表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/30

緊迫

「おぼっちゃまが勘違いしないように、これを渡してきてくれ」


 オレはアデルを呼びつけて書状を渡した。




 「内容を検めてよろしいですか?」


 アデルは丁寧な笑みを投げかけた。




 「付け足すことがあるか確認しろ」


 アデルは頭がいいからな。




 16の要求がある。


 前世では、アシリア皇帝が勝手に命令を出したりして内乱になったからな。


 同じ轍は踏まない。



 16あるが簡単に言うと、こういうことだ。


 1. オレの許可なく皇帝にナイトが会ってはいけない。


 2. オレの許可なく皇帝がナイトに命令を出してはならない。


 3. 功のあったナイトへの褒美はオレが差配する。




 「さすがにございます」


 アデルは感服して手を突いた。


 凛としたまま、オレに平伏している。


 オレは、それが本心からなのかを見極めたい。


 視線や口元の動きを探りたいが下を向いていて分からない。


 わざと読まれないようにいるのか?


 いやいや、勘ぐり過ぎだろう。


 疑心暗鬼になり過ぎるのも疲れる。



 「褒めるということは、完全にオレの家臣となったか?」


 オレはアデルの目に宿るもの見定める。




 「アシリア皇帝はいずれ身をやつすかと……っ……」


 一瞬「はっ」として言葉を止めた。


 何を呑み込みたかったのか?


 アデルは口元を手で覆った。




 「もちろん、飴も用意している」


 オレは知らんふりをして、不敵に笑った。




 「ルイに城を与える」


 かなりの贈り物だ。




 しかし、


 ――これにはアデルは驚かなかった。


 普通ではない贈り物だと思うが。




 「この間のように、ルイが襲われては危ない」


 先ごろアシリア皇帝は仮住まいを襲われた。


 今のボロ屋では守りにならない。




 「鉄壁の浮遊城を作るのだ」


 ――これにもアデルは眉すら動かさない。




 「皇帝を守るには浮遊城は最適でございますな」


 反発する魔力で浮遊する城は守りが固い。


 攻め込みづらいし、移動もできる。




 常に命を狙われる存在だ。


 ――オレの傀儡として守らねばならん。




 「うまく丸め込めるか?」


 「お任せください」


 自信に満ちた笑顔で答えてきた。




 「1つに、天下の静謐のため」


 つまり、皇帝を矢面に出さない為。




 「2つに、悪臣を払うため」


 つまり、面倒臭い奴らから皇帝を守る為。




 「オデル様はアシリア様のサポーターであると」


 アデルはオレの顔を見詰めた。




 「良いストーリーだな」


 オレもアデルを見つめ返す。




 「操り人形であることに気付かぬよう転がすのだ」


 オレの本音にアデルの表情を窺う。




 「私はオデル様の命に従うだけです」


 相変わらずクールな奴だ。


 トヨルドのような面白みに欠ける。




 「トヨルドを呼べ」


 築城はトヨルドに任せる。




 「浮遊城を90日で造れ」


 と言って図面を渡した。




 「お急ぎですよね?」


 トヨルドは目の動かない笑みを作る。




 「アシリアに何かあったら面倒だからな」


 と言ってトヨルドを見据える。


 ――お前は前回もそうしたのだよ。




 「60日で造りましょう」


 何? 声も大きく自信に満ちている。




 「策があるのか?」


 鼓動が早くなる。どういうことだ?




 「亜人を使います」


 トヨルドはドヤ顔で答えた。




 「お前は、亜人を使えるのか?」


 前世でそんなこと言ってなかった。




 「亜人とのネットワークを持っています。」


 初耳だ。




 「いつそんなものを作った?」


 聞かずにはいられない。




 「オデル様と違って、卑しい私にはもともと縁があるのです」


 トヨルドの顔が慇懃に歪む。




 「お前は亜人たちに命令ができるのか?」


 半獣半人の民をコントロールできるとは思わない。




 「亜人奴隷の市場があるのです。そこで100くらい購入します」


 こともなげに答えた。




 「亜人は金で買える。金は裏切りませんからね」


 その笑みは、どこか歪んでいた。




 まったくトヨルドは底知れぬところがある。


 アデルと共に注視しなければ。




 亜人のドワーフは情で動く、見誤らなければ良いが。




 ◇




 オレはアシリアを皇帝として宣言させた。




 全国のロード達に通達を出す。


 メットにいる我々へ挨拶に来るように。


 貢ぎ物を持って、馳せ参ずるように。




 これはオレの力を計る踏み絵だ。


 何人のロードがオレに従うか。


 現時点の試金石になる。




 「まだ顔を出さないロードは?」


 イラつきながらアデルに尋ねた。




 「タケル、ウエルシア、モウルド、アサルド。」


 「うぬぬ、舐めやがって」


 鉄の扇子で地面を叩く。


 椅子を蹴飛ばす。




 蹴った椅子が、思わずアデルに激突する。


 アデルは痛みで顔をしかめうつむく。




 ――たまたま、その椅子は銀製品だった。


 椅子が重たかったから、アデルはさぞ痛かっただろう


 ……ということではない。




 うつむいたアデルの顔が銀に映りこんだ。


 ――目に炎が揺らめく怨嗟の形相。


 一瞬だけであった。




 顔を上げると、アデルは何事もなかったように答えた。


 「しかし、いずれも実力者。簡単にいきません」




 「分かっている。ひとつひとつ潰して行く」


 背筋に冷たいものが流れたが何食わぬ顔で答えた。




 ――アデルの手前ハデに怒る。  


 分かっていることだ。




 「まずはアサルド伯爵から」


 「旧世代にはご退陣いただく」


 立ち上がってアデルを見下ろす。




 「アサルドはかつての主君だろ。大丈夫か?」


 アデルの表情の変化を窺う。




 「私はアサルド様に見切りをつけてアシリア様に付きました」


 「そして今は、オデル様に付いております」  


 ――そう考えると裏切り尽くめだな。




 「わたしは、アサルド軍を熟知しております」


 アデルは表情を変えずオレを見据えた。




 「アサルド攻略はお任せください。」




 「分かった、ところでアサイル伯爵に援軍を頼めるか?」


 アデルの頬が、わずかに瞬く。


 「承知いたしました」


 その声は静かだったが、指先だけがわずかに震えていた。




 「アサイル伯爵にはオレの妹が嫁いでいる。親戚だ」


 「あと、トスクブルグ男爵にも援軍を頼め」


 オレは万全を尽くしたはずだった……。




 ◇




 「出陣じゃ!」


 先陣はいつものハプスブルクとカルーセルに任せる。




 中盤にアサイルとトスクブルクの援軍チーム。


 殿しんがりにトヨルド、アデルの新参コンビという布陣だ。




 この鉄壁の布陣ならアサルドに負けるはずはない。




 しかし、


 ――前世でまさか、親戚のアサイルに裏切られたのだ。


 突然裏切ったアサイル軍が、オレの首を狙った。


 わが軍は挟み撃ちされ、崩壊した。




 あの時、10人のお供だけ従えて、命からがら逃げたのだ。


 アデルとトヨルドの殿が命がけでオレを守ってくれた。


 ――分かっていても、あの地獄をもう一度体験したくはない。




 何か良い策はないか?






 ――この布陣、この距離、この空気。


 すべてが、あの日と同じだった。




 オレは何の懸念もない顔をして、しらばっくれる。




 ――アサイルの軍旗が、ゆっくりと反転した。




 「……やはり、始まりましたか」


 アデルは、微かに笑っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ