オデル包囲網
「ルイの様子は?」
アシリアとのパイプを持つアデルに問うた。
「かなり厄介ですね」
アデルは顔を曇らせる。
「おのれ。皇帝にしてやったのに」
オレは臍を噛む。
「傀儡であることに……気付いてしまったようで……」
アデルは慎重に言葉を探す。
あなたがアシリアを皇帝にしたが、操り人形です。
それに反発したアシリアが、
アサルド・アサイル、ドワーフ、教皇・エルフなどを援助している。
「恩知らずめ!」
オレは唸った。
唸ってみたところで致し方ない……。
アデルが言いづらそうにしていることは、聞かなくても見当がつく。
「反対勢力はすべてアシリア様が手を引いているかと……」
アデルは小声だが、はっきりと答えた。
「アシリアを懲らしめるには……」
オレはアデルの瞳の動きに注視する。
「ゴクッ」
アデルは大きく唾を飲み込む。
待っているのか? 分かっているのか?
「セント・ヘレナ修道院を焼き討つしかない」
言ってやった。
アデルは表情に変化は作らない。
しかし、……顔から汗が噴き出している。
「ここの地勢に詳しいお前を総大将に抜擢する」
アデルは恭しく返事をして頭を垂れる。
……?
頭を下げたアデルは笑っているように感じる。
気のせいなのか?
オレが勝手に疑心暗鬼なのか?
いや、違う。
こいつは10年後オレに刃を向けるのだ。
――何なら今殺してやってもよいが。
今アデルを失うことは、右腕を一本失う事。
「うまくいった暁には、その土地一帯を与える」
修道院と、そこに住むエルフを焼き払う。
狂気の沙汰かと言いたいか?
いや違う。
ここまでともに戦ってきたアデルなら分かるはずだ。
オレの目的はこのイアポニア帝国の統一。
力で治めて新しい秩序を作る。
そのためには、
「この国を腐らせる旧い血を、全部焼く」
思いがほとばしる。
「お任せください。オデル様」
アデルは決意を述べた。
「旧勢力を排除して、新しい世の中を作れるのはオデル様だけです」
力強く野太い声が響いた。
「だから私はあなた様に付いていく決意をしました」
分かっているじゃないか。
ではなぜ裏切った? 10年後。
オレを殺して、お前が天下を獲りたかったのか?
――今のところ裏切る兆候はない。
時折見えてしまう……不敵な笑みだけが引っ掛かる。
何か知っているのか?
「ところで、オデル様の妹様から贈り物が届いておりまする」
アサルドに嫁いだ我が妹よ。
ひどい扱いは受けていないのか。
甥っ子は無事か?
非常に気になる。
気になる話題で、アデルはオレの追求を避けようとしたか?
「食糧の贈り物のようです」
箱を振るとガサガサ音がする
蓋を開けると、小豆が散乱した。
よく見ると四隅が破れているではないか!
「贈り物がこのようになっているとは、無礼だな」
「アサルド方が検閲時に嫌がらせをしたか?」
腹が立ってきた。
「……」
アデルは黙ったまま、小豆袋を手に取り見詰めた。
「丁寧に四隅を切られている……」
「これは妹君がオデル様に伝えたかった事……」
オレも察しが付いて来た。
「四方を囲まれているから注意せよと」
アサルド・アサイル、ドワーフ、教皇・エルフ、アシリア皇帝……。
脅威が足音を立てて近づいている……
◇
「カルーセルの居城が攻められている!」
もう、アサルド・アサイル連合が攻めてきた。
メット脇のカルーセルの居城が標的だ。
「すぐに、援軍だ!」
土地勘のあるアデル伯爵を中心に編成した。
「敵はかなりの数。急ぎましょう」
アデルも懸命だった。カルーセルは少ない手勢で城に居た。
不意打ちだ。
城に着くと、既に開城され敵が突入している。
味方の城だ。簡単に火は放てない。
「白兵戦だ、敵を囲め」
アサルド・アサイルを囲んでしまえ。
「敵を袋の鼠にしろ、カルーセルたちを逃がして火を放つか?」
前世ではどうしたか? この辺になると記憶が曖昧だ。
「カルーセルの首、頂いたり!」
敵将が吠えている。
なに!……ば、ばかな。
「天守閣でカルーセルの首を晒す者あり!」
城からアデルが泣き面で降りてきた。
「……違う」
「あれは、カルーセルではない」
しかし、風に揺れた首飾りを見て、膝が止まった。
……オレが与えた褒章の首飾りだった。
「カルーセル殿が……」
そこで初めて、アデルの声が震えた。
「カ、カ、カルーセル殿が」
トヨルドもクシャクシャの泣き顔を晒した。
「また守らせたのか……」
オレはうつむく。
「遅かったとは……、無念だ」
なぜ、前世知識を思い出さない?
自分に腹立たしくなる。
しかし、……それもあり可愛がったのが息子のラメールだ。
インスティクト大聖堂では最後を共にした。
若くからオレの身の回りの世話をさせた。
――オヤジの無念に報いるため。
「カルーセル殿が……最後まで門を閉じさせませんでした」
「オデル様が戻るまで、時間を稼ぐと……」
アデルからの報告だ。
「オデル様だけは死なせるな」
それが最後の言葉だったと。
トヨルドも続けた。
「……、アサイルども、許さん!」
オレはイグニスの詠唱を始めた。
「この地に備えしモノノケよ!……」
「お止めください!」
アデルがオレの詠唱の邪魔をした。
何しやがる、オレの邪魔をするか。
軍法会議に計るべき案件だ。
「オデル様、今はいけません!」
トヨルドも泣き面のまま、止めに来た。
前線からハプスブルグが引き返してきた。
「アサイル・アサルドは既に城に居りません」
「一足先に、退却しています!」
オレは、イグニスを放つのを辞めた。
あいつらが居ないなら意味はない。
味方の城だ。無駄に燃やしてはならん。
「クソッ、また逃したか!」
カルーセルがやられた上に、また逃げられた。
そうだ、知っている。
オレは……知っている。
アサイルとアサルドが逃げ込む先は、セント・ヘレナ修道院だ。
「追撃する、セント・ヘレナ修道院に向かえ!」
オレの急な指示に、トヨルド・ハプスブルグらはキョトンとしている。
アデルだけは、いつもの澄まし顔で方向転換をした。
「カルーセルの弔いだ!急げ」
その掛け声に、戸惑っていたロード達にも鞭が入った。
アデルの手勢を先頭に、皆セント・ヘレナ修道院へ向かった。
「許さん、アサイル・アサルド」
「修道院もろともイグニスの炎に包んでやる」
カルーセルの仇を取る。
「カルーセルを殺して、神に守られているつもりか」
ハプスブルグが小声でトヨルドに問うた。
「修道院を焼き討ちにするなんて……」
「呪われるんじゃないか」
「オデル様が見ているのは修道院ではない」
「修道院を盾にする旧勢力だ」
トヨルドはもうハプスブルグをも諭す。
「祟りは……避けられまい」
「もう、戻れぬな」
アデルは独り言のように呟いた。




