変わった。
――ボコボコの爪だけは忙せわししなくさする。
アデルは、その場を去りカスガーの元を訪れた。
「アサルドを先に打つことになった。参るぞ」
「それは、また効率の悪いことを。アサイルを包囲しているのに」
カスガーが言ったのこそ、普通の意見だ。
「アサルドも虫の息。どっちが先でも、同じだ。」
「考えるべきところではない。」
アデルは自分自身に言い聞かせるように言った。
◇
「アサルドが自害しました」
伝令兵が伝えてきた。
「……早かったな。どうせ身内に裏切られたんだろ」
――口が滑った。
まぁ、いいや。相手は伝令兵だ。
「お、お察しの通りです。さすがオデル様」
「最後は身内に寝返られ、自害しました」
伝令兵は恐縮しつつ、オデルを崇める。
「そうだ!――オレにはやらなければならないことがある」
立ち上がって、膝を叩いた。
「必ず、アサルドの首を持って帰れ」
伝令兵はひれ伏して額突ぬかづいた。
――数日後
伝令兵はアサルドの首を持ち帰り、トヨルドに渡した。
「ご苦労であった。今回は、首を粗末に扱うなとのこと」
独りごとのように伝令兵の前で語った。
「……ところでお前には、次のミッションがある」
いつものクシャクシャの笑顔に変わる。
「アサイルのところに行って、これを渡して参れ」
トヨルドは伝令兵に包みを渡した。
――伝令兵は何の包みかなど気にしなかった。
ただ、敵陣へ乗り込むというミッションに悪寒が走った。
◇
「トヨルド様より預かってまいりました」
伝令兵は包みをアサイル伯爵に渡した。
……アサイルは、お側付きのものに包みを開けさせる。
縛られた両端を解ほどく。
出てきたのは、きれいな麻袋であった。
きっちり閉じられている。
「開けてみよ」
お付きのものに刃物で開けさせた。
「やはり……」
ぎっしり詰まっていた小豆が、床一面に溢れ出した。
――何やら硬質な物体が手に触れる。
「何だこれは!」
アサイルが取り出したのは短剣であった。
――短剣は磨きこまれており眩く反射する。
「……これは、アサルドが愛用していた懐刀」
二人で酒を酌み交わす夜に、いつも見せびらかす自慢の刀。
アサイルは麻袋と刀を交互に見詰めた。
トヨルドは何を察しろというのか?
何年か前、妻が兄オデルに送った小豆袋を検閲した。
――4隅が破れていた。
あの時、深くは考えなかったが、あれは何かのメッセージであったのか?
何だろう?
4人目が生まれたということを知らせたかったのか?
そんなこと秘する必要はない。
あっ!
4方敵に囲まれているという事か?
確かにあの時オデルにとってはそういう状況であった。
そうすると……。
「アサルド……貴様まで先に行くのか」
アサイルの指が震える。
「貴様だけは最後まで笑っておれと言っただろうが……」
しばらく瞑想中のように微動だにしなかったアサイルだったが、
……意を決して立ち上がった。
「父上と共に旅立とう……」
◇
「おっ、待っておったぞ。まあ座れや」
オレは上機嫌でアデルとトヨルドを迎えた。
「今日は祝い酒だ」
三人だけで酒を酌み交わすことなど、ありそうでなかった。
「ご招待ありがとうございます」
アデルとトヨルドはどちらからともなく礼を述べた。
特別扱いをしてくれているという虚栄心が二人の心をくすぐった。
――二人はオデル様にとって特別な家臣なのだ。
おもむろに襖が開くと、側付きのものが大きな盃を三つ持ってきた。
漆黒に塗られた器に、金箔が施され美しい。
「うーむ。どれが良いかのー」
オデルは上機嫌で3つの盃を見比べた。
「どれが、誰だか分からないではないか?」
「印を付けておけと言ったのに……」
不機嫌の虫が顔を出し、アデルとトヨルドの頬の筋肉が痙攣する。
「……あった。あった。もっと分かりやすく書けや」
とオレが笑顔で言うと、二人の顔も一緒に弛緩する。
「ほら、お前らもよく見ろ」
というと、3人で立ち上がり、大きな盃を見詰めた。
「オレはやっぱり、義弟アサイルだな。この真ん中のだ」
――アデルとトヨルドの顔から血の気が引き、そのまま固まった。
まさか……。
「やっぱり、アデルは昔お世話になったアサルドが良いだろう」
オデルは最近目にしたことない満面の笑みで、アデルを見詰めた。
アデルはオデルとトヨルドの顔を交互に見る。
……笑顔のオデルと、凍り付いた表情のトヨルド。
「じゃ、トヨルドはアサルドの父上の骸だな」
――トヨルドの背筋を、冷たい汗が流れた。
「二人の武勇を讃えるぞ! 乾杯!」
オレは二人に満面の笑みを見せつけてやった。
――久々にトヨルドの引きつった笑みなどは見ものだ。
――演技力のないアデルなどは固まってしまった。ゆかい。ゆかい。
オレは前世にないイベントで、二人を出し抜いてやった。
――真面目なアデルは盃を持つ手を震わせた。
それでも、……一滴残さず飲み干した。




