バトル オブ システンリバー
オレはトヨルドを呼んだ。
「今回失態の原因は、ドワーフに恨みを買ったお前にある」
オレは有能な部下にも遠慮はしない。
「浮遊城の建設でドワーフたちを酷使したのではないか?」
いつも自信満々なトヨルドも俯いた。
「功を焦っておりました……かもしれません」
躰の小さなトヨルドがますます小さくなる。
「……生きていたことは良かったが、借りは返せ!」
トヨルドを怒鳴りつけた。
奴は調子に乗っていた。
お灸を据えてやった。
――あの命がけの撤退から1カ月半が経とうとしていた。
オレはロード達を集めて会議した。
「……負けたことはいい」
「だが、逃げたことは許せん」
全ロード達の前で演説をぶつ。
「いかに早く体制を立て直して、リベンジするかだ」
愛用の鉄扇子で、机を叩く。
「バッシッ!」
という激しい音が、ロード達を震え上がらせる。
「10日後に出陣する」
静かなざわめきが起こる。
ロード達が顔を見合わせる。
「アサルド・アサイルは油断している」
「あれだけの敗北、立て直すには半年かかると思っているはずだ」
オレはロード達の顔を見渡す。
「そこが勝機だ!」
オレはロード達を睥睨した。
――反論は起きない。
「さすがはオデル様。その判断秀逸です」
トヨルドは、震えた声で追従した。
「私も速攻こそ最大の勝ち筋と考えます」
アデルも続いた。
ハプスブルク、ウインザー、カルーセルは黙ってうんうんと頷く。
新参者のバイナー、アンドロー、ハウゼンは不満顔だ。
しかし、反論できる空気はない。
「やられたら、速攻で倍返し」
「これがオデル軍なのだ」
トヨルドはバイナーの肩を震える手で叩いた。
「トヨルドは明日、アサイルの砦、サイドロイ城を包囲しろ」
「それで、アサイルとアサルドを南に誘き出す呼び水となれ!」
施策を伝え、気合を注入する。
……つまり、囮になれということだ。
「サイドロイ城周辺なら、ドワーフ族は居ない」
「――失態を武勇で返せ!」
「……承知しました」
トヨルドは揺れながら、頭を深々と下げる。
しばらくして……顔をクシャクシャにして、笑顔を無理くり貼り付けた。
……どこまでもタフな奴だ。
少し寒気がした。
しかし、借りは返させてやる方が、アイツの為だ。
「次で、義兄アサイルを……滅ぼす!」
オレはロード達を鼓舞した。
「今回もトスクブルク公に援軍を頼め!」
これが重要だ。トスクブルグは今や最重要同盟国だ。
「承知しました」
アデルは素早く返答をした。
……その言葉を予想していたかのように。
深々と垂れた頭の下は、薄く笑っていた。
◇
きっちり10日後、オデル軍は北に進軍した。
鞭を打たれたトヨルド男爵は、瞬く間にサイドロイ城を包囲した。
案の定、アサイル・アサルド軍は進軍してくる。
――命がけの退却から2ヶ月余りの良く晴れた日。
川面に反射する日差しが眩しく煌めく。
――システンリバーを挟んで両軍が対峙した。
「死に損なったようだな、ネズミども。」
アサイル伯爵が奇声を上げた。
「ようこそ三途の川へ、裏切りの兄弟よ!」
オデル公爵が言い返す。
「またまた、尻尾を巻いて逃げだすなよ!」
アサイルは得意顔で嫌味を炸裂させる。
「喜べ!倍返しにしてやる」
オレは早くも、頭に血が上って魔法の詠唱を始めた。
……あ奴らに言いたい放題させるのは我慢ならん。
「灰より生まれ、すべてを焼き尽くすもの、我が意に従え――イグニス‼」
アサルド陣営に炎の雨を降らせてやった。
――戦いの始まりだ!
システンリバーを挟んで、
我らオデル正規軍対アサイル軍、
トスクブルグ・マイロー3人衆連合対アサルド軍となった。
炎に包まれたからか、アサイル軍が川を越えて勇猛果敢に攻めてきた。
「3段目まで突破されました!」
我がオデル正規軍は13段構え。縦に深く陣を敷く。
「魔石銃とボウガンを見舞え!」
「突入者はスピアで串刺しにしろ」
オレはしばし、魔力の回復に努めた。
イグニスは強魔法だが、体力の消耗も激しい。
「敵先鋒、本陣目前!」
熱さから逃げるべく突進してきたと思っていたが……。
――実際アサイル軍は白兵戦の評価が高い。
剣とスピアに長けた猛者揃いだ。
激しい白兵戦で、システンリバーは深紅に染まる。
「突破されます!」
敵が本陣に近づいてきた。
「トヨルドはキャノン砲連射しろ!
「アデル、フルーメンを放て!」
大技は炸裂するが、その隙に敵の白兵部隊が迫りくる。
「止まりません!」
いかん! 聞きしに勝るアサイルの白兵部隊の勇猛さよ。
まだ回復したりないが、イグニスを放つか?
全回復まで待って、イグニス・フランマにすべきか?
背中に冷たい汗が滲む。
……決断が揺れる。
「オデルはどこだーーーー!」
敵の巨漢兵がオレを探している。
あいつが白兵戦で11段も突破してきた猛者か。
……また、退却なのか?
その時――、
「待たせたな! オデル公爵」
「借りは返す主義でな」
トスクブルグ侯爵の軍勢が現れた。
「アサルドの軍は撃破した! 退却している」
「オデル殿、加勢いたす」
た、助かった。
そう言えば、前世でも助けられたか。
援軍が来て勢いが戻る。
ハプスブルグ、ウインザー、カルーセルの白兵部隊が押し返す。
「追撃しろーーー!」
盛り返したオデル軍はアサルド軍を追い立てた。
「逆賊アサイルの首を取れーーー!」
反撃だ。
アサイルを打ち取り、妹を返してもらう。
裏切り者のところに置いておけない。
「アサイルが敗走しました!」
チックショウ! 今度は奴らが逃げたか。
――アサイル軍は脱兎の如く逃げおせた。
「オデル殿、無事で何より!感激です!」
――トスクブルグ……大袈裟だな?
……そうか、報酬を弾めと言う事か。
「命を救われた。マイローの隣りの地を与える」
救われた分の恩は返さないと、裏切りを誘発することになる。
「ありがとうございます。……教皇様にお気をつけてください」
予期せぬ返答が来た。
しかし、その通り。
……この戦いでも決着がつかなかった。
これによりオレの包囲網が固まった。
アサルド・アサイル同盟
そして、アシリア皇帝
それから、見逃せないのがドワーフの勢力と
教皇・エルフ同盟だ。
アサルド・アサイルはしばらく大人しいだろう。
しかし、教皇・エルフの同盟は権威の隠れ蓑があり、質が悪い。
捨て置けない。
オレのことを教皇の権威を軽く見るうつけ者と見ている。
――実際その通りなのだが……。
次は――
神の威を借る連中を、地に引きずり落とす。




